14.類は友を呼ぶ
「リビー嬢は…俺の見た目は、気にならないのか?」
様々なものが頭をよぎり、ジャックは苦く笑った。ジャックの苦手なジャックの容姿。この甘ったるい容姿自体が苦手なわけではない。容姿がもたらす様々な誤解ややっかいごとが苦手なのだ。恐らく、リビーにも少しは厄介ごとが降りかかるだろう。
リビーはぱちぱちと何度も瞬くと、一歩離れてジャックを上から下まで何度も何度もじっくりと見た。
「うーん…気にするところってありますか?不衛生なわけでもないですし、奇抜なわけでもないですし…」
腕を組み眉根を寄せ、リビーは「うーん?」と唸っている。奇抜な騎士というのも中々難しいと思うが、なるほどリビーにとって顔や姿かたちはあまり大きな意味を持つものでは無いようだとジャックは思った。それでも不快な思いはさせてしまうかもしれない。そう言おうと思ったとき、リビーが「あ!!!!!」と大きな声を出した。
「ああああ!!!!かっこいいとは思いますよ!?髪も目も綺麗ですし!すいません、うっかり褒め忘れてました!!!」
しまった!という顔でリビーがジャックの容姿を褒めた。褒めはしたが聞かれたから褒めた、程度のまるで付け足しのような褒め方だった。ははっ、とジャックは声を上げて笑った。
「それはありがとう。不愉快じゃないなら光栄だよ」
あーあ、とジャックは思った。拒絶する理由が何も浮かばない。久々に会えたリビーの楽しそうな笑顔を、ジャックも嬉しいと思っているのだから。嫌がらせがあったとしても何とかなるだろう。リビーには、王妃殿下たちがついている。いざとなれば自分も精いっぱい守ろう。
「というわけで、私にしましょうジャック様!こう見えて王妃殿下の侍女で伯爵令嬢で結婚適齢期!それなりに美人だしお胸だってあります!とーってもお買い得ですよ?今ならお試し期間も付けちゃいます!!」
一気にまくし立ててぐっと豊かな胸を反らしてみせるリビーにジャックはどう反応すべきか非常に困った。否定はしないが肯定するのも駄目な気がする。返答に窮していると、リビーがジャックに手を差し出した。にっこりと、見る者を幸せにするような笑みを浮かべて。
「私と、毎日大笑いして過ごしましょう、ジャック様!」
ジャックにはもうリビーの手を取らないという選択肢は無い。ジャックは差し出された手をそっと握った。逃げ道だけは残しておこう…リビーのために。
「じゃぁとりあえず、まずはお試しかな?」
にっと笑って片目を瞑ると、そのまま音を立ててリビーの指先に口づけた。目を瞬いて数瞬、リビーがぱぁっと満面の笑みを浮かべてぎゅっと両手でジャックの手を掴んだ。
「はい!お試しで!!よろしくお願いします!!」
ぶんぶんと手を振るリビーに苦笑していると、後ろから「よかった…!」という今はもうずいぶんと聞きなれた声が聞こえた。振り向くと、透き通る赤い髪と艶のある黒い髪が回廊の柱の陰から覗いていた。
「あ、先輩!!」
パッとジャックの手を離すと、リビーがぱたぱたと駆けだした。柱の陰からばつが悪そうに微笑んで現れたハリエットにリビーががばりと抱き着いた。
「やりました、先輩!私にも素敵な恋人ができましたよ!!まずはお試しですけど!!」
「わわ!」と慌てながらリビーを抱き留めると、ハリエットはそっとリビーの頭を撫でて「良かったわね」と優しく笑った。後ろからひょっこり出てきた黒髪の相棒が、ジャックと目が合うとにこりと綺麗に微笑んだ。
「…いつからいた」
ジャックが半目で聞くと、ジャックの方へ歩いてきたケネスが珍しく悪い顔をして笑った。
「駄目だねジャック。いくら背後だからって気配に気づかないなんて」
「うるさい、綺麗に消してる気配なんて感じる余裕があるか」
拗ねたように言うジャックに更に珍しくケネスが声を上げて笑った。
「ふふ…言ったでしょ?必ず君が良いって言ってくれる人がいるって」
ちらりとケネスの向こうを見ると、にこにこと報告をするリビーをとても優しい目で見ながらうんうんと頷いているハリエットが見える。時折、「お外であんな風に走っては駄目よ?」などと駄目出しが入るのが面白い。リビーも「はぁい!」と言いつつまたにこにこと話を続けている。
「類は友を呼ぶんかねぇ…」
そんなふたりを眺めつつジャックが言うと、ケネスもちらりと後ろを振り返った。
「かもしれないね」
その顔だとルイザに絞られるから少し落ち着いてから戻ろうとリビーの頬を撫でるハリエットの胸元に、緑と赤の四つ葉のクローバーが光る。ハリエットの穏やかな表情に、例の婚約者とはきっとうまくいってるのだろうとジャックも嬉しくなった。心は痛まない。むしろ温かい。なるほど確かに、これはとても大切な友人だ。
ちらりとケネスを見ると頷いたので、ゆっくりとふたりに近づいていく。ハリエットがジャックに気づくと嬉しそうに破顔した。
「ジャック様、ありがとうございます」
リビーの肩に手を添え、反対の手でリビーの頭を撫でながらハリエットがにっこりと口を開けて笑った。淑女としては失格の、明るくて優しい、ジャックにとっては好ましい笑顔だ。
「何と言うか…大事にします?で正しいですかね?」
ジャックがお道化て言うと、「なぜ疑問形なのです!」とハリエットは楽しそうに笑った。
「リビーはその…淑女としてはまだまだですし、王妃殿下付き侍女としては後ほどまたお説教なのですけど…とても良い子なのです。それだけは間違いなくて…」
お説教のところでハリエットはちらりとリビーを見て眉をひそめ人差し指をめっとばかりに立てた。見ていたリビーが「はぁい」と言いながらジャックを見て、えへへと照れくさそうに笑った。
「ありがとうございます、リビーに気が付いてくださって」
ふわりと嬉しそうに笑うハリエットに、なるほど似ているとジャックは思った。リビーも先ほど言っていた。『そんな先輩に気づいてくれる人が大好き』と。先輩後輩というのは考え方も似るものなのだろうか。
「こちらこそ、ありがとうございます、ハリエット様」
色々なありがとうを込めてジャックは右手を左肩に当てて礼をした。そしてジャックも口を開けて笑った。ハリエットはきょとんと目を瞬くと、「はい!」とまた笑った。




