(幕間)イトラーク村にて③ アクトゥの怒り
「…お話する前に、その魔族がどのように倒されたのか、お伺いしたい。」
「…良いでしょう。お話いたしましょう。」
マダルの口から、魔族との戦いについて語られる。それは千里眼を持つ彼が、戦いの起こりから終わりまで、すべてを《《見ていた》》からこそ把握できたことであった。
「魔族が現れたのは、氷結がワイバーンを倒してすぐのことでした。その場にいたのは氷結、ヒルマ殿、そしてアクトゥの3人。魔族は突如その場に現れ、氷結に攻撃を仕掛けた。氷結は一撃で吹っ飛ばされました。」
「…Aランク冒険者が、一撃で…。」
「氷結は本気を解放、一度魔族を完全に無力化します。しかし、今回現れた魔族は超強力な再生能力を持ち、体の一部から全身を蘇生、氷結を下しました。」
「か、体の一部から…?そ、そんなことがあり得るの…?」
「その後、こちらのアクトゥが捨て身の足止めを敢行、その隙にヒルマ殿が氷結をポーションで治療しました。問題はその後です。」
「…。」
「ヒルマ殿はアクトゥと交代する形で魔族の前に立ちました。最初は剣術をもって魔族に対抗するも、勝ち目がないと悟ったのか、とある攻撃を行ったのです。」
「…ビーム、ですかな?」
「…やはり、ご存じだったのですね?そう、ビーム。ヒルマ殿から放たれたビームは一撃で魔族を消し去り、向こう数十キロにも渡ってその痕跡を残しました…。」
「…。」
「ダンテ殿、単刀直入にお聞きする。あのビームは、なんなのですかな?」
「…。」
ダンテは深刻そうな顔で、腕を組んだ。
「…あなた。」
「ああ、わかっている。マダル殿、これからお話することは他言無用でお願いしたい。」
「承知した。千里眼の名にかけて、誓いましょう。」
「…“アレ”は、ヒルマのユニークスキルだと思われる。」
「ユ、ユニークスキルですと!?」
今度はマダルが思わず立ち上がった。
「いかにも。」
「な、なるほど。ユニークスキルなのであれば、あの威力でも納得です。しかし、《《思われる》》、とは?あなたのご子息ではないのですか?鑑定の儀にも参加されたはず。」
「…それは。」
「スキル名が、原因でやすか?」
これまで沈黙を守っていたアクトゥが、口を開いた。
「おいアクトゥ、まだ俺が喋っt」
「ヒルマのスキル名を、知っているのか?」
「ええ。氷結殿から聞きやしてね。それで?剣豪殿。ヒルマ殿のスキル名が原因で、あなたがたはそのような表情をなさっているので?」
「…。」
「…やっぱり、ですかい。やれやれ、こりゃあヒルマぼっちゃんも自信を無くしちまうわけだ。」
アクトゥがゆっくりと立ち上がった。
「ぼっちゃんは鑑定の儀で例のスキルを発現させた。しかし、ユニークと言えど名前が名前だ。どのような状況になったか、そしてその後どのような扱いを受けてきたか想像に難くない。おおかた、心無い村民どもにバカにされ、嘲笑され、暴力でも振るわれたのでしょう。違いますかい?」
「ッ…。」
「ぼっちゃんはこれまでかたくなにユニークスキルを使おうとしなかった。いつでもユニークスキルに頼らない戦い方を模索していた。剣術、拳闘、魔力操作、身体強化…。そりゃそうだ、ユニークスキルが原因で、ひどい扱いを受けてきたんだ。スキルに対してトラウマを抱えていたんでやしょうね。」
アクトゥの口は止まらない。
「ここに来てわかりやした。ぼっちゃんがなぜ、あれほどの強さを持ちながら常に更なるちからを求めていたのか。なぜ、あんなにも自己評価が低かったのか。…この村のせいだ。そして、あんたらのせいだ。」
バンッ!!
ダンテが机を叩いた。
全身から闘気が立ち上る。
「ッ貴様に何がわかるッ!!土足で我らの問題に踏み込んでくるなッ!!!」
「黙れッッ!!剣豪が聞いて呆れる。いいか、ヒルマがこの村を出たのは、村人からの嘲笑や暴力が原因なんじゃない。確かに、理由の一つではあろうが、一番の原因は違う。あんたらだ。あんたらがヒルマを受け入れてやらなかったからだッ!!!!」
「っ!!」
アクトゥの剣幕に、かの剣豪が怯んだ。
「なぜ、なぜヒルマのすべてを受け入れてやらなかったッ!!なぜ、ヒルマを信頼してやらなかったッ!!…なぜ、なぜヒルマを、憐れんで、腫物のように扱ったんだッ!!!」
「ぐ…ッ」
「ヒルマはあんたらの憐れむような目線に、態度に、何年も耐え続けたんだ。守るべき村人からは蔑まれ、受け入れてくれるはずの家族からはただ憐みの目を向けられ…!そんなヒルマが、そんなヒルマがなぁ、どんな気持ちで、チクビームを撃ったと思うッッ!!!!」
「うぅ…。」
「守るためだ。プリマの街を、そこに住む人々を。そして、俺や、氷結や、デランのおっさん、ギルド長、ノノ嬢を守るために、ヒルマはチクビームを撃ったんだッッ!!!!」
(そうだ。ヒルマぼっちゃんが、どんな気持ちでッ...!自らの信念を曲げてまで、あっしらを守ろうとしてッ!!)
「ヒ、ヒルマぁ…。」
アリアが泣き崩れた。
「…ヒルマはチクビームを撃った後、街を去りやした。そのすぐあと、街ではヒルマを揶揄するような噂が流れた。でも、そんなことは俺が、俺たちが許さない。ヒルマを知る者たちがすぐに動いた。くだらない噂はほとんど消えたよ。…あんたらはこの村で何をしていた?」
ダンテもアリアも、何も言えなかった。
「おお、かわいそうなヒルマ、あんなスキルを与えられて。せめて剣術だけは教えてやろう。せめて魔力操作だけは教えてやろう。そんな考えで、ヒルマを受け入れたつもりになっていたんじゃないのか?へっ、違う。受け入れてなんかいない。あんたらのそれは、ただの自己満足だ。でなけりゃ、ヒルマは村を出たりしなかったはずでさぁ。」
ダンテはただ、強く拳を握り締めることしかできなかった。
アリアはただ、漏れる嗚咽をかみ殺すことしかできなかった。
「あんたらは確かにヒルマぼっちゃんの親かもしれない。でも、あっしは認めない。こんなおっさんからどう思われようと関係ない、そりゃごもっとも。でも、あっしはヒルマぼっちゃんのユニークスキルの名前なんて、どうでもいい。どうでもいいんでさぁ。最初はあっしも、別の人間の幻影を重ねていやした。でも、違う。ヒルマぼっちゃんはヒルマぼっちゃん。彼の人柄に惹かれ、彼の戦い方に魅せられ、彼の強くあらんとする心の中に光を見やした。…家族であるはずのあんたらに見えなかったものが、見えている自負がある。」
「…ヒルマは、今どこに…?」
消え入りそうな声で、ダンテが問う。
「さぁてね、知ってても教えやせんよ。《《手紙に書いてなかったんでやすか?》》」
「!!?」
「…手紙も来てすら来ていやせんか。...ギルド長、すいやせんがお先に休ませてもらいやすぜ。」
「…構わん。まったく、頭を冷やしてろ。」
「へいへいっと。剣豪殿に奥方殿、では、また。」
ギィっと音を立てて、扉が閉まる。
すでに日は暮れ、夜のとばりが降りていた。
空には厚い雲が垂れ込み、星はおろか、月の輝きさえ見えなかった。
作者のおしり炒飯と申します。
どうぞよろしくお願いいたします。
本作、カクヨム様にて、先行公開しております。
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