第16話 撃て、討て、チクビーム。
ヒルマが抜刀し、魔族へと近づいていく。
すでに魔族はほとんど再生を終えていた。
しかし、その顔は憤怒の形相であった。
「つ、次かラ次ヘト小バエが湧いてくるナぁ~~ッ!!いい加減、キれちまったゼ。りひひ、決めたゼ。この国ハ、滅ぼすことにシタぞ。」
「…させませんよ、そんなことは。」
「なんだァ~?さっきまデ縮こまってたガキが、ずいぶん偉そうな口をきくヨうになっt」
「――一閃。」
「ッ!?」
気づけば目の前にヒルマがいて、すでに剣を振り終えていた。
魔族の体が縦に大きく裂ける。
「てめェッ!!卑怯なヤツメッ!!」
「あなたがそれを言うんですか…?」
「ガァアッ!!!!」
大量の触手がヒルマを襲う。
四方八方から迫る触手の軍勢。その数は、数え切れない。鋭い先端がヒルマを狙い、まるで蜘蛛の巣のように囲んでいく。
ヒルマの視線が瞬時に左右に動く。
そして、目にもとまらぬ連撃で斬り落としていく。
緑色の体液をまき散らしながら、ぼたぼたと触手が地面に落ちる。
「ぎゅぎいぎGIIIIIIIIッ!!!!!!」
触手が一塊となり、1本の太い触手となる。
やがてその先端が大きく膨らみ、真っ赤な手のひらが、子葉のように開いた。
「りひひ、――魄手。」
二つの巨大な手がヒルマに襲いかかる。
拍手をするように、まるで小バエを潰そうとするように、巨大な手のひらが何度も叩かれる。
圧倒的質量を持つその攻撃を回避するために、ヒルマは跳躍した。
「そコだァアアアア~~~~~~ッッ!!!!」
回避不能な空中において、大量の触手が襲いかかる。
「ぐっ!!」
無理な体勢から放たれた斬撃は、すべての触手を抑えることができなかった。
触手の波に襲われ、地面に叩きつけられる。
「ぐぷっ」
ヒルマの口から血が流れ落ちた。
全身を魔力で覆うことで、ダメージを最低限に抑えた。
抑えた上での、致命傷。
あまりにも絶望的な差が、そこにはあった。
「やっぱり、だめだな。」
ヒルマは観念した。
「今の僕では、倒せそうにないや。」
「りひひひィッ!!どうしタぁ??急にしおらしくなって。命が惜しくなッタのかぁ~~~???」
「うん。命は惜しいよ。でも、それより悔しいんだ。」
「悔しイ~??」
「ああ、悔しい。本当は僕の力だけでお前を倒したかった。これまで積み上げてきた、僕だけの力で。オーガを倒し、ワイバーンと戦い、強くなれたと思った。思い込んでいた。でも上には上がいる。ディーさんや、お前のような存在が。」
「りひひッ!!今更何を言ってモ無駄だぜェ~~?この国ハ滅ぼす。これは決定事項ダ。」
「うん、そうだろうね。でも、それを許すことは出来ない。この街には、僕が守りたいモノがたくさんある。ギルドのノノさんや、宿屋のおっちゃん。デランさんや親切な衛兵さんたち。そして、アクトゥも。」
「さっきから黙って聞いてリャ、まるでお前ガ勝てるみたいな口ぶリだなぁ?イライラしてきたゼ。」
「たぶん勝てるよ。でも僕は、この力を使うのが嫌なんだ。ここにいられなくなってしまうと思うから。僕が、僕自身が、耐えられないから。でも、大切な人を守るために。僕は――。」
「使うよ。」
「死にさらセ、ガキ。」
触手の波と、巨大な手が迫る。
ヒルマは回避しない。回避できない。
いや、回避する必要がない。
「――氷獄で、お眠りなさい。」
すべての触手が、巨大な手が動きを止める。
「なッ!??」
「アクトゥのおかげで、“彼”を助けることが出来ました。ありがとう、ディーさん。もう大丈夫、後は僕が、やります。」
「少年。何をするかは分かりません。でも今は君に賭けるしかない。――頼みましたよ、《《ヒルマ》》少年。」
「この、死に損ないガァーーーッ!!!」
ヒルマがゆっくりと、歩みを進める。
人差し指と親指で、乳首をつまむようにして構える。
思考と視界がクリアになり、どこを狙えば良いか、ハッキリと分かる。
魔族は凍結して、動けない。
後は、発動するだけ。
ドクドクと、鼓動の音だけがやけにうるさく聞こえる。
戦場に吹き抜ける風の音も、踏み砕かれる霜の音も、魔族のわめき声も、聞こえない。
聞こえるのは、ただ自らの鼓動の音だけ。
魔族が無理矢理触手を動かした。
鋭い棘のような触手が数本、ヒルマの心臓に迫る。
だが、もう遅い。
「チク、ビームッ…!!」
胸部で、白い光が明滅した。
周囲に舞う氷の結晶が、その白きを反射して、キラキラと輝いていた。
そして、ジュッと、すべての氷が蒸発する。
パウッ
二条の閃光、迸る。
すべてを消滅せしめる、断罪の光。
およそ5年ぶりに放たれたそれは、かつてより威力を増していて。
「りひひっ、あぁ、そうカ。お前ガ、あノ――。」
戦場に残されたのは、巨大な跡。
地面はうがたれ、彼方の森まで、その動線上のモノを一切消し飛ばして。
魔族は跡形も無く消え去り、もう二度と、復活することはなかった。
~Sideアクトゥ~
「うっ!?ここは…。」
「おや、ようやくお目覚めかい?」
「あ、あんたは、氷結…!」
「ディーでいいよ、アクトゥ青年。」
「いや、青年は恥ずかしいんで、無しでおねがいしやす…。」
「おや?そうかい?わかったよ、アクトゥ君。」
「それで、ここは?」
「ああ、ギルドの併設病院さ。あの戦いの後、負傷者はみんなここに運び込まれてね。僕も同じさ。つい三日前、目が覚めたところだ。」
「へぇ~、三日…三日!?ちょ、ちょっと待ってくだせぇッ!!あれから何日経過してるんですかいッ!?」
「一週間さ。」
「一週間も…。 ッ!!ぼっちゃんは!?」
「彼なら無事さ。それに魔族を倒してしまったのも彼だよ。まったく、あんなふざけた力を持っているとはね…。」
「ぼ、ぼっちゃんが魔族を…?一体どうやって…。」
「…ムさ。」
「え?」
「..―ムだよ。」
「な、なんでやすか?聞こえないんでy」
「チ、チクビームって言ったんだッ!!!」
「…はぁ?ちょ、急に何を言ってるんでやすか?まだ寝てた方が良いんじゃ…。」
「ぐ、ヌゥ、そう言われても仕方が無いとは思う。だが、事実なんだ。」
「えーとつまり、ぼっちゃんが乳首からビームを放って、魔族を倒したと?」
「…そうなるね。」
「な、何をアホなことを…。」
「事実なんだけどねぇ...。」
「それで、ぼっちゃんはどこに?」
「彼なら、もうここにはいないよ。」
「は?いない?どういうことでやすか!?」
「例のスキルについて、思うところがあるみたいでね。見られてしまったからには、もうここにはいられないと言って、そのまま去ってしまったんだ。」
「な、バカなっ!!一体どういうことでやすかッ!!」
「考えても見て欲しい。乳首からビームを出して街を救ったなんて、いったい誰が信じる?その場を見た冒険者が街でその話をしたんだ。どうなったと思う?」
「…どうなったでやすか?」
「一笑にふされたよ。なんなら、彼をバカにする者まで現れて、吟遊詩人たちがやりたい放題さ。命を救われたというのに、許せないね。」
「殺すか、そいつら。」
「それには及ばないよ、街に何体か氷像が増えることになったし、デランっていう冒険者が、少年をバカにする輩をことごとくぶっ飛ばしてしまってね。もう大騒ぎさ。さすがに市民にまでは手を出せないから、広がってしまった噂についてはどうしようもないんだけれどね…。おそらく少年はこうなることを予期して、この街を去ったんだろう。彼がこれまで、どんな人生を歩んできたのか、わかるようだよ。過去にも同じようなことがあったのかもしれないね。」
「ヒルマぼっちゃん…。 次の行き先については、何か聞いてないでやすか?」
「ああ、それなら《《ダンジョン都市》》に向かったと思うよ。僕がおすすめしたんだ。」
「ダンジョン都市、でやすか?」
「ああ。強くなるなら、ダンジョン都市がいいだろうと。それにあそこには、僕の身内もいるからね。」
「そうでやすか…。」
「…行くんだね?アクトゥ君。」
「もちろんでさぁ。ヒルマぼっちゃんを一人にはできねえ。それに、何かと危なっかしいですから、ちゃんと見ててやらねぇと!」
「フフフッ、それがいい。僕も同行したいところだけど、ここから離れられなくてね。もし少年に会えたら、よろしく伝えてくれるかい?」
「了解でさぁ。こうしちゃいられねぇ、早速追いかけt」
「あ、アクトゥさん!気がつかれたのですね!」
「ノノさん!ご心配をおかけしやした…。」
「まったくです。ヒルマ君は勝手にどこかに行ってしまうし。まぁ、噂のことを考えれば仕方ないかもしれませんが…。」
「えぇ、えぇ、せめて一言くらい言って欲しかったですなぁ。でも大丈夫ですぜ!あっしがノノさんの分まで、ガツンと言ってやりまさぁ!!」
「ふふ、ええ。お願いします。」
「よっしゃ!今度こそぼっちゃんを追いかけt」
「何をおっしゃてるんですか?アクトゥさん、瀕死の重傷だったんですよ?まだ入院が必要です。」
「え。」
「あと二週間はここにいてもらわないと困ります。それに、魔族についての報告もしてもらわないとですし、ヒルマさんの依頼完了分の報酬についてもご相談が~」
「…これ、ヒルマぼっちゃんに追いつけるんでやすかね??」
「…幸運を祈るよ、アクトゥ君。」
「はぁ~~~…。」
「ちゃんと聞いてますか?アクトゥさん。」
「あ、はい。すいやせん…。」
第一章 完
作者のおしり炒飯と申します。
どうぞよろしくお願いいたします。
本作、カクヨム様にて、先行公開しております。
続きが気になりましたら、ぜひ下記よりご覧ください。
https://kakuyomu.jp/works/822139844400383614




