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ある王宮の日常とささやかな非日常について(シリーズまとめ版)  作者: あいの あお
第六章 アマリリス令嬢の恋と友情、ぬいぐるみについて

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2.グローリアの三人 ふたり目 1


 ふたり目に出会ったのは十三歳の時。初めて父から許可が下り、三年に一度行われる国王主催の剣術大会初日の観覧に母と行った時のことだった。


 グローリアたちの席は王族席の近く、一般観覧席からは少し離れた場所にあったが会場中の異様な熱気は十分に伝わってきており、初めてその様を見たグローリアは恐怖……を覚えることも無く、ただただ大会が行われる会場の見事な装飾に目を奪われていた。


 楕円形の闘技場を中心としてぐるりと囲むように観覧席が配置されている。楕円の長い面の中心部、最も高い位置に王族席があり、王族席から見て左右に一段下がって特別観覧席がありグローリアたちは左側に控えている。さらに段が下がり貴族観覧席と一般観覧席が場所ごとに階段と壁に区切られて配置されていた。


 観覧席を支える何本もの大理石の太い柱は全て精緻な彫刻が施されており、階段ひとつ、王族席や特別席を覆う天井ひとつとっても滑らかに削られ美しく装飾されている。これが数百年も前に建てられたのだというのだから、その歴史の重みと壮麗さに良いものを見慣れているはずのグローリアもため息しかでない。


 グローリアの生家イーグルトンは私設騎士団を持っている。イーグルトン主催の剣術大会も定期的に行われており、そこには幼いころから公爵家の姫として何度も出席しているためグローリアからすればこのような雰囲気も見慣れている。

 ただ、三年に一度のこの国王主催の剣術大会は、優勝者は王国に害をなすようなもの以外ならばどんな願いでも王に叶えてもらえるという褒美が与えられるため、出場者たちの力の入りようは他の剣術大会の非ではないようだった。


「そういえばグローリア。マクラウド伯爵家から書状が届いていてよ。優勝するので見ていて欲しい、とね」


 この大会で優勝しグローリアとの婚姻を願い出るつもりなのだろう。グローリアはイーグルトン公爵家唯一の姫であり、伯爵家程度ではグローリアに縁談を申し込むにはだいぶ足りない。国王主催剣術大会の優勝者の願いであれば父も周囲も納得せざるを得ないというところか。


 マクラウド伯爵家の長子は現在二十三歳、グローリアの十歳年上で第一騎士団に所属しているらしい。マクラウドはイーグルトンと関わりの深い武門の家でありグローリアも幾度か顔を合わせたことがあるはずだが、この次期伯爵は特に記憶に残っていない。


 母が扇でグローリアによく似た美しいかんばせを扇ぎつつちらりとグローリアに視線を送ったが、グローリアは母の方へは視線を向けずに「そうですか」と言うに留めた。


 そもそもグローリアは自分の婚姻に一切の夢を持っていない。グローリアは現イーグルトン公爵家では唯一の娘であり、王族の血を引く姫だ。現国王陛下とグローリアの父はいとこにあたる。グローリアの祖母が先王陛下の双子の妹なのだ。そのため、グローリアも大変低いながらも王位継承権を持っている。否が応でも、グローリアの婚姻は政治色が強いものになってしまうのだ。


 とはいえグローリアをここへ連れてきた以上、イーグルトンにとってマクラウド伯爵家との婚姻は何かしら悪くない事情があるのかもしれない。それとももっと別の何かがあるのか………。

 どちらにしろ、グローリアがすることはひとつ。国のため、家のため、どのような婚姻でも受け入れる。ただそれだけのことだった。


 きゃああああああ!!!という先ほどまでとは違う甲高い歓声に、深く思考に沈んでいたグローリアの意識が無理やり引き戻された。驚いて思わず周囲を見回すと頬を染めた貴婦人や令嬢たちが色めき立っている。一般観覧席でも立ち上がっているのは女性たちが多いように見える。

 何事かと思って闘技場を見ると、陽の光に輝く漆黒とグローリアとよく似た淡い金が風になびいていた。


「女性騎士…?」


 少し身を乗り出してグローリアが闘技場を覗き込むと、母がすっとオペラグラスを差し出した。


「ええ、昨年正騎士に昇格したばかりのふたりよ。わたくしはこのふたりをあなたに見て欲しくて今日ここにあなたを連れてきたの」


 グローリアがはじかれたように母を見ると、母は微笑んで頷いた。目を瞬かせて母とオペラグラスを交互に見ていると、母が「始まってしまうわ」と悪戯っぽく笑った。グローリアがおずおずとオペラグラスを受け取ると母も侍女からオペラグラスを受け取り、すっと流れるように目元に当てた。


「御覧なさい、グローリア。騎士にも………戦い方にも、色々な形があるのよ」


 グローリアが促されるようにオペラグラスを覗き込むのとほぼ同時に、打楽器が聞きなれぬ拍子を刻み始める。闘技場の中心に距離を取って立っていたふたりがその律動に合わせるように全く同じタイミングですっと長剣を鞘から引き抜いた。ふたりが鞘を空高く放ると側に控えていた騎士たちがそれをぱっと受け止めてすっと後ろへ下がる。ふたりが目の前に長剣を掲げると同時に、待っていたように様々な楽器が初めて聞く旋律を奏で始めた。


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