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ある王宮の日常とささやかな非日常について(シリーズまとめ版)  作者: あいの あお
第六章 アマリリス令嬢の恋と友情、ぬいぐるみについて

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23.セオドアと友人と 2


 恐縮しきりのセオドアににっこりと社交用ではない笑顔を向けたグローリアに、サリーは驚いたように目を丸く大きくしてドロシアは数度瞬きをした。公女として常に微笑みを浮かべているグローリアではあるが、様々面倒なことになるので外では満面に笑むことは少ないのだ。特に男性には。


「あら、謙遜しなくていいのよセオドア卿。あなたが通りがかる度にわたくしはとても助かっているのだから」


 グローリアが笑みを浮かべたままで頷くと、セオドアは「そそそそう、ですか……」とまた困ったように眉を下げた。


 セオドアは内面を知ってしまえば体の大きな可愛らしいテディ・ベアのような騎士なのだが、知らない者にはただそこにいるだけで大変な威圧感がある。文官に絡まれようとも騎士に絡まれようとも、セオドアを隣に呼べばそれだけでセオドア自身が何もせずとも無理を押し通そうとする者はいない。セオドアはただ、そこに居てくれるだけで良いのだ。グローリアの心も幾分か癒されてちょうどいい。


「そうなのですね。私たちがご一緒できないときはベイカー様がグローリア様を守ってくださっているのですね…ありがとうございます!」


 セオドアを見上げるサリーの表情がぱっと明るくなった。セオドアもグローリアを守る同志なのだと認識したのだろう。ドロシアも凛とした顔立ちに淡い微笑みを浮かべて「それならば少し安心ですね」と頷いている。

 グローリアの得難い友人ふたりは、侍女が一緒とはいえグローリアがひとりで騎士団を訪問することをいつもとても心配しているのだ。


「ええ、そうよ。あなたたちも困ったら起きたらセオドア卿に声を掛けると良いわ」


 グローリアが閉じた扇を口元に当ててにんまりと悪戯っぽく笑うと、ぎょっとしたセオドアが「ぇえ!?」と声を上げた。


「いえ、あの、いつでもお、お役に、立てればあの、私は嬉しいですが………あの、無理だけは、その、しないでくださいね………」

「無理などしておりません!!」


 ぎゅっと両のこぶしを握りサリーがセオドアの目を見て力強く言った。サリーもこの短い時間で随分とセオドアに慣れたようだ。セオドアだから当然だと、なぜだかグローリアが誇らしくなった。

 サリーの勢いに押されてセオドアが「そそ、そうですか!?」と大きく…恐らく本人からするとほんの少しだけ仰け反った。


 仰け反ったセオドアの後ろ、騎士棟側から歩いてきた第二騎士団の青の制服を着た騎士がグローリアたちに一礼して横を通り過ぎて行った。

 ふと、気が付いてグローリアは小さく首を傾げた。


「そうだセオドア卿、あなた、もしかしてどこかへ行く途中だったかしら?」


 ちょうどセオドアを見かけたため回廊でいつものように呼び止めてしまったが、セオドアは今日は騎士棟側へ向かう途中ではなく騎士棟の方から回廊へ向かってきたところだった。


「あ、はい。えっと、今日は午後からの王都の巡回業務があるので、その、駐屯所へ行くところでした」

「あら。ごめんなさいね、呼び止めて。時間は大丈夫かしら?」


 ずいぶんと長く引き留めてしまった気がする。ちらりとドロシアを見るとすっと懐中時計を確認し、「十五分ほどです」と教えてくれた。


「はい、えっと、今日は中央区の巡回なので、充分間に合うので、その、大丈夫、です!」


 セオドアは小刻みに何度も首を縦に振った。

 中央区は王城の正門を出てすぐの地域だ。駐屯所は更に南区寄りにあるので少々距離はあるが他の区域の駐屯所よりは間違いなく近い。馬で行くのならば十分もかからないだろう。そういえば、セオドアが乗れるような馬はいるのだろうか。


「そう、ならば良いのだけど………セオドア卿」

「はい!!」

「励みなさい」

「はい、ありがとうございます!!」


 最近ではすでに恒例となった挨拶を交わすとセオドアはグローリアにぺこりと一礼し、更にドロシアとサリーにもぺこりぺこりとそれぞれに一礼してのしのしと足早に去って行った。


「ね、可愛らしいでしょう?」


 セオドアの大きな後ろ姿を見送ると、グローリアはドロシアとサリーを振り返り微笑んだ。


「そうですね、ぱっと見は大きいですし恐ろし気ですが、ずいぶんとこう……中身との差がすごいと申しますか」

「なんだか、とっても優しそうな方ですね」

「ふふ、そうでしょう?」


 グローリアの大切な友人ふたりもセオドアに悪い印象を抱かなかったことが分かりグローリアはほっとした。

 ドロシアとサリーのふたりもそうだが、グローリアにとってセオドアのように自然に接することのできる相手はとても貴重なのだ。身分の差はあるが、グローリアはふたりにもセオドアを知って欲しいと思っている。


 初の対面が思いのほかうまくいったことで大変満足したグローリアは、外面を取り繕うこともすっかりと忘れにこにこと、周囲が思わず見とれてしまうほどの輝かしい笑顔を浮かべてご機嫌でふたりを連れて鍛錬場へと向かった。


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