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ある王宮の日常とささやかな非日常について(シリーズまとめ版)  作者: あいの あお
第八章 王子殿下の冒険と王家男子の事情について

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95.こんな程度


 叔父が出された茶をひと口飲み、適当に手前にあった焼き菓子をひとつ摘まんでひょいと口へ入れ、しばらく咀嚼するととん、とテーブルをひとつ小さく指で叩いた。


「食べろ」

「御意」


 左右に座る叔父の側近ふたりは頷くと、ベンジャミンは柔らかく微笑んで、ジェサイアはほんのりと口角を上げて嬉々として焼き菓子に手を伸ばした。それを確認した叔父はひとつ頷くと母へと視線を移した。


「あのな、セシリア。一応言っとくが、今回の件はお前も悪いんだからな?」

「私が?」


 姿勢を無理やり正していて凝ったのだろうか、それともフレデリックと同じで気疲れだろうか。いぶかし気に首を傾げた母に、叔父が肩を押さえて回しながら眉をひそめて頷いた。


「おう、お前もだ」

「あら、なぜかしら?」


 フレデリックもついついつられて肩を押さえて回しそうになり、ぴたりと止まった。

 肩に伸ばしかけた手を少し彷徨わせてカップを手に取り、ハリエットが淹れてくれた茶をひと口すする。何だかどっと疲れた気がする体にじわりと熱が染みわたって行く。とても美味しい。


「俺と兄上はフレッドから見れば頼りなくて相談できる相手じゃ無い、それは分かるよな?」


 背もたれにもたれて紅茶のカップを片手に悪びれもせず言い切った叔父に、母が呆れたように半目になった。


「それ、堂々と言うことかしら?」

「叔父上、そんなことは!」


 フレデリックが慌てて首を振ると、叔父はにっと口角を上げて目を細めた。


「無かったか?」

「無く…は、無かった、です……」

「だろ?」


 どう言えばよいか分からず目を泳がせると、フレデリックは小さく小さく頷いた。

 つい先日まで、間違いなくフレデリックは父と叔父を頼れない、尊敬できないと思っていた。けれど。


「でも!今はとても頼りになると思っています!」

「はは、そうかよ」


 叔父はにやりと笑うと少しだけ斜めに首を傾げ、ちらりと母へと視線を向けた。


「んで、セシリア…母上には、良いとこ見せたくて、我儘を言っちゃいけない気がして。幻滅されたくなくて言いたいことが言えない……違うか?」

「違う…くは、無い、です」

「幻滅って…するわけないでしょう?こんな程度で」


 どうにも居心地が悪くてフレデリックが膝の上で両手を握って肩を丸めていると、テーブルに頬杖をついた母がため息混じりに呟いた。


「こ、こんな程度……?」


 フレデリックは目を見開くとばっと母を見た。口も若干開いてしまい、慌てて引き結ぶ。


「あれは、『こんな程度』なのですか……?」

「どれのことかしら?」

「えっと、一国の王子が、側近候補と一緒に護衛も振り切って、子供だけで危険区域に入って、怪我をして帰って来ること、です」

「そうね。こんな程度だわね」

「絶対違う……」


 余計なことは言うまいと思っていたのに、あまりのことに呟きが漏れた。幸いフレデリックの独り言は叔父にも母にも聞こえていないようで、特に何も言われることもなくフレデリックは内心でほっとした。


 叔父がまたひとつ焼き菓子を口に放り込むと軽く咀嚼をして茶を飲んだ。ゆっくりとカップをソーサーに置くと、微笑を浮かべたままで母を見て肩を竦めた。


「まぁ、だからお前のせいでもあるんだよ、セシリア」

「何がだから、なのかしら?」

「お前は『いつも良い子でいないと認めてくれない母親』だってフレッドに思われてんだよ。身に覚えがあるだろ?」


 とん、とテーブルを指で叩いた叔父に、母がぐっと眉間にしわを寄せ、少し考えるように視線を斜めに向けて首を横に振りつつ嘆息した。


「………それは、否定できないわね」

「だろ?なあ、フレッド。お前、母上のようになりたいって言いながら、母上のように『ならなければいけない』って思ってただろ」

「うっ、それ、は」


 言い淀んで目を泳がせたフレデリックを見た叔父が「ほらな?」と母を見て笑いながらテーブルに頬杖をついた。


「叔父上は、気付いていたんですね……」

「まぁなぁ。安心しろ、俺もお前の母上は怖いぞ」

「ちょっと、どういうことよ」

「そういうことだよ」


 不機嫌そうにまた眉を寄せた母のティーカップを、横からそっとハリエットが取り換えた。違うお茶が入っていたのか、「あら」と声を上げた母の眉間から瞬時にしわが消えた。


「あの!あの……母上の、ようになりたかったのは、本当です。でもそれより、母上のようにならなきゃって、思って、ました」


 ひと口、新しい茶を口に含んだ母が驚いたように目を丸くしてカップをソーサーに戻した。


「母上に嫌われる…とまでは、思っていませんでしたが……。母上しか尊敬できる人がいないって、思っていたから。唯一尊敬できると思っていた母上にがっかりされるのが、とても、怖くて………」

「あら……そう、なのね?」


 戸惑うような母の声にフレデリックがきゅっと背を丸くして叔父を伺うと、頬杖をついたままでフレデリックに視線を向けた叔父がくっと、面白そうに口角を上げた。


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