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ある王宮の日常とささやかな非日常について(シリーズまとめ版)  作者: あいの あお
第八章 王子殿下の冒険と王家男子の事情について

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58.我がまま


 ぱたり、と扉が閉まると廊下の反対側の壁にメイではなくハリエットが控えていた。フレデリックと目が合うとふわりと優しく微笑んでくれる。


「ハリエット、あとは頼むな」

「承知しました」


 叔父がハリエットに頷くとくしゃりとフレデリックの頭を撫でた。ハリエットもまた叔父に頷くと軽くカーテシーをして振り向くと、少し屈んで「王子殿下」とフレデリックに手を差し伸べてくれた。


「あ………」


 ふと、その手に違和感を感じてフレデリックはぱっと叔父を振り仰いだ。


 決してハリエットの手が嫌だったわけでは無い。見えていなかったことに気が付いた今、ハリエットの優しい瞳も、穏やかな空気もとても心地良いと思う。クリスティーナがハリエットに縋って泣き疲れて眠ってしまったのも良く分かるくらいに。―――けれど。


「ん?」


 不思議そうに目を瞬かせてフレデリックを見下ろす叔父を見て、ざわりとフレデリックの心が揺れた。

 このままでは叔父が行ってしまう。そう思ったとたん、フレデリックのみぞおちの辺りがぐっと重くなり頭の中で『嫌だ』と大きな声がした。


「叔父上、疲れました!」


 思わずフレデリックは大きな声を上げていた。気が付けば、フレデリックの手も勝手に叔父の服の裾をぎゅっと掴んでいる。フレデリックはそんな自分に驚いて掴んだ手を放しそうになったが、叔父の言葉を思い出してぐっと眉間に力を入れ、フレデリックよりも遥かに高い場所にある叔父の顔を必死で見つめた。


『言いたいことがあるなら、ちゃんと言え』

『嫌なら言え、泣け、怒れ。それで笑え』


 方向は間違っていたかもしれないが、フレデリックはずっと良い子であろうと、良い王子であろうと努力してきた。我がままを言ってはいけない、感情を出してはいけない、そう思っていたフレデリックにとって、叔父がフレデリックに…恐らく父にも言ってくれた言葉は、とても難しい。


「あの………だから………」


 どうしたら良いのか、何を言えば良いのか。分からないけれど叔父が行ってしまうのは嫌で。

 何度も口を開いたり閉じたりしながらぐるぐると考えた結果、フレデリックは震える両腕をゆっくりと伸ばした。叔父に向かって、精いっぱい、真っ直ぐに。


「叔父上…その………疲れ、ました……」


 初めて言った我がままに、フレデリックの頬がかっと熱を持った。怖くて居た堪れなくて叔父の顔を見ていられず、フレデリックは両手を上げたまま顔を俯かせて目を泳がせた。ばくばくと、心臓の音がうるさい。


「……あー」

「……まぁ」


 気まずさに頬の熱さが一気に冷えた頃、頭上から声がしておずおずと見上げると叔父とハリエットが目を見開いて固まっていた。ふたりとも目を瞬かせるとちらりとお互いに視線を交わし、そしてどちらからともなく笑いあった。


「ふふふ…()()()は任されますね」

「ああ、悪い。()()()を任せるわ」

「え?……うわっ」


 眉を下げた叔父がひょいと、またフレデリックを抱き上げた。そうして左腕に座らせるとちらりと後ろを…先ほど出てきた応接室の扉の左側を振り返った。


「今日はもう休め」

「え……あれ?」


 何のことかとフレデリックがそちらを見ると、そこには先に出たはずのベンジャミンとジェサイアが気配なく静かに控えていた。


「あの…気配が………無かったです……」

「皆じゃないぞ。従者も護衛も色々だ」


 ふは、と叔父が笑った。思わずハリエットを見ると、ぱちりと目が合いにこりと微笑まれた。

 ハリエットといい叔父の側近のふたりといい、良い側近というのは気配を消すものなのだろうかとフレデリックは心の中で唸った。


「明日もいつも通りで良いぞ」

「承知」

「ええ。朝食はどちらに用意します?」


 ジェサイアは頷いて静かに腰を折り、ベンジャミンは口元に笑みを浮かべつつ肩を竦めた。


「いつも通りで良いって言ってんだろうが」

「はいはい、一応ね?」


 叔父が眉を下げて呆れたように笑い、ベンジャミンもにっとおかしそうに笑った。そんなふたりをジェサイアは微かに口角を上げて見守っている。

 ジェサイアも、ベンジャミンも、それから他の叔父の側近も。見た目も、性格も、びっくりするぐらいに全く違う。違うのに、誰もが不思議と叔父との距離に違いを感じないし、それぞれの間にも距離を感じない。


「そうか、違うからこそ、か」


 それに、だ。

 叔父の側近たちは叔父にあまりにも気安いように見えた。叔父が駄目な王族だから叔父が軽んじられているんだろうとフレデリックは思っていた。フレデリックは側近に尊敬される主君になろうと思っていた。


「違う……信じてるんだ………」


 今日見た叔父の姿も側近たちの姿もフレデリックが思っていたのとは全く違っていた。叔父は間違いなく彼らの主であり、彼らは間違いなく叔父を主君として慕っている。


 信頼があるからこその、気安さ。


 そう思ったとたんにふと、眠ったままで抱かれて帰って行ったフレデリックの友人たちを思い出し、きゅぅと胸が締め付けられてフレデリックは叔父の首筋にぎゅっとしがみついた。


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