第7話 今の強さ
「よし、お前が最後だな。」
「はい。よろしくお願いします。」
いつものように、剣を正眼に構える。
「…はぁ~。こいつもかぁ~。」
デランさんが目つき鋭く、構えた。
今までの構えとは違う。軽く身をかがめ、腕をだらりと脱力させた構えだ。
「…参ります。」
「来い。」
一陣の風が吹いた。
「「フッ」」
同時に一歩踏み出す。
カコーーーーーンッ
木剣同士がぶつかる軽快な音が、修練場に響いた。
刃と刃が真正面から噛み合う。力比べは一瞬。互いに無理をせず、すぐに剣を滑らせて間合いを外した。
「シッッ!!」
デランが攻勢に出る。
彼の刃は、縦横無尽に走る。
型に捕らわれず予測できない軌道で斬り込んでくるその剣は、ヒルマの剣とは全く違ったものだった。
カコーンッビキッ
ぶつかり合う音が響く。
ヒルマは冷静に、集中して剣戟をいなして行く。
ここだ。
突如、ヒルマが大きく剣を弾いた。
筋力強化と身体強化を使用した、強烈なカウンターだ。
「ぐっ!!」
突然、膂力と動きの変わったヒルマに、デランが驚愕し、一瞬硬直する。
一転攻勢、重い斬撃の雨がデランを襲う。
右、左、低く、そして高く。
連撃の最後、突如背中に回り込むような動き。
――速い。
だがデランはこれに反応し、振り向きざまに剣を横に払った。
狙いはそう、間合いだ。
ヒルマは咄嗟に跳び退いた。
ニヤリ。デランが笑う。
「もらったッ」
デランが、ヒルマの懐に飛び込んだ。
その瞬間、デランは見た。
ヒルマの口角が、つり上がるのを。
暗黒の森、その中層でオーガとサシでやりあったときぶりに、
デランの背筋に冷たいものが走る。
――殺られる。
眼前に迫るのは剣ではなく、「拳」だった。
魔力が込められた、拳。
当たれば、死。
「そこまでェッ!!!!」
ビタリ。
眼前で拳が止められた。
「…ッす、すみませんッ!つい熱くなって…!」
「…いや、いい。完ッ全に俺の負けだ。俺も熱くなっちまった。監視員が止めてなけりゃ、タダでは済まなかっただろうがな。」
「ほ、本当に申し訳なく…。」
「良い良い、本当に申し訳無いと思うなら、今度酒でもおごってくれ。合格だ。お前もさっきのおっさん同様、Dランクに推薦する。正直、今すぐCランクでも普通に通用すると思うがな。」
ついつい熱くなって、あと少しでデランさんを《《殺して》》しまうかもしれないところだった…。ただ、ユニークスキルなしでも、Cランク冒険者に通用するほど強くなれたことを知れたのは大きい。
「よし、これで試験は終了だ。お前ら全員合格。冒険者として、よく励むように。この後カウンターで新しいタグ受け取ってけよ。あ、おっさんとヒルマ、だったか?二人は明日受付に行け。審査があるから、今日はもう解散だ。あ~疲れた…。」
そういうとデランさんはギルドの中へ入っていった。残る若手の冒険者たちもそれぞれ、うれしそうに受付へ向かった。
「いやぁ~ぼっちゃん。お見それしやしたぜ。」
「何を言うんですか。アクトゥさんもなんですかあの動き。初めて見ましたよ。」
「まぁ、暗さt…暗部の者しか使えない特殊な歩法でさぁ。」
今、暗殺者って言いかけなかった?
「それよりぼっちゃんですよ。最初は泊付けのために参加したどこかの豪商か貴族のぼっちゃんかと思ってやしたが…いやぁ驚きですぜ。」
「そんな風に思ってたんですか…。まぁ、とりあえず僕たちも解散しましょう。なんだか今日はもう疲れました…。」
「おっ、それなら少しギルドに寄っていきやせんか。実は恥ずかしながら、もう金が無くてですね、明日タグを受け取ったらすぐ、何か依頼を受けようと思ってるんですよ。ぼっちゃんもいっしょにどうです?」
確かに、僕も路銀は心許ない。アクトゥはかなりの手練れだし、一緒に組んでも損はなさそうだが…。う~ん、いささか不安が残る。
「な、なんでやすか。ま~だ疑ってるんですかい?はぁ~もう、そんな疑り深いんじゃモテませんぜ?」
「も、モテるモテないは今関係ないじゃないですか!もぉ~いいですよ。とりあえず一回、一緒に依頼を見に行きましょう。僕たちが受けられる依頼があるかどうかも分からないですし。」
「おっ!そうこなくっちゃ。早速見にいきやしょう!」
ギルド内に入り、依頼票が貼られた掲示板を見に行く。
依頼を受けるときは、ここに張り出されている依頼票を剥がし、受付へ持って行くことで受けることができる。
「う~ん、どんな依頼がいいかなぁ。」
「あっしらはDランク査定中といえども、駆け出しであることに変わりはありやせん。まずは肩慣らしついでに、そこまで難易度が高くない案件がよいでしょうな。」
依頼票の内容に目を滑らせていく。
飼い猫探し、Gランク。
薬草数種類の採取と納品、Fランク。
暗黒の森浅層~中層の調査、Cランク以上。
ワイバーンの討伐。ワイバーンの討伐!?うわ、Bランク以上依頼だ…。
「ちょ、ぼっちゃん。なんちゅう依頼見てるんですか。あっしらなんかが敵うわけないでしょうに…。」
「わ、わかってますよそれくらい!ちょっと気になっただけです!」
「ほんとでやすか~??」
な、なんだそのジトっとした目は!
「ほ、本当ですって!!そもそも僕たちの攻撃が通るとは思えないし、だいたい、どうやって魔法や弓矢もなしに空を飛ぶ相手に攻撃するんですか!!」
「分かってるならいいんでやすがねぇ…。」
…脳裏にあのスキルがチラつく。あのスキルは絶対使わない。
あのスキル前提の考えなんて、捨てなきゃダメだ。
「おっ、これなんかちょうど良いんじゃないでやすかね?」
アクトゥが一つの依頼票を指さした。
「ゴブリンの巣(初期)の駆除、Dランク以上、ですか。」
確かに、ちょうどいいかもしれない。
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ゴブリンは一匹程度であれば、そこまで手こずる相手ではない。Eランクの冒険者でも討伐できるだろう。しかし、真の厄介さは、旺盛な繁殖力から来る数の暴力だ。
ゴブリンは同族のメスでなくても、“魔物のメス”であれば繁殖することが可能なのである。
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人間は対象外!!一部の読者諸君、残念だったなッ!!
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そのため、ゴブリンは集団で行動することが多く、簡易的な村のような巣を作ることがある。洞窟を巣とすることもあれば、簡易的な家屋を建造して、集落を形成することもある。
一定期間それらの巣を放置すると、ゴブリンの上位種であるハイゴブリン、ゴブリンソルジャーやゴブリンメイジ、果てはゴブリンキングが誕生してしまう。
これらが誕生した巣は、Bランク以上の冒険者パーティでなければ太刀打ちができない。かつて、ゴブリンの王国により、一つの中規模の街が落とされ、その街の人間のほとんどが食料として屠殺、残りの一部は奴隷として生きたまま飼育された事件があった。
当時のSランク冒険者によって街は開放されたが、奴隷となっていた人々に五体満足な者はおらず、軒並み精神を病み、まともな状態ではなく、人としての生活ができなくなっていた。惨状を目の当たりにしたSランク冒険者は、慈悲として、彼らを苦しまずに葬ったという。
以上のことから、ゴブリンは最弱の魔物の一種でありながら、至急駆除しなければならない厄介な魔物なのである。
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「よし、この依頼にしましょう。まぁ、明日まで残ってたら、ですけどね。」
「分かりやした。では今日と同じ、10:00にここ集合でどうでやすか?」
「大丈夫です。では、よろしくお願いします。」
「へい、こちらこそ。」
こうして、冒険者として初めての依頼が決まった。
作者のおしり炒飯と申します。
どうぞよろしくお願いいたします。
本作、カクヨム様にて、先行公開しております。
続きが気になりましたら、ぜひ下記よりご覧ください。
https://kakuyomu.jp/works/822139844400383614




