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【第一章完結】ユニークスキルは【チクビーム】~最悪な名前のスキル、ただし最強~  作者: おしり炒飯


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第14話 魔族と氷の戦士

 あまりにも唐突。

 あまりにも、絶望的。


 突如現れた「ソレ」は、全身から暴力的な魔力を垂れ流し、濃密な《《死の気配》》を纏っていた。


(な、なんだ、コイツは...ッ!)


 明らかに、己よりも強いとわかる。そして、己の()よりも...。



「いきなりひどいではないですか。」


「アー?」


 何事もなかったように、氷結が再び姿を現した。

 しかし、その左腕はあらぬ方向を向いていた。

 血は一切流れていない。凍結させて、止血しているのだろう。


「魔族が、何の用ですか?」


「ま、魔族ッ!?」


 -------------------------------------

 魔族とは、この世界における闇の眷属たちの総称である。

 その起源は古く、おとぎ話にも登場する存在であり、その多くは歴代の勇者たちによって討伐されてきた。

 しかし魔族とは闇から生まれる不滅の存在であり、完全に討伐することは困難を極める。

 魔族はどの個体も非常に強力であり、その強さは“Sランク”に匹敵する。

 -------------------------------------


「死んでナかったのか。意外トやるなァ。」


「伝説に謳われる魔族に褒めていただけるとは、光栄ですね。」


「ヘッ、口が達者ナエルフだな。」


「今回のスタンピード、まさか、あなたが引き起こしたのですか?」


「そうダ。」


(な、なんだって!!?)


「なぜ?」


「答える必要ハ、ねえナ。」


 突如、氷結の足元から黒い触手のようなものが飛び出した。

 しかし氷結は、攻撃がくることをあらかじめ知っていたかのように、華麗に回避した。


「不意打ちとは卑怯ですね。」


「りひひっ、知らねえナ。死ね、エルフ。」


 氷結は滑るように移動しながらそのことごとくを回避していく。


「――凍えろ。」


 冷気が魔族に放たれる。

 しかし魔族はただ、涼しげにしているだけだ。


「おお、涼しイね。気が利くじゃないカ、エルフ。俺のご機嫌取りをしテ、手下にでもナりたいのカ?」


「あまりふざけたことをぬかさないでもらいたい。しかし、この程度ではダメですか。はぁ…。」


「さっさと本気を出サネェと、死ぬゼェ?」


「…仕方ありません。少年と青年、離れてください。私も余裕がない。本気でいきます。」


「わ、わかりやした。ぼっちゃん、引きやしょう!!」


「う、うん…。」


 魔族。初めて目の当たりにした存在に、ヒルマは完全に押されていた。

 自分では勝つビジョンが見えなかった。そして、氷結でさえもおそらくは…。


(か、勝てない。このままじゃ、全滅してしまう...ッ)



「行くぞ、魔族。」


「りひひ。来い、エルフ。」


 氷結がおもむろにレイピアを顔の前で構えた。

 氷結の目に宿るのは、諦念でも恐怖でもない。


 あるのはただ、目の前の敵を討つという、氷のように冷たい意志。




「――氷魔装着。」


 世界から音が消えた。


 ヒルマは目を見開いた。

 誰だ、勝てないなんて思ったのは。

 誰だ、無理だなんて決めつけたのは。



 魔族と氷結、周囲の地面が白く凍り付いた。

 氷結の体が凍り付いていく。氷は徐々にその形を変えていく。


 やがてそれは、白く青い、鎧となった。

 背中からは冷気のマントが棚引いている。

 顔の半分を覆う兜は、鳥のくちばしのような意匠だ。


 右手のレイピアは純白の長剣となり、キラキラと陽光を反射している。

 刃は淡い青光を放ち、空気中の水分を凍らせながら低い音で鳴っている。


 鎧の奥、鋭い眼光が魔族を射抜く。

 吐く息は白く、彼の足元には薄く霜が広がっていた。


「さぁ、始めようか。」



 氷の戦士は、嗤った。





 ~Side千里眼のマダル~


「ッ!?おいおいおいおい、マジかよ。」


「ギルド長、どうなさいましたか?」


 マダルは右手でつかんでいたオーガの首を投げ捨て、左手に持っていたトレントの枝で背中をボリボリと掻いた。


「魔族が出やがった。」


「は...?はぁ!?魔族ですか!!?」


 マダルと行動していたBランク冒険者が素っ頓狂な声を上げた。


「ばっっっかオメエでっけえ声出すんじゃねえッッ!!魔族が出たって情報が戦場に広がってみろ!!!無用な混乱を生むだろうがッ!!!」


「ギ、ギルド長の方が声でかいじゃないっすか!!!!」


「う、うるせえ!!!!!!それどころじゃねえだろ!!!」


(クソッ!!魔族だと!?一体何が起きてやがるッ!!)


「じょ、状況は!?」


「非常にまずい。今《《見てる》》が、氷結がぶっ飛ばされた。」


「ひ、氷結がぶっとばされたって...も、もう勝てないじゃないですか...!」


「いや、まだ氷結は負けてねぇ。氷結にはとっておきがある。」


「と、とっておき、ですか?あの広範囲魔法ではなく?」


「馬鹿野郎、あんなの序の口だ。奴の本気はあんなものじゃない。」


「あ、あれが序の口、ですか...。」


(そう、あれは序の口。奴が本気を出した姿。あの姿こそ、氷結の二つ名の由来...。)









 氷霧が、ゆっくりと地表を這っていた。


 最初に動いたのは、魔族だった。

 地面が隆起し、触手が槍のように突き上がる。

 四方八方から同時に襲いかかる、避け場のない攻撃。


 氷結が剣を横一文字に振るうと、刃から氷の波動が放たれた。


 ――バキバキバキッ。


 突き出た根が一斉に凍結し、動きを止める。

 氷結はそのまま踏み込み、凍った触手を踏み砕きながら魔族へ距離を詰めた。


「りひひ。」


 魔族もまた、嗤った。

 葉擦れのような笑み。



 魔族は両腕を広げる。無数の蔦が鞭のようにしなり、氷結を絡め取ろうと一斉に襲いかかる。

 氷結は後退せず、逆に一歩前へ出た。


 剣を地面に突き立て、低く詠唱する。

 氷が地中を走る。

 蔦の根元から、魔族の足元へ――一気に凍結が広がった。


 地面が白く染まり、魔族の触手のような根が内部から氷に侵食される。

 再生しようと蠢く動きが、凍結し動きが目に見えて鈍い。


「……そこだ。」


 氷結は剣を引き抜き、刃を両手で構える。

 剣身に、これまでとは比べ物にならない魔力が集中し、周囲の温度が一気に下がった。


 キィイイイイン。


 空気が悲鳴を上げ、氷晶が舞う。


 魔族が迎え撃つ。

 まがまがしい巨大な花弁状の装甲が展開される。

 いや、花弁ではない。それらはすべて、赤黒い巨大な手のひらだった。


 グロテスクな花が、開いた。

 巨大な手のひらの中心には、巨大な口があった。


「「ヒャヒャヒャヒャヒャ!!!!!」」


 魔族と巨大な口が、同時に笑った。


 氷結が跳躍。

 巨大な氷柱の刃が形成され、剣と一体化する。



「――絶対零度アブソリュート・ゼロ。」


 白い衝撃が、世界を覆った。









 キン。


 レイピアが鞘に、納められた。


 ピシッビキッ

 ガラガラガラッ


“氷像”が音を立てて崩れ落ちた。


 霧が晴れ、立っていたのは、氷結のシュッツディラルドだけだった。




「これが、氷結の、シュッツディラルド…。」


 圧倒的であった。

 スタンピードの始まりに使った魔法は、本気ではなかったのだ。

 これが、“氷結”の真の所以。


「ふぅ…。とりあえず、なんとかなりましたか。」


「シュッツディラルドさん!ご無事ですか!!」


「ディーでいいですよ、少年。親しい人はみなそう呼びます。」


「とんでもねえもんを見せられやした。あの伝説に謳われる魔族が、ばらばらでさぁ。」


「やつがこのスタンピードを引き起こした張本人だったんですよね?」


「ええ、本人曰く、ですが。実際奴を倒したことでスタンピードもおさまったようです。」


 周囲を見渡すと、すでに魔物たちはあらかた倒されており、ぽつぽつと残ったゴブリンやオークを、冒険者たちがせん滅していた。


「どうやら、フェーズ3に移行したみたいですね。よかったぁ、無事に乗り越えることができて…。」


「へっへっ!本当でさぁ!!もうへとへとですぜ…。さっさと帰って、酒でも飲んでねんねしたいところですなぁ。」


「フフフ。油断してはいけませんよ、青年。ちゃんと家に帰るまでが遠sゴプッ」




「え?」





 氷結の腹から、触手のようなものが生えていた。



「油断しちゃ、いけねェよナァ~~~~~~?」


「なッ」


「オれ、死なねえンダ。“種”がある限り、俺は死なねエんダよ!!!この、間抜けどもガぁ~~~~~!!!!」


「逃げろ、少年。にげ」


「お前はもう用済みダ。今度こそ死ね、エルフ。」


 氷結の体が掻き消えた。

 遠くで一つ、土煙が上がっている。


 ぴちゃぴちゃっ


 ヒルマの顔に、鮮血が飛んだ。


(く、クソッ!戦うしかッ)


「シィッッ!!!!」

 アクトゥが魔族に斬りかかる。


「アクトゥッ!?」


「ぼっちゃん!!!!ぼさっとすんなッ!!!行けェッ!!!」


「な、なにを言ってるんだッ!!」


「へへっ逃げろって言ってんじゃねぇッ!!役割分担でさぁッ!!ワイバーンの時と同じ、あっしがこいつを引き付けるッ!!」


「でもッ」


「いいから行けェーーーッ!!!!」


 あのスキル。

 あのスキルを使えば。


(ブッ!あはははははははっ!!!)

 嘲笑がよみがえる。


(な、なんだよその格好!!!!ひーっ!ち、乳首だけ、乳首だけ出してっ!)

 幻聴が聞こえる。


(む、村を守ったって?何から守ったんだよ!チクビームのチクビナイトさんよぉ!!)

 思考が鈍る。



 動けない。



「なんだ、このオッサン。オマえも死にてえのカ?」




「へへっ。死ぬつもりなんかねぇよ。ただ、今度こそ。《《今度こそ》》、“俺”が守るべきものを、守り通すだけだ。」





 短剣が閃き、影が踊る。

作者のおしり炒飯と申します。

どうぞよろしくお願いいたします。

本作、カクヨム様にて、先行公開しております。

続きが気になりましたら、ぜひ下記よりご覧ください。

https://kakuyomu.jp/works/822139844400383614

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