第15話 影の刃
(ぼっちゃん、ま~たお勉強サボってるんですかい?)
(あ!アクトゥ!!へへへ、バレちゃあしょうがありやせんねぇ!!)
(それ、あっしの真似ですかい?やめてくだせぇよぉ、また奥様に怒られちまう!)
(あはは!真似してほしくなければ、僕がここにいるのは黙っておくのだっ!)
(へいへい、へへっ)
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(アクトゥ、なんだか最近お父様とお母様の様子がおかしいよ…?)
(お二人は大貴族でらっしゃいやすから、お忙しいんでさぁ。)
(うん。最近一緒にご飯も食べてないし、寂しいなぁ。)
(何を言ってるんですか、ぼっちゃん!あっしがいるじゃねえですか!)
(え~、アクトゥよりお父様とお母様が良い!!)
(そ、そりゃあそうでやしょうけど、今はあっしで我慢してくだせぇ…。)
(はぁ~しょーがないなぁ。これは貸しだよ?アクトゥ。)
(え?あっしの優しさが、貸しされた???)
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(あ、アクトゥ!!)
(ぼっちゃん!!こちらへッ!!)
(いたぞ!!大逆者めッ!!血縁者はすべて始末しろとのお達しだッ!!捕らえよッ!!)
(くっ!!ぼっちゃん、ここはあっしが食い止めやすッ!!早くお逃げくだせぇっ!!!)
(で、でも…。)
(ぼっちゃん、ご安心を。こう見えてあっしは強いんですぜ?すぐに追いつきやす。隠し通路から、森を抜けた先。そこで落合いやしょう。)
(わ、わかった。そしたら、一緒にお父様とお母様を探してくれる?)
(もちろんでさぁ!さ、お早くッ!!)
(約束だよ!アクトゥ!)
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(…ぼっちゃん?)
(ア、クトゥ…。)
(ぼっちゃんッッ!!ああ、そんな。)
(ご、めん。見つかっちゃって、逃げたんだけど…。)
(喋らねえでくだせえっ!!大丈夫、きっと助かるッ!!)
(ほん、と?)
(本当でさぁっ!!あっしがこれまで嘘ついたこと、ありやしたか??)
(い、いっぱい、ある、よ。)
(こ、今回こそ本当でさ!大丈夫、さっさとこんな矢傷治して、旦那様と奥様を探しに行きやしょう…!)
(う、ん…そう、だ、ね…。)
(ぼ、ぼっちゃん?)
(ちょっと、眠いや…少し、だけ、寝ていい…?)
(…ッええ。あっしが起こしてさしあげやす。ゆっくりお休みくだせぇ。)
(う、ん…。あ…がと…アク…トゥ…。)
(…ぼっちゃん?…ぼっちゃんッ…!う…うぉおおおっ…。)
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(か、影だ…“影の刃”だぁあああっ!!)
(貴様だな?我が主を陥れ、いわれなき罪を着せ、没落の憂き目に合わせてくれたのは。)
(な、なんの話だっ!!言いがかりはやめよっ!!この私を誰だと心得るッ!!!ネシグーズ侯爵であr)
(死ね、ゴミが。)
(カヒョッ!?)
(こ、侯爵様ぁああああっ!!!)
(お、追え追えーーーーッ!!!)
(旦那様、奥様、ぼっちゃん…。仇はとりやしたぜ。)
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(路銀がもう尽きる。闇仕事で稼ぐのも、もう難しい。…この街で冒険者にでもなりやすか。)
(やはり、若い奴らばっかりでやすなぁ。ん?あの青年は…。懐かしいなぁ、ぼっちゃんが生きていたら、あれくらいの歳か。自信があるのかないのかよくわからないあの雰囲気、ぼっちゃんを思い出す。へへっ、人脈を作るのも大事、か。ちょっくら、声でもかけてみやすかね。)
「おっ、ぼっちゃんも認定試験参加者ですかい?」
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「?なんダ?どこから攻撃を受けテいル?」
「シィイヤァアアッ!!!」
アクトゥが放つ斬撃とは異なる場所、背後やわき腹などの死角に傷を負っていくことに戸惑う魔族。
アクトゥの先天性スキルは暗殺者。
では、ない。
暗殺者は彼の長年の努力によって獲得した、後天性スキルである。
暗殺者は3級スキルであるため、並大抵の努力では獲得することはできない。
では、彼の先天性スキルは、何なのか。
それは。
影操術。
己の影を操り、他人や物質が持つ影に対して物理的な影響を与えることができる、“1級スキル”である。
彼は今、魔族の影を己の影で攻撃することで、傷を与えているのだ。
「そのまま黙って切り刻まれてくだせぇやっ!!!!」
アクトゥと影が踊る。
この場において魔族は、二つ名を持つ暗殺者を二人同時に相手していることになる。
「…そうかァ、わカったぞ。影、だな?」
「チッ、さすがに気付かれやしたかッ」
影操術は本来、長期戦闘に適したスキルとは言えない。
ましてや、影がくっきりと姿をさらしてしまう真昼では言わずもがな、である。
「りひひ、よくモ好き勝手ニ斬りまくってくれタ、ナッ!!!」
魔族の体から全方向に触手のような何かが飛び出した。
「ぐっ!?」
「りひひィッ!!やはり。オ前、“影にもダメージ判定がある”ナ?」
「ケッ、そこまでバレちまったか。」
「りひっ!俺の触手の影が、オ前の影にかすった。お前自身は攻撃を躱したのニ、お前ノ腕には傷ガできた。これデ迂闊に影も使エないナァッ!?」
「...そいつは、どうでやすかね?」
「なニぃ??」
「――影纏い。」
アクトゥの足元から影が昇り、体が黒く染まっていく。
使い古した外套も、鈍く光る刃も、すべてが漆黒に染まっていく。
ただ、決意を宿した二つの目。
その目だけは、赤い光を湛え、静かに魔族を見つめていた。
「…ッ!!」
「!?」
言葉はない。音もない。
ただ影が奔った。
慌てたように迎撃する触手は、すべてが両断されていた。
「なんダッ!?」
黒い残像を残して、影が魔族の周りを疾駆する。
「“影の刃”」
影が伸び、刃となり、飛ぶ。
一条、二条、三条。
影の刃は空間を裂き、魔族の胸部、首元、背中へと突き刺さる。
「ぐゥッ!!?」
黒い斬撃が四方八方から飛び続ける。
魔族の体が再び斬り刻まれていく。
「クソガァッ!!!!」
魔族は怒り、触手で地面を叩きつける。
根のような触手が暴れ、蔦のような細長くとがった触手が、全方向に対して射出された。
触手は影の残像しかとらえることができない。
影の刃は魔族を斬り刻み続ける。
再生は続いているが、追いつかない。
再生した瞬間を、影が切り裂く。
圧倒的――
そう言って差し支えなかった。
だが。
影の動きが、鈍る。
影の動きに、わずかな“間”が生じ始める。
刃の切れも、ほんのわずかに鈍る。
影を操る力は、無限ではない。
影と同化する間、呼吸を止め続ける必要があったのだ。
「ッカハァッ!!コヒューッ…」
影が、薄れた。
活動限界が訪れる。
「GYU、ぎぃ、gyお。」
魔族は斬り刻まれ続け、ぐじゅぐじゅと蠢く醜悪な肉塊と化していた。
しかし、蠢いているのは再生の印。
「ば、化け物、め…!」
息も絶え絶えにアクトゥが悪態をつく。
「ぎぎょ、ぎいがああああああッッ!!!!!」
「ッ!!?」
突如肉塊が激しく蠢き、大量の触手が射出された。
「ゴフッ…。」
極度の疲労に達していたアクトゥは、これを回避できなかった。
まるで、癇癪を起した赤子に投げられたおもちゃのように、冗談のように体が宙を舞った。地面に叩きつけられる。
その瞬間。
「――ッ?」
何者かに、抱き留められた。
「アクトゥ、ありがとう。僕のために、戦ってくれて。」
「ぼっ…ちゃん…?な、ぜ…。逃げ…。」
「逃げる?何を言ってるんですか。アクトゥが言ったんですよ?これは役割分担。アクトゥが注意を引き、僕が“どでかいの”をぶち込む。いつものことじゃないですか。」
「な、に言ってッ!」
アクトゥは目を見開いた。
ヒルマの、その目を見て。
ヒルマの目はどこまでも澄んでいた。
“覚悟”を決めた、男の目だ。
「…へへっ、わかり、やした、よ。後は、頼みましたぜ、《《ヒルマ》》。」
「ええ、任せてください。僕が、魔族を倒します。」
作者のおしり炒飯と申します。
どうぞよろしくお願いいたします。
本作、カクヨム様にて、先行公開しております。
続きが気になりましたら、ぜひ下記よりご覧ください。
https://kakuyomu.jp/works/822139844400383614




