第3話 二年後、模擬戦
「おい、今日も来たぞ。」
「チクビナイトくんだ。よくまぁ毎日のように顔を出せるな。」
僕の鑑定の儀から、二年が経った。
鑑定の議、そしてオークから村を守ったあの日。
あの日から、僕は、この村の笑いものだ。
どこに行っても陰口をたたかれ、嘲笑された。
家族の空気感も一変した。鑑定の儀までは父さんも、兄さんも、母さんも、僕に期待してくれていた。
「ヒルマ、お前はきっと父さんを超えるぞ。なんだかわからんが、そんな気がするのだ。」
「ヒルマ、俺たちで最強の兄弟剣士になろうぜ!楽しみだな、お前と肩を並べて戦うのが!」
「ヒルマ、あなたならきっと、素晴らしいスキルを発現させられるわ。そのスキルを活かして、父さんや兄さん、村の戦士たちと共に、多くの人々を守るのよ。」
かつてはこんなに期待してくれていたのに、今では腫れ物扱いだ。
罵倒されたり嘲笑されたりはしていない。表面上は今までと変わらなく見える。
しかし、僕は気づいている。
家族が僕を見るときの、憐憫の視線に。
「ヒルマ、今日も来たのか。無理をしなくてもいいんだぞ。」
「いえ、無理はしておりません。強くなるために必要だから、来ているんです。」
「そうか…。」
僕は今、この村にある修練場と呼ばれる戦士たちの稽古場に来ている。
ここは村人ならば誰でも利用することができ、多くの戦士たちが木剣や木斧等で打ち合いを行っている。
この修練場主は僕の父さんだ。
父さんは領主業の傍ら、ここで剣術を中心とした武術を教えている。
ジロジロと見られているのを感じる。まぁ、いつものことなのでもう慣れてしまったけれど。
「ビリー、ヒルマの相手を頼む。」
「え、あ~、了解っす。」
斧術士のスキルを持ったビリーが、木斧を持って僕の前に立つ。
ビリーは斧術士にふさわしいように、12歳にしてはかなり大柄な体躯に成長していた。
その体躯から繰り出される一撃は、とても強力で、ゴブリン程度なら一撃で仕留められるだろう。
「いつもと同じになるが、相手の四肢を欠損させるような攻撃、眼球を潰すような攻撃は避けること。魔法の使用はなし。もちろん命を奪うような攻撃もなしだ。」
ビリーが構えた。
両手で握った斧は刃を落とした木斧だが、その重みを知り尽くしているように、構えは低く安定していた。足運びに無駄がなく、重心がぶれない。斧術の稽古を積んできた者の立ち姿だった。
僕は木剣を両手で持ち、正眼に構えた。
「それでは、始めッ!!」
父さんの合図と同時に、僕は飛び出した。木剣を正中線に走らせ、迷いのない突き。
斧という武器の特性上、その攻撃はどうしても大ぶりになる。剣の方が取り回しやすく、重厚な鎧もないこの模擬戦において、剣の方が圧倒的に有利だ。
「フッ!」
そう、「スキル」が無ければ。
ビリーは一瞬だけ目を細め、すぐに斧の柄でその剣を横に払い、小手を狙った僕の斬撃をいなした。切っ先が逸れる。
流れるような動きで、僕の脚に対して斧が振るわれる。
すんでのところで身をそらし、強引に躱す。
「…フゥー…。」
細く、息を吐く。
僕はこの二年間、剣術を猛特訓した。血の滲むような鍛錬のおかげか、4級スキルである「剣徒」のスキルを手に入れた。それでも、父さんや兄さん、いや、ビリーにすら及ばない。
「ヒュッ」
流れを、戻す。
斜めの斬り下ろし。型をなぞるような連撃。この二年間、繰り返した動きだ。
剣徒のスキル補正もあり、その流れは淀みない。
カコン!コン!
木剣と木斧がぶつかる小気味良い音が響く。
「ふんっ!」
ビリーが強引に仕掛ける。
息が乱れた一瞬の隙を読んだ踏み込み。
唸る斧、横薙ぎ。
風を裂く音が低く、重い。
僕は反射的に後退し、木剣で受け流そうとする。だが斧の重さが腕に伝わり、体勢がわずかに崩れた。
その隙を見逃すほど、ビリーは甘くない。
地面を踏み直す間もなく、斧はもう一度、今度は上から振り下ろされる。
――速い。
歯を食いしばり、剣を立てて受ける。受け流すことができず、衝撃が腕から肩まで響き、膝が沈んだ。
まだだッ!
剣を離さず、相手の懐を意識して半歩踏み込む。
短い突き。
斧の少年はそれを読んでいたかのように、斧の柄で絡め取る。
まずいっ
体がつんのめって、バランスを崩す。慌てて体勢を整えようとしたとき、首後ろに木斧の刃が当てられた。
「…そこまで。」
負けた。
何度目かもわからない、敗北。もはや悔しさすらも薄れてしまった。
「…ありがとうございました。」
互いに頭を下げ、僕はきびすを返した。
「…いい加減、諦めりゃいいのに。」
ぼそっとつぶやかれた声を、僕の耳が拾った。
諦めない。
諦めるわけには、いかない。
あんな、あんなふざけたスキル、使ってなるものか…!
僕はあの日、初めてユニークスキルを使ったあの日、決意した。
ふざけたユニークスキルなんか使わずに、強くなってみせると。
「…剣術だけじゃ、ダメだ。」
この二年の努力の末に獲得した、剣徒のスキル。これだけでは足りない。
剣スキルの習熟に加えて、さらなるスキルがいる。
この日から僕は、剣術だけでなく、体の動きや身のこなしに焦点を置いたトレーニングを開始した。
いや、それだけでは足りない。さらに追加で、魔術師である母さんに頼み、魔力操作についても教わることにした。
「ヒルマ、無理はしてない…?」
「大丈夫だよ、母さん。僕にとって必要だから、やるんだ。」
「そう...。」
まただ。憐憫の目。僕をそんな目で見ないでよ。
この家に、この村にいる限り、僕の心は締め付けられ、傷つけられ続ける。
強くなる。それは変わらない。
強くなって、この村を出る。
新しい目標が決まった。
作者のおしり炒飯と申します。
どうぞよろしくお願いいたします。
本作、カクヨム様にて、先行公開しております。
続きが気になりましたら、ぜひ下記よりご覧ください。
https://kakuyomu.jp/works/822139844400383614




