第10話 スタンピードとAランク冒険者
ギルド内は騒然としていた。
慌ただしく駆け回るギルド職員、パーティメンバーに大声で指示を飛ばす重装鎧の冒険者、血を流しながら事態の報告をする剣士、担架で運ばれていく女性冒険者。
僕たちもデランさんの後を追い、依頼報告カウンターに向かう。
「ノノさん!!」
いつも担当してくれている受付嬢のノノさんを発見し、声をかけた。
「ヒルマさん、アクトゥさん!ご無事だったんですね。よかったです。」
「この騒ぎは、暗黒の森周辺の魔物の異変が原因ですか?」
「はい。その様子ですと、お二人も異常な魔物に遭遇したんですね。報告をお願いします。」
「はい。僕たちはオークの群れを発見したものの、ひどく興奮している様子だったため戦闘を断念、報告のために戻ろうとしました。その瞬間オークたち全員がこちらを捕捉し追ってきたため、逃走。オークは撒いたものの、森を抜けた先で興奮状態のオーガと戦闘する、Cランク冒険者のデランさんを発見。助太刀し、三人でこれを討伐、報告を優先して急ぎ帰還した次第です。」
「…なるほど。オーガまでもが森を抜けて来ていたのですね?」
「はい。どうにか三人がかりで討伐しましたが…。」
「オーガはCランク冒険者のパーティでようやくまともに戦える相手です。Dランクながら、よく討伐してくれました。」
「ありがとうございます。他の冒険者のみなさんも、同様の事態に遭遇したのでしょうか?」
「ええ。現在受けた報告によれば、ゴブリン、ホーンラビット、ブラッドバットなどの低級の魔物だけでなく、オークやオーガ、トレント等中級の魔物、そしてつい先ほどBランク冒険者パーティの報告により、ワイバーンも同様の興奮状態である旨報告がありました。」
「わ、ワイバーンまで…。」
「このような状況、過去に例があるのは決まってとある事象が発生する直前に見られます。」
「そ、それって….。」
「はい。」
ノノさんが口を開きかけたとき、
ゴォーン
ゴォーン
ゴォーン
ゴォーン
と、街の鐘が鳴りだした。
時刻を知らせるものではないのは、誰でもわかる。
なぜなら、鳴りやむ様子がないからだ。
「冒険者ども、聞けぇぇえええええええええええええええいッッッ!!!!!」
ギルド2階に繋がる踊場から、ダルマのような顔の巨躯のおっさんが声を張り上げた。
「プリマ冒険者ギルド長のマダルだ!!!!!!傾聴せよッ!!!!傾tッおい誰だずっとうるせえのは!!!!緊急事態だぞッ!!!!ええええええい黙れ黙れ!!!!!ちょ、マジでうるさいッ!!!!!!!《《スタンピード》》、スタンピードだぞッ!!!!!!《《スタンピードの発生をここに宣言する》》ッ!!!!!」
ただでさえ騒がしかった冒険者ギルドは、この宣言によりさらなる喧騒に包まれるのだった。
「だあああああああああああまれえええええええええええええええッッ!!!!!指示がだぁせねぇだろうがって!!!!!!!!!」
ギルド長の話をほとんどの人が聞こうとしていない…。
その時、ギルドの気温が一気に10度以上下がったのを感じた。
その瞬間、あれだけ騒がしかったギルドがシン、と静かになる。
「緊急事態だよ。救護担当者以外は、静かにしてくれないかな。」
ギルドの二階から、一人の男が降りてくる。
サラサラとした長髪を耳にかけた、長身瘦身の男。その耳は先端がとがっており、彼がエルフであることを示していた。手にはタクトのような細く短い杖、青いローブからはレイピアが覗いている。
「“氷結”だ…。」
誰かがつぶやいた。
「ひ、氷結…!?」
「氷結って、マジかよ…。」
ざわめきが広がる。
「アクトゥさん。あの方は…?」
「ええ、彼は氷結と呼ばれる冒険者。氷結、氷結のシュッツディラルド。Aランク冒険者でさぁ。」
…あれが、Aランク冒険者。人外と呼ばれる領域。
まるで、冷気が人の形をとっているような印象を受けた。
「…あぁ~、感謝する、氷結の。これよりスタンピード発生につき、対スタンピード作戦を開始する。王国法スタンピード発生時における特殊条項に基づき、本作戦指揮官はギルド長である俺が執る。指揮官権限において、Aランク冒険者、氷結のシュッツディラルドを指揮官補佐として任命する。戦場においては氷結の指示に従ってくれ。」
ギルドに再び、物々しい雰囲気とざわめきが広がっていく。
「ではこれより、本作戦を発表する。超簡単だ、バカでもわかるからよく聞けよ。まず第一フェーズ、城壁上から氷結が広範囲攻撃魔法を放つ。」
こ、広範囲攻撃魔法...!!
「第二フェーズで開門、上位冒険者を先頭に出陣し、魔物をせん滅。第三フェーズで打ち漏らしを掃討だ。第二フェーズ以降、氷結は自由孤軍としてやばそうな魔物が出てきたら対処。ワイバーンなんかも確認されてるからな。なお、本作戦には騎士団も参加するが、彼らは第二フェーズにて中位冒険者たちと同じタイミングで出陣する。場合によっては共闘して、臨機応変に対応しろ。質問はあるか?」
認定試験で一緒だった斧使いの青年が挙手する。
「おう、そこの斧。」
「お、斧…。えっと、報酬等はどうなるんすか??」
「そうだった、報酬については、前列で戦う上位冒険者に一律ニフル金貨5枚、中列の中位冒険者には一律ニフル金貨2枚、後列の低位冒険者にはニフル銀貨8枚だ。なお、強力な個体を討伐したりした場合は都度特別報酬を出す。また、非常事態につき、誰が何を倒した~だのカウントする暇はねぇ。倒されたモンスターの数等によって全員に一律ボーナスが出るから、くだらねぇ争いを起こすなよ。なお、わざと戦闘から逃げ、報酬だけもらおうとするようなカスは俺が殺してやる。俺の二つ名、“千里眼”にかけてな。」
え、ギルド長にも二つ名があるんだ。
「アクトゥ、ギルド長も二つ名があるんだ?」
「えぇ、マダルギルド長は元Bランク冒険者だったんでさぁ。しかも、ソロでBランクまで上り詰めた豪傑ですぜ。千里眼ってのは彼の先天性スキルで、なんでも広範囲を俯瞰してみることができるとか。ただ、建物や土煙なんかの障害物を透過してみることはできねぇみたいですなぁ。」
便利なスキルだな。まさに指揮官向きのスキルと言える。縮尺とか見る範囲も自由に変えられるんだろうか。
「あーもう時間ねえから質問あったら個別に後で聞いてくれ。よし、各自準備しろ!!あと一時間後には作戦開始だ!!!!」
「僕たちも準備しましょう。」
「そうでやすな、オーガと戦ったばかりですし、武器もチェックしときやしょう。」
「お二人とも、ご武運を。」
こうして、対スタンピード作戦が幕を開けた。
作者のおしり炒飯と申します。
どうぞよろしくお願いいたします。
本作、カクヨム様にて、先行公開しております。
続きが気になりましたら、ぜひ下記よりご覧ください。
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