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ある王宮の日常とささやかな非日常について(シリーズまとめ版)  作者: あいの あお
第六章 アマリリス令嬢の恋と友情、ぬいぐるみについて

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24.鍛錬場


 グローリアは学園に入学してからも週末には毎週のように騎士の鍛錬場に通っているが、お目当てであるアレクシアやポーリーンが常にいるわけでは無い。ましてやふたりが揃うことはあまりなく、だからこそふたりが揃っている日はふたりが立ち去ってしまうまで何時間でも齧りつくように鍛錬場に滞在し続けた。


 本来であれば鍛錬場の見学に来た者は専用の入り口から入ることになっており、そちらからは鍛錬場には入れず観覧席へと直接上がるようになっている。

 けれど、グローリアは駄目だと知りつつもあえて正宮から入り中庭の回廊を抜けて鍛錬場の脇から観覧席へと上がるようにしている。ほんの少しでもいい、アレクシアと関わる糸口が欲しい、ただそれだけのために。


 グローリアが鍛錬場へ行くと、鍛錬場にいさえすれば必ずアレクシアがグローリアの元へとやって来る。それは十三歳で鍛錬場へ通い始めた頃から変わらない。なぜなら、アレクシアが居る時はアレクシア以外に促されてもグローリアが観覧席へと上がらないからだ。


 グローリアは微笑みひとつで相手を魅了し黙らせてしまうためほとんどの騎士たちは太刀打ちできず、そうでなくとも公女という身分が相手では強くは出られない。

 通路を外れて鍛錬場の中まで入ってくるようであれば規則を盾にそれなりの対応もできようが、グローリアは絶対にギリギリのところから中へは入ろうとしない。


 それでも鍛錬場の側にいれば騎士たちは気になるし危険でもあるためなんとか観覧席へと誘導したい。結果としてグローリアが来れば誰かがアレクシアに声をかけ、アレクシアがグローリアの元へやって来るのだ。

 唯一の例外がポーリーンで、グローリアはポーリーンに声を掛けられた時はアレクシアと話せずとも諦めて観覧席へ上がるのだが、ポーリーンはグローリアを見るといつも嬉しそうにほんのりと口角を上げるだけなのでほとんどの場合、結局はアレクシアが来ることになる。


 アレクシアもポーリーンもいなければ、グローリアは何も言わずにそのまま観覧席へと上がる。もしかしたら途中から来るかもしれないので、ふたりがいないと分かっても短時間ではあるが観覧はするのだ。

 やろうと思えば勤務を調べることができないわけではないのだが、ただでさえ規則を破っているのでそれ以上権力を笠に着ることは控えている。


「ご機嫌麗しゅう、グローリア様。デルフィニウムの精が舞い降りたかと思いました。涼やかな青も大変お似合いですね」


 その日もグローリアが鍛錬場を訪れると程なくしてアレクシアがやって来た。額に汗が光っているのは今の今まで鍛錬をしていたからだろう。アレクシアは第一騎士団の騎士の中では珍しく多くの時間を鍛錬に費やしている。そんな努力家なところもまた、グローリアの心を掴んで離さないのだ。


「アレク卿」


 グローリアが振り向くと、アレクシアは三歩の位置で止まりふわりと微笑むと優雅に腰を折った。


「あら、こちらをお使いになって」


 グローリアは用意していたハンカチをさも今思いついたようにドレスの隠しポケットから出してアレクシアに差し出した。


「しかし…汚してしまいます」

「構いませんわ、お使いになって。わたくしが刺繍したものなのですけど、よろしければ差し上げますわ」


 上質な絹の白いハンカチに刺したのは淡いピンクのライラックの花。薄紫にしなかったのはあまりにも象徴的過ぎて渡すことが躊躇われたからだ。

 グローリアが自らのハンカチに刺したのがライラックだっただけ。たまたま、汗に気が付いたので自分のハンカチを渡しただけ。その花言葉もたまたま『淡い恋心』だっただけだと、グローリアは自分へ言い訳をした。


 グローリアがハンカチを差し出したまま一歩前に出ると、アレクシアはふっと表情を緩めてハンカチを恭しく両手で受け取った。


「素晴らしい刺繍ですね、使うのがもったいないな…ありがとうございます」

「ぜひ使ってくだされば嬉しいわ」


 たまたまで渡したのにあまりにも押すのもおかしい。もしもこれで断られたらどうしようとグローリアは内心震えあがりそうであったが、無事に受け取ってもらえたことでほっとして微笑んだ。


「今日も皆様に差し入れをお持ちしましたの。合間の休憩にでも召し上がってくださいまし」


 グローリアが一歩下がってちらりと後ろを見ると、ドロシアとサリーが持っていた籠を差し出した。中に入っているのは日持ちのする焼き菓子だ。ひとつひとつ個包装にしてあるため、今食べてもらえずともいずれ誰かが食べてくれるだろう。残りの籠はいつも通り既に通用口から運び込み、休憩室へ届けてもらってある。


「いつもお気遣いありがとうございます、グローリア様。甘い香りがしますね…イーグルトン公爵家の焼き菓子はとても美味しいと皆で争奪戦になるのですよ」

「まぁ、では次の機会にはもっと沢山お持ちしますわ」


 おどけたように籠ふたつをひょいと受け取ってくれたアレクシアにグローリアは思わずふふ、と声を出して笑った。だらしなく頬が緩むのが分かるがどうにも止められなかった。


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