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ある王宮の日常とささやかな非日常について(シリーズまとめ版)  作者: あいの あお
第六章 アマリリス令嬢の恋と友情、ぬいぐるみについて

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16.隣国の思惑


 労働力や運搬などの経費をこちらが全て担うにも関わらず採掘した金の五割を寄こせというのも、こちらの土地を何の見返りもなく勝手に使おうという発想も、成人にすら満たないグローリアが考えたところであまりにも酷い。


「まぁ、ね。本命が別のところにあったからこその無茶な提案だよ」

「本命、でございますか?」

「そう。最初からこちらが、飲めない、ふざけるな、って言ってくるだろう前提の提案なんだよ」


 交渉の糸口を掴むにあたり、まず相手に飲めないような高い要求をしてそれから本当に飲ませたい要求をするという手法がある。これほど国力に差がある国同士でどれだけの効果があるのかグローリアには分からないが。


「では、隣国はいったい何を?」


 首をかしげて聞いたグローリアに長兄は小さく頷き、一枚の姿絵を差し出した。そこに描かれているのは一人の少年。白と見紛うほどに薄い銀の長い髪を緩く編んで前に垂らし、長いまつ毛に覆われた、少し釣り気味の目の色は金………隣国の、王族の色だ。


「金鉱山については我が国が全権を得る。その代わりとして採掘された金をあちらの持ち分、つまり採掘量の六割までを相場の八割の値であちらに卸す。それと、こっちが本命でね………あちらの第三王子の妃として我が国の王族かそれに近しい血筋の令嬢を嫁に、ということだ」

「第三王子妃に、でございますか?」

「そう。隣国とうちとでは国の規模が違い過ぎる。普通に縁談を申し込まれてもこちらにはそこまでのメリットが無いからね、我が国は当然のように断って来た」


 初耳だった。隣国から縁談が来ていたことも、それを当たり前のように断ってきたこともグローリアは知らなかった。ともすれば関係が悪化しそうなものではあるが、それが国力の差というものなのだろう。


「今回は、あちらにとってはまたとないチャンスなんだよ。どうやっても採掘できない鉱山の代わりに、我が国との強い繋がりという未来への保険を得ることができる、ね」


 この国は立地の良さも相まって元々豊かな国ではあるが、他国に比べて宗教的な縛りが緩いせいもあり独自の宗教や価値観を持つ小国や民族が庇護を求めて寄り集まり更に大きな国となっている。

 この国の国教である女神の教えから、この国に所属する限り宗教や思想の自由は守られる。当然、納税の義務やこの国の司法に従う義務は出るが、それもまた女神の教えのせいで決して他民族に不利になるものでは無い。力で従えるのではなく、慈愛で従えるのがこの国なのだ。

 ゆえに、他国からの侵略ともなれば普段は繋がりの緩い元小国や他民族も大いに奮戦する。この国を守ることこそが弱い彼らの自由を守ることに繋がるからだ。


 この国の王族と繋がるということは、その力を後ろ盾にすることができるということ。安定して独立しているとはいえ小国の隣国からすれば、他国から…主に帝国から自分たちを守るためにも喉から手が出るほど欲しい繋がりなのだ。


「まぁ、そんなわけでね。うちとしても金鉱山の全権は得られるなら欲しいからね。第三王子妃として隣国へ嫁がせる令嬢を選ぶことになった」


 とん、と長兄が絵姿を指で叩いた。この絵姿の少年が第三王子なのだろう。色素の薄いグローリアよりも更に淡い色彩を持つ少年は絵姿の中で少し大人びた微笑みを浮かべている。白猫のようだわ、とグローリアは思った。


「そこからは、私が話そう」


 それまで静かに長兄の話を聞いていた父が、膝に両肘をつきゆっくりと身を乗り出した。


「第三王子は今年で十六歳になる。お前と同じだ、ジジ。立場的に無いとはいえ王妹であるオリヴィア様は二十三歳で年が上過ぎるし、王女であるクリスティーナ様はまだ五歳。結婚はおろか婚約すらあり得ない。そうなれば公爵家の令嬢が候補に挙がって来るが、現在の公爵家で第三王子と釣り合う年齢なのはティンバーレイク公爵家のモニカ嬢とお前のふたりだけだ」


 淡々と話す父の話を聞きながら、隣で長兄が長い脚を組み、目を閉じてトントンと膝を指で叩いている。ちらりと長兄を見るも、動きのない表情と見えない瞳からはグローリアには何の感情も読み取ることができなかった。


「であるならば、ティンバーレイク公爵家の後継であるモニカ様ではなくわたくしが嫁ぐのが順当なのではございませんの?」


 長兄から父へ視線を戻すと、グローリアは言った。もとよりグローリアの婚約が十五となった今も決まっていないのはこういうことがあったときのためでもあるはずだ。外交上、政治上、王族に近い血を持つ未婚女性は大きな意味を持つときがある。継承権の問題もあり未婚のままでいる王妹殿下とはわけが違うのだ。


「隣国が求めたのが王太子妃であればお前かオリヴィア殿下が最有力だった。だが、王太子と第二王子には既に妃も子もいる。年の離れた第三王子だけが未婚だった。第三王子は婚姻後、王族籍に残らず臣下に降り公爵家を立てることになっている」

「つまり?」

「お前の血も、お前自身も、小国の第三王子……しかも王族籍から抜け公爵になる者程度にくれてやれるほど安くはないということだ」


 グローリアは淡い紫の瞳を細め、父親を見定めるように真っ直ぐに見つめた。


「それはモニカ様とて同じことではございませんの?」

「まぁ、そうだな。今は我が家の方が血が近いというだけで、辿れば五大公爵家は皆王家の分家であり、その後も何度か王族の血が入っている。だが、国としてはそれでもお前を外に出すことはできない」


 言い切ると、ふぅ、と父がため息を吐いた。ティーカップに手を伸ばすも既に空だったようで、テーブルに置かれた大きなポットから手ずから紅茶を注ぐと、ぐっとひと息に飲み干した。


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