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【超短編小説】下高井戸ポンド

掲載日:2025/12/26

 ぼくが乗っていた電車が駅を出発して、反対側の電車もゆっくりと駅を出た。

 あっちの電車にも、ぼくみたいに学校から帰る子どもたちがいるんだろうか?


 遮断機が上がって踏切を渡ろうとした時に、ふと水溜りが目に入った。

 水溜りは薄く虹色に光っていて、その虹色が風に揺られて水溜りの表面を緩やかに動いていたのだ。

 ぼくはその美しさに心を奪われて立ち尽くしてしまった。

 そしてこの美しさを守護らなきゃならないと思った。



 ぼくはランドセルを遮断機の下に置いてしゃがみ込むと、その虹色に光る水溜りの周りに敷石を並べ始めた。

 灰色の敷石をひとつずつ拾っては水溜りの周りに並べる。敷石をめくると下から知らないおじさんが現れた。

 おじさんは黙ってこちらを見ていて、何度か瞬きをすると、敷石をひとつ吐き出した。

 線路の石はこうやっておじさんが吐き出しているんだな、と思った。

 そのおじさんは誰が吐き出したんだろう?



 ぼくはおじさんが吐き出した石に触らないように、古くなった敷石を選びながら、虹色の水溜りに沿って出来るだけ綺麗に並べながら考えていた。

 しばらくは黙ってぼくを見ていた踏切警手が、敷石おじさんの視線に気づいたのか、小さな声でぼそぼそとぼくの背中に向かって言った。

 しかしぼくが聞こえないふりをしていると、踏切警手は胸に下げた大きな警笛を咥えると、短かく、でも強く鳴らした。

 ぼくは驚いて、その時に持っていた敷石を落としてしまった。

 落とされた敷石は虹色の水溜りに落下して水を跳ねかせると、表面の虹を追いやってしまった。



 ぼくは虹色の水たまりが壊れてしまった事が悲しくなったので、踏切警手を睨みつけると、並べた石を蹴散らして逃げた。


 すると、遮断機が降りる前にやってきた働き者の通勤快速列車が勢いよく駆け抜けていった。

 線路の中で轢かれた人たちの血は赤色で、敷石の隙間に溜まっていった。

 でも轢かれた人たちの血は虹色じゃ無かったので、ぼくは興味を失ってランドセルを背負うと、世田谷線のホームに向かって歩き出した。

 踏切警手は事故の責任を取って腹を切った。

 ぼくは置き石なんてしてないからね。

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