第4話 15歳、旅立ちの日
「そこまでっ!!!」
「クソッ!!!」
修練場に声が響く。
肩で息を切らし膝を突いているのは、ビリーだった。
村を出る決意をしてから、さらに三年が経った。
15歳になった僕は今日、ついにビリーに勝利した。
この三年間で僕が獲得した後天性スキルは、次の通りだ。
剣士(3級)
拳徒(4級)
魔徒(4級)
軽身(4級)
魔力操作(4級)
筋力増強(4級)
集中(5級)
忍耐(5級)
僕の持てるすべてを、すべてを強くなることに注いだ。
強くなること以外は、僕にとって雑音だった。
ただ強くなることだけを考えた三年間だった。やめたいなんて思わなかった。
原動力はこの村にたくさんあった。
どこに行っても嘲笑と憐憫の目を向けられる環境は、幸か不幸か強くなるにはよい環境と言えた。
「…チクビナイトのくせにッ…!調子に乗るなァッ!!!」
ビリーが突如、斬りかかる。
ただの攻撃ではない。
スキルを使った、「人を殺せる攻撃」だ。
「死ねッ!!巨木割ッ!!」
大上段からすさまじい速度と質量を伴った斧が迫る。
まともに食らえば、体が真っ二つになるだろう。
「よせッ!!!」
父さんがすかさず割って入ろうとするが、
さすがに、《《僕の方が早い》》。
僕には、見えていた。
ただ、横に避けるだけでよかった。
殺されそうになったんだ。
僕も黙ってはいられない。
「君が死になよ。」
「ッ!!?」
床スレスレの低い姿勢から、
肉食獣のような加速をもって突きを放った。
「ぐぼぉぁっ!!!!」
ビリーは吹き飛び、修練場の壁に激突した。
「安心しなよ。ただ柄で殴っただけだ。」
「ッ...チク、ビ、野郎が...。」
ビリーは動かなくなった。
もう聞き飽きたなぁ、その蔑称。
そもそも、チクビナイトって何…?
チクビーム+騎士爵の息子=チクビナイト、なんだろうけど…。
ああ、オークを守ったときの僕の発言も関係しているのかな?
「…。」
父さんは、動けずにいた。
何も、言ってくれないんだね。
最後の半年は、誰も僕に対して陰口を言わなくなった。
憐憫の目は、いつからか異常者を見るような目に変わっていた。
今や僕はこの村で三番目の強者となっていた。
この村で僕に勝てるのは、兄さんと父さんくらいだ。
「強くなったな、ヒルマ。」
「…兄さん。」
兄さんとまともに言葉を交わしたのは、いつぶりだろうか。
「俺と、模擬戦をしないか?」
ちょうどいいや。
「うん。僕も兄さんに模擬戦をお願いしようと思ってたんだ。」
僕は今日、兄さんを超えて、この村を出る。
「相手の四肢を欠損させるような攻撃、眼球を潰すような攻撃は避けるように。魔法はなし。命を奪うような攻撃もだ。」
いつもより低い声の父さんが、聞き慣れた注意をする。
兄さんは両手に木剣を持って構えた。少し短めのショートソードだ。
僕はいつも通り、両手持ちのロングソードを正眼に構えた。
「…始めッ!!!」
ドンッ!!
砂を踏む音が、二つ重なった。
先手を取ったのは兄さんだった。左右の剣が連なり、刃の軌跡が細かく空を裂く。間合いに入る速さ、斬る角度、どれも洗練されている。迷いがない。
僕は後退しながら剣を立てる。
剣を振り回すことはしない。刃を盾に、集中のスキルで剣先の動きを読み、最短の動きで双剣を受け止め、弾き、距離を保つ。
剣戟の激しさのあまり、細かい木片が舞い、焦げ付いたような臭いが漂い始めた。
双剣は一撃ごとに角度を変え、隙を探す。
僕は一撃ごとに地を踏みしめ、軸を崩さない。
互角だった。
兄さんがギアをあげた。
一歩、踏み込みを深くする。
右、左、低く、そして高く。
連撃の最後、背中に回り込むような動き。
――速い。
だが僕は、振り向きざまに剣を横に払った。
我武者羅な大振りに見えて、そうではない。狙いは間合いだ。
兄さんは咄嗟に跳び退いた。
そこだ。その隙を待っていた。
僕は筋肉増強により強靱になった脚力、魔力操作によって会得した身体強化をフルで活かし、兄さんの懐に飛び込んだ。
しかし、兄さんの口角が、上がった。
これも読まれていたかッ!
おそらく兄さんも身体強化を用いたのだろう。
恐るべき速度で双剣が迫る。
僕の剣は間に合わない。距離が近すぎて、兄さんの剣を受けられない。
ならば。
僕は、剣を手放した。
剣を手放し、拳に魔力を纏わせ、兄さんの胴に一撃。
ドッ、という衝撃と共に、兄さんが吹き飛ぶ。
剣が地面に落ち、カランカラン、と音を立てた。
兄さんはまだ立っている。自分から後方に飛び、衝撃を逃したのだろう。
おもむろに、兄さんが双剣を逆手持ちへと変えた。
空気が変わる。
双剣から冷気が溢れる。パキパキと凍り付き、肌がひりつくのを感じる。
兄さんが顔を上げた。
兄さんは、凄絶な笑みを浮かべていた。
兄さんが一歩、踏み出そうとしたとき。
「…そこまでッ」
「!?お、親父!!今からが良いところなのに!!!」
「馬鹿者。模擬戦で魔法剣を使うやつがあるか。一撃もらっている。お前の負けだ、ガルマ。」
修練場がざわつく。この村で二番目に強い兄さんが、模擬戦とは言え父さん以外に敗北したのだ。
「く、くっそ~~~~~~!!!」
危ないところだった。【スイッチが入った】兄さんに勝てるとはまだ思えないし。
でも、通常時の兄さんには勝てるようになった。
うん。ちょうど良いな。今が、今日がベストだ。
「父さん、兄さん。今までお世話になりました。」
「…ヒルマ、何を言っているんだ?」
「僕は今日、この村を出て行きます。この五年間必死に修行をして、今日兄さんを破ることができました。真剣だったらまだまだ敵わないと思うけど、国でも名の知れた兄さんから一本をとれた。これなら自分一人でも、生きていける。強くなるための最低限の下地はできたと思います。これからは自分なりに、自由に世界を回って、強さを求めていきたいのです。」
「…。」
周囲のざわつきが大きくなる。
「お前は強くなった。この村で戦士として、十分にやっていける。考え直してはくれないか?」
「本気で言っているのですか?」
静かな怒りが湧いてくる。
「父さん。本気で、言っているのですか?僕がこの村でどんな風な謂われを受けているか、ご存じでしょう?」
父さんが目をそらした。
「あの日から、僕にあの忌まわしいユニークスキルが発現した日から、僕はずっと、ずっと耐えてきました。強くなること…。それだけが、僕の心の支えでした。僕をこの歳まで育ててくれたこと、強くなるために指導してくれたこと。本当に、本当に感謝しています。でも…僕は、ここにはいられない。」
父さんも兄さんも、何も言えない。
重苦しい沈黙が、修練場を支配している。
「あなたから、あなたたちから憐憫の目を向けられるのは、これ以上は耐えられない。守るべき民から蔑まれ、嘲笑され、何が正しいのか分からなくなってしまいそうだ。」
周囲の村人たちから視線が集まる。
「覚えています。あの日の父さんの、失望したような顔を。笑いをこらえる兄さんの顔を。」
「そ、それはッ」
父さんはハッとしたような顔で声をあげる。
「うっ…。」
兄さんは気まずそうに顔をそらした。
「いいんです。仕方ないと思います。こんな嫌みな言い方になってしまって、申し訳ございません。分かってはいるんです、頭では。大人げないことを言っているということも。それでも、どうしても忘れられない。あの日から僕は、捕らわれてしまっているんです。自由に、なりたいんです。僕は自分の意思で、今日、この村を出て行きます。もう戻ることはないでしょう。」
「「…。」」
呆然とする様子の二人とざわつく村人たちを置いて、僕は自宅へと戻った。
「母さん。お話があります。」
「…行くのね?」
「…はい。今までお世話になりました。今日、僕はこの村を出ます。」
母さんは、僕の思いに気づいていたようだ。
「そう。なにも、なにもしてあげられなくて、ごめんなさい。」
「…いえ、母さんが教えてくれた魔力操作のおかげで、今日初めて、兄さんから一本とれました。」
「そう。ガルマから一本を…。 強くなったのね、ヒルマ。」
母さんの目が潤んでいる。
「では、行きます。もう、帰ることは無いと思います。それでも、それでも手紙くらいは、出すつもりです。」
「わかったわ。どうか、どうか元気で。体に気をつけて。いつ帰ってきても、いいからね。」
「…はい。行ってきます。」
僕は母さんの部屋を出た。
「行ってらっしゃい、ヒルマ。」
作者のおしり炒飯と申します。
どうぞよろしくお願いいたします。
本作、カクヨム様にて、先行公開しております。
続きが気になりましたら、ぜひ下記よりご覧ください。
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