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ある王宮の日常とささやかな非日常について(シリーズまとめ版)  作者: あいの あお
第五章 捨てられ騎士の失恋未満と赤い花について

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13.大好きな

 苦笑して、そして目を閉じひとつ大きく息を吐くとジャックは聞いた。


「あのさリビー嬢、なんで俺なのか聞いてもいい?」

「へ?なんで、ですか?」

「そう、なんで」


 ジャックが今まであしらってきた女性たちのようにリビーは勘違いしていたようには見えなかったし、気のある素振りも全く無かった。一緒に過ごした時間は間違いなく楽しくて心地よくて、気づけばジャックだって『次』を期待していたくらいだ。だがそれは、恋になるほどのことではなかったはずだ。今は、まだ。


 きょとりと、リビーが小首をかしげ「ああ!」と何かに気づいたように言うと、またとても嬉しそうににっこりと笑った。


「それはですね、ジャック様が先輩のことを好きだからです!!」

「………は?」


 今度はジャックがきょとんとする番だった。なぜここでハリエットの名が出るのか。しかも他の女性を好きなことが理由とはいったいどういうことなのか。ジャックにはやはりさっぱりと分からない。


「えーっと、ハリエット様?」

「はい!!王妃殿下付き侍女のハリエット・メイウェザー様です!」


 我が意を得たり、とリビーは満面の笑みで頷いた。


「先輩はすごく上手に猫を被るので、実は好意を持つ男性は割りと多いんですよ」


 本人はさっぱり気づいてないんですけどね、とリビーが楽しげに笑う。

 実際、騎士団でもそれなりの数の先輩が粉をかけてはみたそうだが、さらりとあしらわれて泣いて帰ったと聞いたことがある。侍女として猫を被っている時のハリエットはまさしく『王妃殿下の侍女』のため、自分が好意の対象となることを想定していないのだろう。


「侍女の時の先輩は美人ですし、いつも穏やかに微笑んでて、所作も綺麗で、でもきりっとしててかっこよくて、いざとなれば心も体も強くって……………でもそれって…うまく言えないんですけど、先輩じゃないと思うんです」


 俯き、眉をハの字にしてリビーが言った。

 王妃殿下付き侍女として表向きは完璧な淑女として生きるハリエット。ジャック達がハリエットの柔らかい部分を知ることができたのは、きっととても幸運だった。きっと視察という場で、そしてあの日出会ったジャック達が第一騎士団らしくない騎士だったからこそ知れた一面だったのだろう。


 「先輩は…」そう呟くと何かを思い出すように、リビーはふわっと、とても優しく笑った。


「本当の先輩は、優しくって、あったかくて、心配性で、涙もろくて、甘すぎるくらいに甘くって。ちょっと慌てん坊で、実はすぐに表情に出ちゃうし、デニッシュは大口開けちゃうし…」


 リビーの中にはきっと、ハリエットとの思い出が沢山詰まっているのだろう。そしてその思い出はきっとリビーの宝物なのだ。そんな、見ている方まで温かくなる微笑みでリビーは続けた。


「メイウェザーの人は自分の人生を賭けるものに真っ直ぐって聞きますけど、先輩はもう…全然自分で気づいてないですけど、誰に対しても本当に真っ直ぐなんです。一緒に働かせていただいてまだたったの三年足らずですけど、私はそんな先輩が大好きで。だから、そんな先輩の本当に気づいてくれる人が大好きで…そんな人に私も好きになってもらえたら、って」


 ぱっと顔を上げると、リビーは嬉しそうに目を細めてジャックを見た。


「王妃殿下の侍女ハリエット・メイウェザーじゃなくて、私の大好きな先輩…。ジャック様はちゃんと先輩を見て好きだって思ってくれたでしょう?だから私も、ジャック様が大好きなんです!」


 ジャックにはさっぱりとリビーの理屈が分からない。だが、決して悪い気もしないかった。表に見える部分だけで判断されることがあまり楽しいもので無いことはジャックも良く知っている。ジャックのこの容姿に惹かれた女性はジャックを知り、皆口を揃えて「違う」という。


 ハリエットもそうだ。王妃殿下の信頼も篤い美しい完璧な淑女と思って声を掛けたのに、ドレスの裾も気にせず地面に屈みこんで馬車の下を覗いていた日にはさぞかし驚かれることだろう。髪の乱れも気にせず馬車の前で満足そうに頷きながら仁王立ちしている姿も面白かった。ジャック達を見て嬉しそうに口を開けて笑う姿は淑女としては間違いなく減点だろう。ジャックにとっては大変好ましいが。


 「うーん…」とジャックは唸ると、ちらりとリビーを見た。相変わらずにこにこと嬉しそうに細められたハシバミ色の瞳に、ジャックは苦笑した。


「俺は正直、女心が良く分からない。だからはっきり言ってくれれば何とかするけど察してほしいとか、そういうのは無理」

「…はぁ、なるほど?」


 目をぱちくりさせ、何を言いだすのだろうとばかりにリビーは小首をかしげた。


「俺はこんな見た目だけど、王子様みたいなエスコートなんてできないし、したくもない」

「騎士ですから、王子様ではなく騎士らしいエスコートで良いのでは?」


 リビーがきょとんと目を丸くした。それからジャックを上から下まで見て「ああ、そうか、騎士っていうより王子様っぽい見た目だからか」と納得したようにぽんっとこぶしで反対の手を叩いて頷いた。


「女性が喜ぶ場所も知らないし、贈り物も分からない」

「え、面白かったですよ?久々に大笑いしてそのままの気持ちで次の日にお仕事をしていたらうっかりルイザ様に怒られました」


 「たぶん先輩も好きですよ」とリビーがくすくすと笑っている。あれが好きで国王陛下の侍従とうまくいくのか?ジャックはハリエットが心配になった。


「王妃殿下の侍女様ってみんな変わってるのか…?」


 思わずジャックが聞くと、リビーがぎょっとした顔で首を横にふるふると振った。


「違います!断じて違います!!皆さんそれぞれ色々な猫は被ってますが、それぞれとっても素敵な方たちです!!」


 そうこぶしを握って熱弁するリビーを見て、ああ、きっとリビーの先輩たちは皆一般的な淑女と比べると変わっているんだなとジャックは確信した。あの王妃殿下の側近であるということはきっとただの淑女では務まらないのだろう。


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