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ある王宮の日常とささやかな非日常について(シリーズまとめ版)  作者: あいの あお
第八章 王子殿下の冒険と王家男子の事情について

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60.叔父のように


 ゆらゆらと、フレデリックの体が揺れる。

 離宮の森からの帰り道はこの揺れがフレデリックを眠りに誘ったが、今ははっきりと頭が冴えていて様々なことが揺れに合わせてぐるぐるとめぐって行く。


「僕も…叔父上のようになれるでしょうか…」


 王妃宮の王子・王女区画にあるフレデリックの部屋へ向かう道すがら、叔父の腕に抱かれながらぽつりと、フレデリックは呟いた。


「ん?俺のようにか?」


 不思議そうにフレデリックをのぞき込む叔父に、フレデリックは素直に頷いた。


「はい。叔父上のように、強く、優しく、賢い人に。それに側近とあんな風な関係を築くことが、できるでしょうか?」

「んぁ?」


 奇妙な生き物を見たと言わんばかりに叔父の目が見開かれ、美しい顔が何とも言えないとばかりに歪んでいく。「いやいやいや」と困ったように頭を掻いた。


「お前、俺のこと嫌い…ではないな………えーと何だ、馬鹿だと思ってただろ?突然どうした??」


 心底困ったように眉を下げ眉間にしわを寄せている叔父に、フレデリックは素直に頷いた。


「思ってました、無茶苦茶だって。こんな風な考えなしになっちゃ駄目だって。今でもやっぱりちょっと変だと思うし無茶苦茶だと思うけど…でも、それ以上に、格好良いと思います」

「うーん?」

「僕はずっと、叔父上は自分勝手な人だと思ってました。でも叔父上はいつだって色々なことに気が付いて先回りできて……。それに、剣だってあんなに強いのに、僕は知りませんでした。それって力を自分のためじゃなくて、他の人のためだけに使ってるんですよね?叔父上は優しくて強い人、だったんですよね。……やっぱり無茶苦茶だとは思うんですけど」

「いや、それはお前買いかぶり過ぎで」

「それに!僕らが企んでるって知ってても何も言わずに見守ってくれて、僕らや父上のやることをちゃんと先まで考えてくれて、いざとなれば躊躇わずに剣を抜く勇気もあって、ベンジャミンやジェサイアだけじゃなくてレナードやアイザックのこともちゃんと考えてくれて、父上や母上のこともちゃんと考えてくれて、皆のために動いてくれて、それで、それは僕のっ!?」


 あまりに前のめりになって話を続けるフレデリックに苦笑して、叔父はぱっとフレデリックの口を大きな手で覆った。


「良いからいったん落ち着け」

「だって」


 フレデリックが唇を尖らせると、呆れたように笑った叔父がぽん、とフレデリックの頭を撫でた。


「…………叔父上は、王になろうと思ったことは無いのですか?」

「王に?」

「はい、王に」


 ぴたりと、叔父の足が止まった。そうして視線を合わせるとじっとフレデリックを見つめた。フレデリックも見つめ返すが叔父の表情からは何も読み取れない。ただ困ったように眉を下げて微笑むだけだ。


 しばらくそのままじっと視線を合わせていると、叔父が根負けしたように小さくため息を吐いた。


「あのな、お前、俺が王に向いてると思うか?」

「思います」

「またお前、そんな危なっかしいことを……」


 即答したフレデリックに一瞬だけきゅっと濃紫の瞳を細めると、困ったような笑みを浮かべたままで叔父がまた歩き出した。


「言いたいことは言えと叔父上が言いました」

「言ったな、うん、間違いなく俺が言ったな」


 フレデリックがむっと唇を尖らせたままで言うと、叔父がふはっと噴き出した。そうして「相手は選べよ」とまた困った顔で笑いフレデリックの頭をわしわしと撫でた。

 先ほどは叔父に止められてしまったが、フレデリックはこう続けようと思っていた。叔父の姿は、フレデリックの思う理想の王の姿に良く似ている、と。


「そうだなぁ…」


 叔父は歩みを緩めないまま真っ直ぐ前を見て、ぽつりと、呟いた。それから何度か瞬きをすると、どこか自嘲するように口元を緩めた。


「今が戦時中であれば兄上ではなく俺が王だったかもしれないな。兄上は気が弱く決断力に欠けるが暴走すると何をしでかすか分からない。暴走した兄上はどんな理不尽な決定も残酷な処分も下してしまうだろうな………国や民では無く、お前らやセシリアのために。それから…………俺のためにも、な」

「叔父上?」


 叔父の声が変わった気がしてフレデリックが首を傾げると、叔父は苦く笑ってフレデリックの肩をぽんぽんと二度叩いた。


「恐れや不安は兄上を暴走させるが、それさえ無ければ多少臆病で慎重な方が国は回る。特にセシリアみたいな王妃がいるなら出来過ぎる王よりもよほど都合が良い」

「叔父上と母上が王と王妃である方が国が栄えるのではないですか?」

「おぁ?」


 ぎょっとした顔でまた叔父の足がぴたりと止まった。驚いてフレデリックが目を丸くすると、叔父もまた目を丸くして苦虫を噛みつぶしたように口角を下げた。


「お前な、さすがに言いたいことを言い過ぎだ」

「叔父上が言えと言ったのに……」

「頼むから他では言うなよ?」


 叔父が眉を下げて呆れたように笑い、フレデリックの鼻を人差し指でぶにっと押した。


「まぁ、それはない。俺とセシリアじゃ互いを潰し合って終わりだ。俺はセシリアがいたら自由に動けねえし、俺が夫じゃセシリアはもっと…今よりももっと人間味の無い、歩く国法そのものみたいな王妃になってただろうよ」


 ゆっくりと速度を緩めて足を止めると、叔父はちらりと窓の外を見た。


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