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ある王宮の日常とささやかな非日常について(シリーズまとめ版)  作者: あいの あお
王妃付き侍女と国王付き侍従の恋文とその顛末について

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35.次の日 ~ 嬉しい再会

「え…お休みでは無かったのですか…?」


 そこには昨日休みを言い渡されたはずの四人も含めてセシリア付き侍女が勢ぞろいしていたのだ。ハリエットを入れて総勢七名。王妃付きの侍女としては決して多くは無いが、正しく精鋭ぞろいだ。


「ハリエット、来たわね」


 ソファで寛いでいたセシリアがハリエットの顔を見てにやりと笑った。


「セシリア様…?」


 何となく嫌な予感がしてハリエットが思わず一歩下がると、セシリアがとても良い笑顔で言った。


「さあ、みんな、よろしくね?」

「「「「「「はい!」」」」」」


 ハリエット以外の六人全員がとても良い笑顔で声を揃えた。


 あれよあれよと言う間にハリエットは着ていた動きやすさ重視の質素なドレスを脱がされ、薄い化粧を落とされ、適当にまとめた髪が解かれる。普段着ないような大変良い生地の深緑のデイドレスを着せられ、「あら、思ったより胸があるのね」などと言われマリーにサイズを直された。マリーは今回の視察には随行しなかった針子顔負けの裁縫の腕を持つ侍女だ。そうして、そのまま引きずられるようにセシリアの鏡台に座らされた。


「セ…セシリア様…」


 楽しそうにエイダの淹れたお茶を飲んでいるセシリアに視線をやると、「先輩動いちゃ駄目です!」「ハリエット動かないで」とリビーとエイプリルに叱られハリエットはぴしりと固まった。エイダもまた、今回の視察に随行しなかったもうひとりだ。「そのまま前を向いていてくださいね」ルースが微笑み、ハリエットの爪を整えていく。

 そうして、ほんの一時間足らずのうちに王妃宮ギリギリだったハリエットはどこに出しても恥ずかしくない淑女へと整えられたのだった。ハリエットは王妃殿下付き侍女の本気を見た気がした。


「素敵よハリエット。とっても綺麗!」


 なぜこんなことになっているのか分からないハリエットを置きざりにして、誰もが実に満足そうなとても良い顔で笑っていた。


「先輩、完璧です!」


 リビーが実に楽しそうに笑っている。朝、リビーが楽しみにしていたのはどうもこれのようだ。


「ハリエット、せっかく綺麗に整えたのにその表情は駄目よ」


 エイプリルが両の手の人差し指で自分の口角をぐっと上げて見せた。笑えと言うことらしい。ハリエットは半笑いになった。そんなハリエットを見てルースが「あらあら」と笑っている。

 すると、「お待たせしました」といつの間にかいなくなっていたルイザが部屋へと入って来た。その手には宝飾品の箱を持っている。ハリエットはとても嫌な予感がした。

 セシリアはその箱を受け取るとイヤリングを取り出し、「これを貸してあげるわ」と言ってハリエットの耳に手ずから付けた。親指の爪ほどのエメラルドに、金細工の蔦が揺れている。ハリエットは上から下まで見事な緑色になった。


「完成ね」


 セシリアが目を細めてハリエットを見つめ、そうしてにっこりと笑った。


「ハリエット、私はとっても嬉しいわ。これは私の『喜び』よ。その意味が、分かるわね?」

「え?どういう…」


 問おうとするハリエットの肩を掴んでくるりと回して扉の方へ向けると「ルイザ、お願いね」とセシリアが言った。ルイザは「承りました」とわざとらしいほど恭しくカーテシーをした。


「行きましょう、ハリエット」


 そう言うとルイザがすたすたと扉へ向かいガチャリと開けた。「どこへですか!?」というハリエットの問いは完全に無視された。


「いってらっしゃいハリエット。頑張っていらっしゃい」


 振り向くとセシリアが笑っていた。とても嬉しそうに。侍女たちも「頑張って!」と楽しそうに笑っている。ハリエットにはさっぱり分からないが、ハリエットが頑張るとセシリアも皆も嬉しいらしい。それならば、ハリエットの答えはひとつだった。


「わかりました!頑張ってきます!!」


 ぐっとこぶしを握って見せると、ハリエットは笑ってセシリアの部屋を後にした。


 ドアをぱたんと締めて顔を上げると、いつの間に交代したのか、護衛として控えていたのはハリエットがずっと気になっていたふたり、ジャックとケネスだった。


「ジャック様!ケネス様!!」


 ハリエットが思わず声を上げると、ふたりが右手を左の肩に当てて軽く頭を下げ「こんにちは」と笑ってくれた。


「ハリエット様、とてもお綺麗です」

「良くお似合いですよ、ハリエット様」


 ジャックが少し眉を下げて、ケネスは微笑んでハリエットの装いを褒めてくれた。「残念だなぁ…」と呟くジャックにケネスがまた困ったように笑っている。


「良かった、ご無事だったのですね…」


 ハリエットがほっとしたように目を細め息を吐くと、右の手を開いたり閉じたりしてジャックが破顔した。


「当然ですよ、私たちは祝福をいただいていますから」


 ケネスも微笑み頷いている。たとえ迷信だとしても、彼らに何らかのいい影響を与えたのだとしたら、ハリエットはとても嬉しかった。


「ハリエット、行きますよ」


 見守ってくれていたルイザがちらりと懐中時計を見た。もうどこかへ行く時間らしい。ハリエットが「あ…」と言ってふたりを見ると、ジャックが「またいつでも会えますよ」と頷いてくれた。


「はい、また!」


 ハリエットがカーテシーをすると、ふたりも笑って騎士の礼を返してくれた。


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