(幕間)イトラーク村にて② ギルド長の訪問
「よくお越しくださいました、マダルギルド長。」
「お目にかかれて光栄です、剣豪殿。」
「おっと、ではこちらも“千里眼殿”とお呼びしたほうがよろしいかな?」
「はっはっは、おやめください。昔の話です。」
「では私のことも気軽にダンテとお呼びください。」
「では、ダンテ殿と。して、そちらの方は?」
「かの剣豪殿にお目にかかれて光栄でございやす。あっしはアクトゥ、《《Cランク冒険者》》をしておりやす。ギルド長の護衛をさせていただいておりやす。」
「ほう、アクトゥ殿。あなたもなかなかやりそうだ。よろしくお願いいたす。」
「ははっ」
(この男がヒルマぼっちゃんの父、かの有名な剣豪ダンテ。雰囲気からして、只者ではないでやすね。)
ヒルマがプリマの街を去って一か月、マダルとアクトゥはヒルマの故郷であるイトラーク村を訪れていた。
(はぁ~、はやくヒルマぼっちゃんを追いたいのに、まさかギルド長じきじきの指名依頼とは…。まぁ、ぼっちゃんの故郷に来れたのは僥倖、と言えるかね…?)
ヒルマの母、アリアがお茶を淹れ、三人の前にそっと置いた。
「ありがとう、奥方様。」
「して、マダル殿。本日お越しいただいたのはどのようなご用件で?」
「ええ、ざっくり言うと2件ほど、お話をお伺いしたい事項がございまして。」
「ほう。と、言いますと?」
「先月、我がプリマの街がスタンピードに襲われたのはご存じですかな?」
「ええ、詳細は存じませんが、そのようなことがあったとは。」
「では話が早い。このイトラーク村周辺も暗黒の森に隣接している地域。何か変わったことなどはございませんでしたかな?」
「変わったこと、ですか。少し魔物共が活発だった程度、ですかな。と言ってもここら一体の魔物はいつでも狂暴。対処も慣れたものです。」
「さすが、ダンテ殿が治める領地。村民すべてが戦える村。」
「おやめください。そのような…。」
「そういえば、本日はご子息はいらっしゃらないのですかな?」
「長男ガルマは現在村周辺の巡回と、発見した魔物の殲滅をさせております。」
「おお、機会があればぜひとも、かの“双魔剣殿”にもお会いしたいものです。」
「はっはっは、ガルマも私と似て強者を好む。喜ぶでしょう。」
ギルド長がお茶を一口飲み、口を湿らせた。
「先ほど長男と申されましたが、ほかにもご兄弟が?」
「っ、え、ええ。次男にヒルマが。しかし恥ずかしながら、ヒルマはこの村を出た身。ここにはおりませんのです。」
「左様でしたか。…実は、2つ目の話というのは、そのヒルマ殿に関わることなのです。」
ギルド長の声のトーンが下がった。
そして、ダンテの目がすっと細められる。
「…なんですと?」
「っ!?ヒルマが!?」
思わずといった様子で、アリアが声をあげる。
「ちょうどいい。奥方殿もお座りください。」
アリアがダンテを見ると、ゆっくりとうなずいた。
アリアが席に着くと、マダルが語り始める。
「先ほどお話したスタンピードなのですが、厄介な存在が紛れ込んでましてね。」
「厄介な存在、ですか。ワイバーン、あたりですかな?」
「はっはっは、さすがですな。ワイバーンには手を焼かされました。二体も出てきたのですよ。どちらもうちのAランク冒険者、氷結のシュッツディラルドが討ち取ったのですがね。」
「ほう、Aランク冒険者ですか。氷結、聞き覚えがありますぞ。」
「そ、それで、ヒルマとワイバーンになんの関係が…ま、まさかヒルマがワイバーンに!?」
アリアは今にも泣きだしてしまいそうだ。
「落ち着いてくだされ、奥方殿。ヒルマ殿は無事です。むしろ、そのワイバーン相手に大立ち回りを演じたのですよ。」
「ほう、あのヒルマが。」
(あの、でやすか…。)
アクトゥの眉間に、しわが寄る。
「討伐したのは氷結ですが、氷結が来るまでの間ワイバーンを抑えていたのは、ヒルマ殿とこちらのアクトゥなのです。」
「ほう、あなたがヒルマとパーティを?」
「…ええ。あっしとヒルマ殿はしばらくパーティを組んでおりやしたので。」
「なるほど、息子が世話になった。感謝申し上げる。」
「いえいえ、あっしはただ、ヒルマ殿と意気投合しただけでさぁ。」
「…そうか。」
「話を戻させていただきます。厄介な存在とは、ワイバーンのことではないのです。」
「ほう、ワイバーン以上の存在がいたと?」
マダルの眉間に深いしわが刻まれる。
渋面を作り、まさにだるまのような形相で声を絞り出した。
「…魔族です。」
「魔族ですと!?」
「ま、魔族っ!?」
「まず落ち着いてくだされ。先ほども申した通り、ご子息は無事です。」
「魔族とは、確かなのですかな?ここ数百年は目撃例すら数例あったかどうかのはず。」
「確かです。私の“千里眼”にかけて、誓いましょう。」
マダルの両目が白く染まった。
「…信じましょう。その魔族は、氷結殿によって倒されたのですかな?」
「確かに、氷結の尽力により魔族を消耗させることはできました。しかし、倒すには至らず。」
「では、逃げられたと?」
「いえ、確かに魔族は討伐されました。」
「ほう、魔族を倒すほどの存在がいたとは。その者は何者なのですかな?」
マダルが不自然に黙り込んだ。
その目はまっすぐ、ダンテを射抜いていた。
ゆっくりと、マダルが口を開く。
「…ヒルマ殿です。」
「馬鹿な!?ありえないッ!!」
「ヒ、ヒルマが!?」
ダンテとアリアが衝撃のあまり立ち上がった。
ガタンッ!と音を立てて、椅子が倒れた。
「真実です。誓いましょう。」
「そ、そんな…。」
今度はダンテが、絞り出すような声でぼそりとつぶやいた。
「…まさか、“アレ”を…?」
マダルの目がギラリと光った。
「ほう、“アレ”とは?」
作者のおしり炒飯と申します。
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