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ある王宮の日常とささやかな非日常について(シリーズまとめ版)  作者: あいの あお
第三章 王妃付き侍女と国王付き侍従の恋文とその顛末について

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24.七日目 ~ 四通目の返事

「セシリア様、そろそろお茶の時間でございます。休憩にいたしませんか?」

「そうね、みんなも休憩にしましょう。ハリエット、その手紙、先に読んできても良いわよ?」


 セシリアにまでにこにこと笑われてしまい、ハリエットはまたも「ぐぅ」と遠い目になった。きっといつもこそこそと読んではこそこそと返事をしたためるのがいけないのかもしれない。


「いえ、よろしければこちらで皆様と休憩をしながら読ませていただければと…」

「あら、そう?」

「もちろん、かまいませんよ」


 セシリアとルイザの顔が()()()()から()()()()に変わり、ルースが「あらあら」と茶器の準備を始め、リビーが「急いでお湯とお菓子をいただいてきます!!」と満面の笑みで出て行き、エイプリルがとても良い笑顔でその後を追っていった。


 これは失敗したかしら…そう思いつつルースの手伝いをしようとすると、「いいから、早くお読みなさい」と他の手紙の仕分けをしていたルイザに大変良い笑顔で微笑まれてしまった。


「はぁ…ありがとうございます…」


 どこか遠くへ逃げ出したであろう猫を拾いに行くのも億劫なので、ルイザに怒られないことを良いことにハリエットは適当な返事をして手紙をごそごそと開いた。そうして、文面を見て固まった。


:・・──────────・・・:


親愛なるハリエット


 手紙をありがとう。今回の旅程の後半はかなり詰まった予定だと聞いている。無事に着いていると良いのだけれど。


 王妃殿下はレオミンスター寺院で良い時間を過ごされたようで何よりだ。陛下は…本当によく我慢していると思う。できればセシリア様からお手紙をいただけると嬉しいけれど、難しいだろうね。


 そうだ、とても不思議なことがあったよ。ポケットに入れていたはずの苺飴の箱が突然落ちたんだ。拾って顔を上げたら窓の外に陛下が見えた。厩舎に向かっているようだったから急いで後を追ったら馬を見ながら立ち尽くしていた。今頃王妃殿下は大公殿下の元へ向かっているのだなと呟いていて、私を見て苦笑いなさった。大丈夫だと、笑ってくださったよ。


 ポケットに手も入れていないし、穴も開いていなかった。なぜ苺飴が落ちたのかは分からないけれど、気づくことができて本当に良かった。


 旅程もあと半分を切ったね。どうか気を付けて。無事に帰って来てくれることを祈っている。


また様子を聞けると嬉しい。


愛をこめて ダレル


P.S.

 四つ葉のクローバーをありがとう。君の赤い髪に緑の瞳の女の子。きっととても可愛いだろうね。僕も会ってみたいな。僕からも、君に幸運が訪れるように贈ります。気に入ってくれたら嬉しい。


:・・──────────・・・:



 もうどこから突っ込めばよいのかハリエットは分からなかった。陛下に突っ込むべきか、苺飴に突っ込むべきか、それとも別の部分からか。

 ぼんやりと手紙を眺めているとエイプリルとリビーが早々にお湯とお菓子を持って帰って来た。


「あ、もう読んでるんですね!」


 リビーが目をきらきらとさせてお茶菓子をテーブルに並べ始めた。エイプリルも嬉々としてルースが準備した茶器にお湯を入れて温めている。


「そうなのよ、でも難しい顔をして固まってしまったから内容を聞いてもいいのか分からないのよ」


 頬に手を当ててセシリアがわざとらしく「ふぅ」とため息を吐いた。ルイザは黙ったまま仕分けた手紙をいくつか開けて確認している。口元がふるふると震えていることをハリエットは見逃さなかった。


「いえ…大したことでは…ない…?と思います…」


 疑問形になってしまうのはハリエットが大したことだと思っているからか。陛下はこちらに来なかったし無事に手紙は届いたのだから大したことがないとも言える。


「あらハリエット。どんなお手紙だったの?」


 セシリアがにこにこと笑ってすっと手を出した。「ここで読んでいるのだから良いのでしょう?」と言わんばかりのセシリアの楽しそうな笑顔にハリエットは眩暈がした。意地など張らずこそこそすれば良かったと思うも後の祭りだ。


「いえ、やはり大したことかもしれないです…」

「まぁ大変!!急いでお返事をして対応しなくてはね!?」


 今度は両の頬に手を当ててセシリアがふるふると首を横に振った。悲壮な顔を作ったつもりだろうが口角がしっかり上がっている。国王陛下と王弟殿下の無茶っぷりで隠れているが、実はセシリアも面白いことが大好きなのだ。セシリア基準の。


 ふと、ハリエットは思った。これはいっそチャンスなのではなかろうか。この手紙には『無理かもしれないが陛下に手紙を書いてほしい』と書いてある。これを見せるのは色々な意味で恥ずかしいが、ハリエットから手紙を書くように促すよりはずっと効果があるような気がした。


「どうでしょう…大したことかどうかセシリア様がご判断くだされば…」


 そう蚊の泣くような声で呟くと、ハリエットは覚悟を決めてセシリアに手紙を渡した。「あら、本当にいいの?」と言いながらも嬉々として手紙を受け取り、セシリアは手紙をゆっくりと読んだ。そうして、それをルイザに手渡した。


「そうね、大したことだし、大したことではないわね」


 エイプリルが淹れてくれたお茶をひと口飲むと、セシリアはふぅ、と息を吐いて目を閉じた。


「ハリエット、あなた、今日は手紙は書くの?」

「はい、夜にまた書く予定にはしておりますが…」


 皆にテーブルについてお茶を共にするように指示すると、セシリアはルイザに「レターセットを」と言った。ルイザは微笑みを浮かべて「はい」と答え、すっと衣裳部屋へ入っていった。


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