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ある王宮の日常とささやかな非日常について(シリーズまとめ版)  作者: あいの あお
第八章 王子殿下の冒険と王家男子の事情について

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65.できるのではなく、やるだけ


 どこがどうなっていたのか、叔父は見る間に結び目を解いていく。


「………叔父上も、父上や僕と同じ王族ですよね?」

「ん?そのはずだな?」

「そうですよね?なのに叔父上は、どうしてそんなに何でもできるんですか?」

「あー?どういうことだ?」

「だってあんまりにも違い過ぎるじゃないですか。紐もそうですけど……剣を振るのだって、気を遣うのだって……。そもそも、ものの見方すら違うじゃないですか。僕も父上も、こんななのに……」


 フレデリックが叔父の手元を見ながら眉を下げ口角を下げると、叔父がひとつ瞬きをして苦笑した。


「別に何でもできるわけじゃないぞ?何でもやるだけだ」


 硬く結ばれてしまった寝間着の紐を丁寧にほぐすと「これも追々だな」と言いながら叔父が綺麗に結んでくれた。それからぽん、とフレデリックの腹を叩くと立ち上がってぐしゃりとフレデリックの頭を撫でた。


「そうだなぁ……俺は王族ではあるが国軍の総帥でもあるからな。実質の長は総騎士団長だからただの名前だけの名誉職だが、いざとなれば俺が軍を率いることもあるかもしれない。その時になって何もできませんでは示しがつかないからな。騎士ほどじゃなくてもある程度のことは自分でできるようにしてあるよ」

「総帥ですか?」

「おう。まとめ役みたいなもんだな。だからたまに、騎士団の遠征にも邪魔させてもらって練習してるよ」

「そんな読み書きの手習いみたいな」

「似たようなもんだろ?」


 畳んだ服をソファに置きながら叔父は事も無げに言って笑った。騎士ほどじゃないと叔父は言ったが、きっと遜色ないほどにできるはずだ。


「絶対嘘です……」

「お、何でだよ」

「僕も何度か騎士団の鍛錬場を見学させてもらいましたが、叔父上ほど美しく剣を振る人はいませんでした」

「そうか?第二のポール卿と第一のアレク卿の剣舞は綺麗だっただろ?」

「綺麗でした。見惚れるほど美しかったです。でも、今日見た叔父上の方がずっと美しくて、それなのにずっと力強かったです」

「お前、陛下にしがみつかれてて見えなかっただろ?」

「確かにちょっとしか見えませんでしたけど……こう、剣をぴっと振って血を落として鞘に剣を納めるところは見えました」

「そこで判断できんのか?」


 くっと面白そうに笑った叔父の手をフレデリックはおずおずと握り、それからそっと手のひらを見た。甲から見た叔父の手は指も長くてとても綺麗なのに、手のひらは硬くてでこぼこして、沢山の剣だこのようなものがある。


「どうした?フレッド」

「いえ………叔父上の手が、綺麗だなって」

「何だそれ」


 叔父が目を丸くして何度か瞬きをし、じっと固まったまま手を離さないフレデリックに苦笑した。


 レナードやキースの手も、フレデリックの手に比べたらずっと硬い。けれど、これほど硬くないしでこぼこもしていない。これは叔父の努力の証だ。叔父が努力しているのが剣だけとは、フレデリックには到底思えなかった。


 フレデリックが叔父の手を握ったままで手のひらのたこを押していると、叔父は「くすぐったいぞ」と笑ってもう片方の手でフレデリックの鼻をきゅっと摘まんだ。


「いひゃいです、おじうえ」

「おう。仕返しだな」


 そのままくしゃりとフレデリックの頭を撫でると、叔父は一瞬だけ目を逸らしてフレデリックを見て微笑んだ。


「まぁ、そうでなくても俺たち王族は何があっても自力で生き抜けるようにある程度は仕込まれる。兄上も一応ひと通り仕込まれてるし、お前もこれから仕込まれるぞ………っと、ああ、だけどな?」


 叔父は濃紫の瞳をきゅっと細めると、口角をこれでもかと上げてにやりと笑った。


「兄上はいまだに紐を結ぶのが苦手だぞ。しょっちゅう縦になってて直されてる」

「え、父上がですか?」

「おう、俺もたまに直すな。何でか知らんが目立つところばかり失敗するんだよな」

「そうなんですね……ふふふ、僕だけじゃないんですね」

「おう、意外と紐結びが苦手な大人ってのは多いんだよ。ただまぁ……国王ができないってのもちょっとばかし情けないからなぁ……内緒な?」


 内緒だぞ?と口元に人差し指を当てた叔父に、フレデリックはきょとりと首を傾げた。


「叔父上、この指は何ですか?」

「ん?指か?」

「この人差し指」

「ああ。これは内緒話の合図だよ。よろしくな?」

「そうなんですね!では、内緒です!」


 にっと笑ってまた口元に人差し指を当てた叔父に、フレデリックも口元に指を当てて笑ってしまった。


「まぁ、高位の貴族でやるやつはあんまり見ないけどな、外でやらねえだけでみんなやってるだろ」

「そうなんですね…今度レナードとアイザックにも教え……あ」


 侯爵家のレナードとアイザックはきっと知らないはずだ。今度会ったら教えてやろうとふたりを思い出し、フレデリックの胸が一気にぐっと重くなった。


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