第6話 Eランク認定試験とおっさん
宿での朝食を済ませ、軽く水浴びをし、簡単な素振りをしてからギルドへと向かう。
ギルドの修練場は事務設備棟の後ろに併設されている。村の修練場とは違い、床は石畳になっており、とても洗練された印象を受ける。
「みんな認定試験の参加者なのかな…?」
すでに何人かの人が集まっている。
中には純粋に、修練をしに来ている人もいるだろうが…。
「おっ、ぼっちゃんも認定試験参加者ですかい?」
…集まっている人の中でも一番怪しい風貌の男に話しかけられてしまった。
使い古されたようなフード付きの外套、腰には短剣。白髪交じりの長髪を後ろで結った、猫背で細身の無精ひげおじさんだ。
「…ええ、そうです。」
「そんなに警戒しないでくだせぇよ。見てくれは小汚ぇおっさんで、背筋はひん曲がってますが、心根はまっすぐですぜ!」
口調からして怪しさしか感じないんだよなぁ…。
「そ、そうですか…。えーっと…」
「おお、自己紹介が遅れやした。あっしはアクトゥ。斥候職メインの駆け出しでさぁ。」
う~ん、この歳で駆け出し…?
「おっと、言わんとしてることは分かりやすぜ。この歳で駆け出しなのが腑に落ちないんでやしょ?」
ギク。顔に出てたかな?
「え、えぇまぁ。」
「実は最近まで、さる貴族お抱えの暗部に所属したんですがね、ちょいとやらかし
ちまいまして、劇的な逃亡の結果、流れに流れてここまで辿りついたんですよ。」
…この人、ここにいていい人じゃなくないかな…?
「そ、そうですか…大変だったんですね…。」
「そりゃあもう。でもこれからは冒険者として、頑張っていく所存でやす!そういやぼっちゃん、お名前は?」
名乗りたくないなぁ…。
「ヒルマです。」
「ヒルマのぼっちゃん。冒険者の同期として、よろしくたのみまさぁ!」
僕とアクトゥは、熱い(?)握手を交わした。
「Eランク認定試験参加者は集合してくれ!」
どうやら始まるようだ。
集合をかけたのは、皮鎧を着た坊主頭の冒険者だ。
「よし、これで全員か?俺はデラン。Cランク冒険者だ。今回の認定試験教官の依頼を受けたものだ。これから認定試験の内容を発表する。Eランクは討伐依頼が解禁されるランクとなっている。そのため、最低限の戦闘能力を持つことが必須だ。今日はその最低限の戦闘能力を持つかどうかを判別するために、俺と模擬戦をしてもらう。」
なるほど、Cランク冒険者との模擬戦が試験内容か。
Cランクといえば、ベテランの中のベテラン冒険者。強いに決まっている。
「各自、木製の得意武器を選んで持ってくるんだ。自信のある者から挑んでこい。魔法でもスキルでも、なんでも使ってきていいぞ。ただ、俺かあそこの監視員がやめ、と言ったらその瞬間攻撃をやめること。また、俺に負けたからと言って不合格にはしない。あくまで最低限の戦闘能力があるかどうか確認するだけだからな。」
そりゃそうか。
さすがに僕も、いきなりCランクの冒険者に勝てるとは思っていない。
「ヒルマのぼっちゃん、武器を選びに行きやしょうぜ。」
「え、ええ。」
僕は長剣を、アクトゥは短剣を選んだ。ほかの冒険者たちも、思い思いの武器を選んでいる。こう見ると、やはり若い人が多い。というか、アクトゥ以外はみんな若い。
「よっしゃ!!俺から行かせてもらうぜ!!」
短髪で大柄な青年が、斧を持って前に進み出た。
なんだかビリーを彷彿とさせる。
「おう、どんどん来い。」
対するデランさんは僕と同じ長剣だ。
「ウォラッ!!!!」
青年が斧を振り上げて試験官であるデランさんに突貫した。
「フッ」
デランさんは軽い動きで横にずれてこれを回避した。
「まだまだぁッ!!!」
地面に叩きつけた斧を、力任せに横薙ぎにする。
ブオンッという風切り音が聞こえる。
「よいせっと。」
デランさんはこれを、片手の動きだけでいなし、そのまま斧の柄に長剣を滑らせた。
「うっ!!」
滑る長剣は気づけば、青年の首元に突きつけられていた。
「はい、終了。合格だ。ただ、力に頼り切らないことだな。刃の部分を叩きつけるだけで無く、柄や石突、すべてを活かして戦えるように練習しろ。あとは脚さばきなんかもだな。」
「ッ!!あ、ありがとうございましたッ!!!」
青年の目はキラキラしている。確かにデランさんの戦い方はスマートで。かっこよかった。
…かっこよかった、が。
おそらく、兄さんより弱い。まぁこれは模擬戦なので、実戦においてはどうか分からないけど。
青年は、僕の村の誰よりも弱いと感じた。
同じ斧使いでも、ビリーがどれだけ卓越していたのかが分かる。
やはり、日々戦いながら生きているイトラーク村の住民がどれだけ強かったかを、身にしみて感じる。
「よし次だ。じゃんじゃん来い、じゃんじゃん。」
それから若い冒険者たちが次々にデランさんに挑みかかった。
「炎よ!敵を焼け!ファイアボール!!」
「フンッ」
「う、うそぉっ!?」
なるほど、剣を純粋な魔力で覆うことで、魔法に干渉して斬っているのか。
…あれ、父さんや兄さんはそのまま斬ってた気が…まぁいいや、これなら僕も真似できそうだし、今後使わせてもらおう。
魔術師の女の子や、槍使いの青年が挑むも、すべて返り討ちにされた。
しかしながら、説明された通り、戦闘能力アリとされて合格となった。
「んじゃ、次はあっしが。」
アクトゥが気負う様子も無く前にでた。
「…あー、まぁいいや。来い。」
デランさんの纏う雰囲気が変わった。
「んじゃ、失礼しやす。」
ぬるり。
そう表現できる動きで、アクトゥがデランさんに接近した。
初めて見る動きだ。
「げぇっ!」
デランさんがはじめてその表情をゆがめた。
「シッ!!」
鋭い呼気と共に、木製のナイフが振るわれる。
「舐めんなおっさんッ!!」
デランさんが剣で思い切り弾いた。
「あんたもおっさんでやしょうにッ!!」
弾かれたナイフが飛んでいく。
が、すでに反対方向からもう一本のナイフが振るわれていた。
「見えてんだよッ!!」
ぐりん。
デランさんが首の動きだけでそれを回避し、
「やめやめ!!!」
ピタリ、とアクトゥが動きを止めた。
「す、すげぇ…!」
「何者だ、あのおっさん…。」
ほかの参加者たちがざわついている。
さすが、元暗部…Cランク以上の実力はあるだろう。
「あ~もう合格合格、Eランクにいて良い存在じゃない。俺の方からDランクに推薦しておく。おっさん、名前は?」
「アクトゥでやす、試験官のおっさん。」
「おっさんじゃねぇ!!うるせぇぞこのおっさん!」
…おっさん同士の醜い言い争いが続く。
「もういいもういい、次だ次!」
残っているのは、僕だけだった。
作者のおしり炒飯と申します。
どうぞよろしくお願いいたします。
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