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ある王宮の日常とささやかな非日常について(シリーズまとめ版)  作者: あいの あお
第八章 王子殿下の冒険と王家男子の事情について

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84.盗み聞き


 ほんの少しの沈黙のあと、母がふるりと首をひとつ横に振り、ほんの少しだけ斜めに首を傾げた。


「………そう。それで?」

「万が一、私の到着までに生命や欠損の危機があれば対処。生命の危機や欠損に至らない程度なら傍観して見つからないように指示をしておりました」

「生命の危機や欠損、ね」


 フレデリックは「う」と小さな声を上げてしまい慌てて俯いて誤魔化した。

 間近に迫って来たあの大きな牙と真っ赤な口。まさしく、生命の危機や、欠損に繋がるものだった。目を閉じれば思い出したものが鮮明になりそうで、フレデリックは散らすように何度も瞬きをした。


 叔父も母も、恐ろしい話をしていたはずなのに、まるで昨日の天気を話すように淡々と言葉を続けていく。


「本来であれば王子たちが王家の谷に着くよりかなり前に私たちが到着予定でしたので」

「予定は未定、ね」

「はい、残念ながら」


 母がまたちらりと父に視線を向けた。父はまるで置物のように微動だにしない。母が何も言わずに叔父に視線を移すと、叔父はほんの少しだけ苦笑して、すぐに表情を引き締め真っ直ぐにまた前を向いた。


「グレアム・ブライは……本来であれば、グレアムも王家の谷へ連れて行く予定でした」


 フレデリックはぱっと顔を上げて叔父を見た。フレデリックからでは叔父の表情はやはり見えない。


「ですが陛下が離宮に来てしまった以上、王宮への報告と事情説明は必須。機密にも関わる内容のため離宮の者を伝令に立てるわけにもいかず、王妃宮への立ち入りも考えて私の従者であるベンジャミンではなくグレアムを王宮に戻らせました」


 ずっと、グレアムが迎えに来なかったことが心のどこかに引っかかっていたのだ。本当は来ようとしてくれていたのだ。そう思うと、安堵のような切なさのような、不思議な感覚に胸が詰まる。


 胸元を押さえつつそろりと母の顔を見上げると、母は何とも苦々しい顔で明後日の方を見つめていた。


「で、そのグレアムを見て大好きな兄上たちが戻って来たと思ったお転婆ティーナが乳母の目をかいくぐってこっそりと私の部屋まで後をつけて、最悪の場合の説明を盗み聞いて大泣きしたわけね」

「ああ、ティーナがいたのはそういうことか!」

「ええ!?」


 叔父の言葉が一気に崩れて、途端に面白そうな笑顔になった。フレデリックも思わず声を上げてしまい、慌てて口を両手でふさいだ。

 くつくつと声を抑えて肩を震わせる叔父に、母が「笑い事じゃないわよ」と嫌そうに顔をしかめている。


「何でティーナにばれてるのか不思議だったんだけどな。まさかグレアムに気づかれないなんて、やるなぁ、ティーナ!」


 フレデリックの口からまたも「ええ……?」と気の抜けた声がこぼれた。

 フレデリックも不思議には思っていたのだ。なぜクリスティーナがあんなにも泣いていたのか、誰がクリスティーナにフレデリックたちが危なかったことを教えてしまったのか、と。


「まさかの盗み聞き……」

「大したもんだよなぁ」


 叔父が心底感心したように目を輝かせてフレデリックを振り返った。クリスティーナはフレデリックよりよほど何かの素質がありそうだと思ったが、フレデリックは何とも言えず、「そうですね」とへらりと叔父に笑い返した。


「ちょっと、感心してる場合では無くってよ」

「はい!」


 いつの間にかまた腕を組んで仁王立ちしている母にぴしゃりと言われ、フレデリックはぴっと背筋を伸ばして固まった。叔父は「おっと…失礼いたしました」とおどけたように肩をすくめ、またすっと背筋を伸ばして母に向き直った。


「で?」

「はい。陛下を伴い、私とベンジャミン、ジェサイアが王家の谷に到着した時にはすでに暴食蛙グラトニーフロッグの暴走が始まっておりました」

「暴走とは具体的に?」

「この時期の風物詩と申しますか。現在の王家の谷が暴食蛙の繁殖地になっているのはご存知かと思いますが、大型の銀大蛇が捕食に現れると谷中の蛙が狂乱状態に陥り、数百匹が辺りを跳ねまわります」

「なるほどね。遭遇率はあまり高くないように思えるのだけど」

「そうですね、狙わずに行って数時間の滞在で遭遇するようなものではないはずですね」

「運が良いのかしら、悪いのかしらね……」

「研究者なら喜んで飛び込みますね」


 はぁ、と母が深いため息をこぼした。また頭痛を堪えるように目を閉じ今度は左のこめかみを揉むと、「それで?」と母が少し斜めになったままで叔父に視線を向けた。


「到着後は森の入り口で様子を見ていたジャック・タイラーと合流。それまでの報告を受け、森で待機し王子たちがあの状況をどう処理するのかを()()()()まで確認しました」


 淡々と言い切った叔父に、フレデリックはぴしりと固まった。叔父は今、何と言ったのだろう。


「あの、叔父上?」


 聞こえた言葉に我慢しきれず、フレデリックは後ろ手に組まれていた叔父の手を握り、ぐいっと引いて無理やり叔父の視線をフレデリックに向けさせた。


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