第9話 森の異変
最初の依頼から一ヶ月ほど。
僕とアクトゥは週に3回のペースで依頼を受け、完了させていた。
今日もまた、とある依頼を受けて暗黒の森の浅層に来ていた。
「オークの討伐及び群れの調査、か。」
オーク。僕にとっては因縁のある魔物だ。
あの日の僕は、弱かった。
今の僕であれば、複数体であっても比較的余裕を持って処理できると思う。
「ぼっちゃん、今更オークごときに尻込みしてるんですかい?」
「してないよ。ただちょっと、思うところがあってね。」
数刻後、オークの群れを発見した。が…。
「…ぼっちゃん。変だ。様子がおかしいですぜ。」
「おかしい?どこが?」
「オークども、全員気が立っているようだ。目が充血して、鼻息が荒い…。それに、何匹かはうなり声まであげてやがる。」
「…普通じゃない?僕の村周辺のオークはみんなそうだったよ?」
「…は?普通なわけないじゃないですか。何を言ってるでやすか…?あんな状態でずっといたら、生物としておかしいでやすよ。戦闘中ならともかく、ここはオークの巣ですぜ?巣の中でもずっと興奮してるのはどう考えても変でさぁ。」
確かに…。オークだって生き物だ。ずっとあんな状態だったら、睡眠もとれないし食事だって満足にできないだろう。イトラーク村周辺の魔物は、すべて異常だったのか…?
「ぼっちゃん。討伐はやめやしょう。これは明らかな異常だ。すぐにギルドに戻って、報告した方が良い。」
「そうだね。よし、ギルドにもd」
何か、嫌な予感がした。
ぬるい、風が吹いた。
先ほどまで騒がしかったオークたちが、一様におとなしくなった。
そして。
ぐりん。
すべてのオークが、ヒルマたちの方を向いた。
「ッ!?ぼっちゃんッ!!!走れッ!!!」
「「「「ブウウウウウウウウウウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!!!!!」」」」
僕たちも、オークも、いっせいに走り出した。
森の中を疾走する。僕もアクトゥも、全速力だ。
オークたちは暴走したように、ひたすらまっすぐ追ってくる。
「ぼっちゃんッ!このまま街まで走りやすぜ!!!」
「わかったッ」
僕もアクトゥも、肉体強化を使用できる。
また、数時間程度なら走り続けることが出来る。
木々の間をすり抜ける。
森全体がざわついているように感じる。ざわついているのに、小鳥の鳴き声や動物たちの息づかいが一切感じられない。
「森を抜けやすぜッ!!」
視界が開けた。
足場が安定し、一気に加速する。
後方を確認すると、オークたちを撒くことに成功したようだ。
「前方ッ!誰かいやすッ!!戦ってるッ!!」
はるか前方で誰かが戦っている。
一人の剣士が、自身の数倍はある巨躯の魔物と戦っている。
人型、赤い皮膚。全身は分厚い筋肉に覆われており、口からは牙が覗く。
「グウウウウウウウウゴガアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッ!!!!!!!」
オーガが憤怒の雄叫びをあげた。
「ぼっちゃんどうするッ!!?オーガはCランクのパーティで同格ですぜ!!!」
「見殺しにはできないッ!!加勢するッ」
「了解ッ!!!」
だんだんとオーガが近づいてくる。
オーガと戦っている剣士は、僕たちも知る相手だった。
「デランさんッ!?」
デランさんは頭から血を流しながらも、オーガと互角に戦っていた。
オーガを翻弄しながら致命傷を避け、ヒットアンドアウェイに徹しているようだ。
「加勢しやすッ!!!」
「助かるッ!!!!!」
先行していたアクトゥがさらに加速する。
両手に短剣を持ち、ふわりと跳躍した。
「シィッッ」
閃く二連撃、オーガの左腕がだらりと下がった。
二度の斬撃で、硬いオーガの腱を絶ったのだ。
「ハァッ!!」
隙を突いたデランがオーガの股下をくぐり抜けながら、足下から内股を切り裂いた。
「グゴガァッ!!!」
オーガが苦悶の声を漏らし、よろめいた。
しかし、まだ倒れるのは至っていない。
「アクトゥ!!デランさんッ!一撃で首を断ちますッ!!オーガを前屈みにさせてくださいッ」
「了解ッ!!やるでやすよ、おっさんッ!!」
「おうッ俺が左足行くぞッ!おっさんッ!!」
アクトゥとデランが同時に走り出す。
アクトゥがオーガの右足を、デランが左足を切り刻んだ。
「ガァアアアアーーーーーッ!!!!」
オーガがついに膝をついた。
「ぼっちゃんッ!!今ですッ!!!」
父さんの放つ斬撃を見たことがある。
父さんの斬撃を受けて生き残った魔物は、見たことがない。
すべて、一刀の下、両断されているからだ。
どのような魔物であっても、例外はなく。
すべて、両断されていたのだ。
「スゥーーーッ」
息を吸う。それは全身の筋肉を弛緩させるため。
すべてのスキルを総動員する。
ヒントはデランが、魔法を斬ったことだった。
剣に、極限まで薄く魔力を纏わせる。
ヒルマはこの一か月、常に剣に魔力を纏わせる練習をしていた。
剣に魔力が纏われている状態、それが普通。
故に父さんの放つ“通常攻撃”はすべて、必殺の一撃。
「フッ」
息を吐きながら、剣を振る。全身の筋肉を収縮させる。
単純なその動き。
(技名?そんなもんないなぁ、ただの斬撃だぞ?でもまぁ、強いて名付けるとするなら…)
「「一閃」」
ドサッ
オーガの首が落ちた。
ぐらり、と続いて体が傾き、地に倒れた。
「やりやしたね、ぼっちゃん!オーガを倒すなんて大金星ですぜ!!」
「いや、デランさんとアクトゥのおかげですよ。お二人がいなければ、こんなにスパッと倒せませんでしたし。」
「いやいや、そんな謙遜しなくても」
「おいお前ら、くっちゃべってねえでさっさとずらかるぞ。」
「え?でもオーガはどうするんです?素材がもったいないですよ。」
「そんなこと言ってる場合じゃねえ...!今すぐここから離れるぞ!街に向けて走れ!!」
「…もしかして、このオーガも様子がおかしかったんですか?」
「そうだ。俺が受けていたのは暗黒の森の中層調査の依頼だった。中層に入ってすぐ、様子がおかしいオーガを発見した。調査のためにそいつをつけていたんだが、突然こちらに気付いて戦闘になってな。」
「僕たちも同じです。オークの群れに突然襲われました。まさか、この周辺のモンスターがすべておなじような状態に…?」
「その可能性が高い。ほかにも俺と同じ依頼を受けたやつらがいる。そいつらも異変に気付いて、街に向かっているだろう。俺たちも急ぐぞ。俺の予想が当たってりゃ、この後最悪な事態が待ってる。」
「最悪な事態って、まさかと思いやすが…。」
「ああ。スタンピードだ。」
作者のおしり炒飯と申します。
どうぞよろしくお願いいたします。
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