雨宿り。「ムギくん」を愛でていたら「ムギくん」に愛されていたようです
「…っわ、ムギくんも雨宿り?」
「ニャア」
急に降ってきたそこそこの雨量に、慌てて走り馴染みの駄菓子屋さんへ。
バシャバシャと音を立てて走ってきたせいでスニーカーは泥がつき、靴下までビショビショに。
駄菓子屋の軒先には古いベンチが置いてあり、とりあえずムギくんの隣へ腰掛ける。
ムギくんはこの駄菓子屋さんの看板猫で、キラキラした太陽みたいな毛色の雄猫。
たまに駄菓子屋のおばあちゃんが大きな声で「ムギーーー!おやつだよー!」って家の中に声をかけていた。
名前の由来はきっとこのキラキラの毛並みだろうな。
靴下まで濡れてしまうくらいここまで走ったのは、片思いしている彼がここに住んでいるからで。
少し浮世離れした雰囲気に、やる気の無い目と無精髭に何故か心を打ち抜かれ…。
なんていうか、明治時代の小説家のような雰囲気がちょっとあって、レトロ可愛いに目がない私には垂涎物でした。
出かけている日も多いみたいで本当にたまにしか見かけることもないけれど。
走ってきたはいいものの、今日はおばあちゃんも見えないし、人の気配もないので来た意味はなかったようだ。
あ、でもムギくんは居るから来た意味はあるか。
「ムギくん、可愛いね」
「ニャアン」
「私ムギくん大好きなんだぁ」
「生きてて偉いね、ムギくん」
「存在してくれるだけで十分だよ」
「わ、天才!ムギくんすごいよ」
「いい子だね、ムギくん。大好き」
「毎日ムギくんに会いたいな」
「目が覚めてね、朝一番にムギくんに会いたい」
「好き、本当に可愛いねムギくん」
生粋の猫好きとしてはどうにも我慢ができず、持ちうる限りの語彙力でとにかくムギくんを可愛がる。
ああ、ムギくん可愛い。本当に可愛い。存在が天才。居てくれてありがとう……、
その時、ガラガラ!と大きな音を立ててベンチの後ろの木製の窓が開いた。
そこに居たのはなんと、私が絶賛片思い中の愛しの彼で。
「…ごめんね。なんか勘違いしてるみたいだけど、そいつの名前はチャチャだよ」
「あれ?でも、おばあちゃんはムギくんって…」
「……………麦って、俺の名前」
「え゛!?」
「気になってた女の子にさ…そんなに名前呼ばれて好き好き言われると、ヤバいんだけど」
大きな手で口を覆う、愛しの彼こと麦さん。
赤く染まった頬からは、いつの間にか晴れた天気とは裏腹に雨のような汗の粒がツーッと首筋に流れていく。
「ね。俺のこともそいつみたいに可愛がってくれる?」
今度は私が赤くなる番みたい。




