表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ある王宮の日常とささやかな非日常について(シリーズまとめ版)  作者: あいの あお
第三章 王妃付き侍女と国王付き侍従の恋文とその顛末について

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

51/327

37.恋文と、その顛末について 1

 ダレルの家、ストークス侯爵家は子沢山で、兄が二人、姉が一人、弟が一人、妹が二人の何と七人兄弟姉妹。それゆえダレルひとりが結婚しなかったところで侯爵家が揺らぐようなことも無く、ダレルはこれまで結婚どころか女性にも特に興味が持てなかったため、生涯独身のまま王の侍従としてお仕えすると公言していた。


 ストークス侯爵家の人たちはそもそも家族に対する愛情が強くそれがゆえの子沢山でもあるのだが、ダレルが結婚しないと言い切ったことをとても悲しんでいた。使用人たちも漏れなく『ストークス侯爵家』に染まっているので、あの手この手でダレルの結婚を後押ししようと虎視眈々と機会を狙っていたのだ。


 そこに現れたのがハリエットだった。女性のじの字も出したことのないダレルが突然妙齢の女性を家に連れ込み、それだけでも驚きだったのにふたりだけで話がしたいと応接室に籠ってしまった。

 聞けば相手は伯爵令嬢。王妃殿下の侍女で勤続年数もそれなり。王妃殿下の信頼も厚く公務があれば常に連れ歩くほどだという。見目も良い。性格も悪くなさそうだ。王妃殿下の視察の間にも何通も手紙のやり取りをしているらしい。手紙に対するダレルの反応も悪くないと聞く。

 タウンハウスの執事から連絡を受けたストークス家の面々は、飛んで火にいる夏の虫とばかりにハリエットの囲い込みに走った。


 調べれば浮いた話もなく、それどころか王妃殿下に忠誠を誓い生涯を捧げるつもりであるという。少々年嵩ではあるがそもそもダレルももう三十六歳だ。それに比べればハリエットは六歳も若いではないか。


 しかもたった十日の公務の間にあれだけの手紙のやり取りをしていたのである。当然周りもそれとなく気にかけていたし、国王執務室でもダレルの変化は驚きを持って迎えられた。ハリエットの同僚たちも手紙を見せられる前からハリエットの変化に気づいていた。

 王宮内でも視察団でも、忠義者のふたりが恋に落ちたのでは!?となり周囲に確かめたところ、視察の前日に王妃宮の前で名残惜しそうに共に過ごすふたりが目撃されていた。

 けれども、真面目なふたりは生涯独身を宣言している。決して表立って前に進むことは無いだろう。これは協力してやらねばならぬと国王陛下と王妃殿下の間に手紙が―――しかも早馬を使ったやり取りが復活したのがつい四日前の話だ。


 ストークス侯爵家は王家からの打診を待っていましたとばかりに嬉々として快諾し、メイウェザー伯爵家は良く言えば本人の意思を尊重する家のためハリエット本人が良いのなら、とこちらも快諾。

 そうして、視察から戻った翌日の今日、早速見合いの場が整えられたということらしい。つまり、ほぼ王命。しかも王妃殿下の後押し付きだ。


「はぁ…それはまた…」


 何とも言いようがなくハリエットは天を仰ぎ、大きなため息とともに肩を下げて思い切り脱力した。ポーリーンとアンソニーの王命による結婚にはセシリアも権力の乱用だと、ポール卿の気持ちを無視している横暴だと、あれほどまでに怒っていたではないか。一体全体なぜハリエット達にはそうならなかったのか。


「その、何だかごめん…」


 ダレルが申し訳なさそうに眉を下げた。

 長年国王陛下に仕え、陛下の突飛な一挙一動に右往左往する周囲を見ながら生きてきたダレルはきっと言えなかったのだろう。本当は国王陛下に頼まれて王妃殿下の様子をハリエットに送ってもらっていたのだと。万が一王妃殿下や関係者にばれても問題が起こらないように恋文風に仕立てていたのだと。


「いっそセシリア様に告げ口しようかしら……?」


 ハリエットはぼそりと呟いた。そもそも、国王陛下はハリエットとダレルが恋仲では無いことを知っているはずだ。国王陛下自身が偽装をダレルに命じたのだから。なのになぜこうなる。なぜ止めない。

 止めれば理由を話さねばならないし、話せば当然セシリアに更に怒られるからだろう。分かっているならそもそも初めからやらねば良いものを。


「ハリエット、それは待って!」


 悲痛な声でダレルが言った。


「万が一にも王妃殿下が陛下を見捨てたら、国が滅びる…」


 ダレルが目を伏せ、悲痛な顔で首を横に振った。

 それはそうだろう。国王陛下は臆病…表向きは慎重なこともありライオネルほど無茶をしないように見えるが、その行動はライオネルと方向性が違うだけで過ぎるほどに無茶苦茶だ。いや、むしろ衝動的な分、少なくとも理解した上で理由があってやっているライオネルより余程たちが悪い。

 本来であれば様々なことが国が傾く事態に成りかねないのだが、国王陛下の世界の中心がセシリアであり、セシリアが非凡であるがゆえにそれが功を奏して国が良く回っている。


 セシリアの居ないこの国…それは間違いなく終わるだろうとハリエットも思う。ハリエットの生涯の主人は実質この国の影の王なのだ。セシリアがお花畑なお姫様ではなく分別のある聡明な賢妃で本当に良かったと思う。セシリアをお育てになったティンバーレイク公爵家には国中で頭が上がらないというものだ。家格的にも地位的にもそうそう上がらないのだが。


「私も国の滅びは望むところでありません…」


 ハリエットは深いため息を吐いた。

 まさかこの年になってセシリアとの平穏な毎日が脅かされる日が来るとはハリエットは思ってもみなかった。

 それでもハリエットにはあのセシリアの嬉しそうな顔を曇らせるのもまた難しい。セシリアはハリエットが部屋を出るときに『私の喜びよ』と言った。つまりは、そういうこと…ハリエットの婚姻を望んでいるのだろう。


 ハリエットとてダレルを憎からず思っている。もしもハリエットがハリエットでさえ無ければ今すぐここでダレルに満面の笑みで末永くよろしくと言って押し切ったことだろう。だが、ハリエットはハリエットなのだ。ハリエット・メイウェザーなのだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ