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ある王宮の日常とささやかな非日常について(シリーズまとめ版)  作者: あいの あお
第六章 アマリリス令嬢の恋と友情、ぬいぐるみについて

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22.セオドアと友人と 1


「ひっ…」

「っ!」


 グローリアが初めてセオドアを紹介した日、その日一緒に鍛錬を見に来ていたサリーは目を見開いて固まり、顔を青くして小さく悲鳴を上げた。ドロシアも悲鳴を上げることこそ無かったが、見上げたまま呆然としばし絶句していた。


「大丈夫よ。セオドア卿は体こそ大きいけれどその辺りの貴族出の騎士よりも余程紳士だわ」


 そう言って笑うグローリアと固まるふたりを見比べつつ、セオドアはまるで叱られた大型犬のようにしょんぼりと肩を落とし、ただでさえ五歩ほどあった距離を更に一歩後ろに下がって広げた。


「せ、セオドア・ベイカーと申します。あの……なんだかその、す、すいません……」


 眉をハの字にして更に肩を丸めるセオドアは、どれほど小さくなってみせてもやはり大きい。家で騎士団を持ち、普段から体の大きな筋肉質の父を見慣れているグローリアでさえ驚いたのだ。騎士を見慣れていないふたりにはさぞかし恐ろしく見えることだろう。

 そういえば、先だっての騒動の時に学園へ派遣されていた第三騎士団の騎士たちは皆、それほど体格の良い者たちでは無かった。生徒たちが怖がらぬよう配慮してくれたのだろうか。


 どうしたら良いのか分からないとばかりに、セオドアが今にも泣いてしまいそうな顔でグローリアをちらりと見た。ドロシアとサリーならその内きっとセオドアの良さを分かってくれると思うがこれが初の対面だ、これ以上はセオドアにも気の毒だろう。

 早々にセオドアを解放してあげようとグローリアが声を掛けようとしたところ、サリーが顔を上げて一歩、前に出た。


「いえ、あの、私こそ申し訳ございません………」


 胸の前で組んだ手は少し震えているが、それでも真っ直ぐにセオドアの顔を見上げている。セオドアは驚いたように目を瞬かせると困ったように眉を下げて頷いた。


「あの、こ、怖がられる、のには、その、慣れています、から……」


 ちらりとドロシアを見るとすでに初めの驚きから立ち直ったようで、興味深そうにじっとセオドアを見つめ「大型犬…?いえ、熊かしら…?」と呟いている。これなら大丈夫かもしれないと、グローリアはこのまま様子を見ることにした。


「あの、ベイカー様も騎士様なのですよね…?」


 グローリアと大差ない身長のサリーが何とか恐怖をほぐそうとしているのか、ぱちぱちと何度も瞬きを繰り返しながら懸命にセオドアを見上げている。


「あ、はい、えっと。はい、第三騎士団所属、です」

「そうですか………」


 セオドアもサリーに負けないくらいに何度もぱちぱちと瞬きを繰り返して何度もこくこくと頷いた。黒のつぶらな瞳が今日も気の毒なほどに泳いでいる。


 初めてセオドアに助けられたあの日から、グローリアとセオドアは何度か顔を合わせていた。ただ遠い場所から目礼をすることもあれば、またグローリアが絡まれているところにちょうどセオドアが通りがかり、これ幸いとセオドアを使って逃げることもあった。

 セオドアを怖がることなく当たり前のように目を合わせ声を掛けるグローリアに初めはたじたじだったセオドアも、今ではだいぶ普通に話してくれるようになった。


 どうもセオドアは女性と関わるのが非常に苦手らしい。昔から体が大きいことでどうしても怖がらせてしまうため、女性を前にするとどうしたら良いのか分からないのだそうだ。

 そもそも平民出の騎士爵の騎士と公女がよく会話をすること自体が周囲からすれば衝撃なのだが、グローリアはこの巨大なテディ・ベアのような騎士を割と気に入っている。


「セオドア卿、わたくしの大切な友人のドロシアとサリーよ。覚えておいてちょうだい」

 

 グローリアが紹介すると、「ドロシア・ウィンターよ」「サリー・クロフトです」と、ふたりとも軽く頷いて自己紹介した。


「う、ウィンター様と、クロフト様、ですね。よ、よろしくお願いします………」


 セオドアは右手を左肩に当てると、ふたりを怖がらせないようにかゆっくりと腰を折り礼をした。その様子に、グローリアは満足したように笑った。


「見ての通りよ。安心してちょうだい」


 グローリアが微笑みかけると、ドロシアもサリーもじっとセオドアの様子を伺い、頷いた。


「お話には伺っておりましたが、本当に大きいのですね」

「私、こんなに大きな人、初めて見ました…」


 少しでも動けば怖がらせてしまうとばかりにセオドアは息すらも止めているのではないかと思うほどぴしりと固まっていた。観察されるがままになっているセオドアに、グローリアは思わず笑った。


「セオドア卿も、大丈夫よ。このふたりなら安心して良いわ」


 ふふふ、とグローリアが声を出して笑うと、それを見たセオドアも「はい…」と眉を下げ、困ったように微笑んだ。そのやり取りを見ていたサリーがまたセオドアに話しかけた。


「ベイカー様は、何度もグローリア様を助けて下さったのですよね?」

「いいい、いえ、とんでもないです!!たた、助けたなんて、俺…私はいつもその、そこに居るだけで、なな、何もしていない、ので……」


 セオドアはおろおろと視線を彷徨わせ、ぱたぱたと小さく胸の前で両手を振った。グローリアにするようにぶんぶんと振らないのは、サリーに対する力加減がまだ分からないのだろう。サリーの方はすでに震えも止まり頬には血の気が戻っている。


 そういえば普段のセオドアの一人称は俺なのね、と初めて聞いたグローリアは少し意外に思った。


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