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ある王宮の日常とささやかな非日常について(シリーズまとめ版)  作者: あいの あお
第八章 王子殿下の冒険と王家男子の事情について

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48.大切な、僕の


「来い、フレッド」

「お、叔父上……」

「良いから」

 

 叔父はフレデリックの両脇に手を入れるとひょいと抱え上げ、片腕に座らせるように軽々と抱き上げた。父に抱かれて少し不安定だったフレデリックの体が途端に安定して、フレデリックはほっと胸を撫でおろした。

 隣から小さなため息が聞こえてちらりと見ると、重かったのか、父がフレデリックから見えないように下の方でこっそりと両腕を軽く振っているのが見えた。


「あの、叔父上!僕は歩けます!!」


 慌ててフレデリックが叔父の腕から降りようと腕を突っ張ると、「お前なぁ」と呆れたように笑った叔父に鼻をきゅっと摘ままれた。


「良いから大人しく抱かれとけ。お前が歩いてたら後ろのふたりも無理してでも歩き続けるぞ。上の者がちゃんと気を使ってやれ」


 ちらりと後ろを目線で示した叔父にはっとして、フレデリックは少し痛む鼻を両手で押さえながら叔父の大きな肩越しに後ろを見た。


「どう見える?」


 こそりと、周囲に聞こえないように言った叔父に、フレデリックも小さく答えた。


「アイザックは、目の焦点があっていません。たぶん、とても疲れてる。レナードは……顔色が悪いです。背を打ったと言っていました。骨や内臓に影響があるかもしれません。それでも……ふたりは自分の足で、歩いています」


 フレデリックはぐっと唇を引き結んだ。ふたりとも限界に見えるのに、寄りかかることもせずに手を引かれて歩いている。

 早く休ませてやりたくてフレデリックはとっさに叔父の顔を見た。目が合うと、叔父はまたにっと笑って首を傾げた。


「じゃあフレッド、お前はどうすべきだと思う?」

「僕、ですか?」

「そう、お前だよ」


 フレデリックはまた後ろを振り返り、ゆっくりと瞬きをした。叔父はさっき、何と言っていただろう。

 道なき道を歩くふたりの姿を見て鈍い痛みを訴える胸に、フレデリックは自分の答えを決めた。


「………レナード、アイザック」

「はい」

「はい、殿下」


 フレデリックが静かに呼びかけると、ふたりはゆっくりと顔を上げた。とたんにバランスを崩したのかアイザックがよろめき、レナードがぐっと顔をしかめた。

 叔父がぴたりと足を止め、ベンジャミンとジェサイアもそれぞれアイザックとレナードの手をそっと引いて歩みを止めた。


「ふたりとも、もう十分だ」

「え?」


 ふるりとフレデリックが首を横に振ると、レナードとアイザックが不思議そうに顔を見あわせた。


「頼むから無理をするな。もう素直に抱えられろ」

「ですが殿下」


 レナードが不服そうに眉を寄せた。アイザックも困ったように目を泳がせている。存外頑固な側近候補ふたりに、フレデリックは苦笑すると「大丈夫だ」と頷いた。

 

「叔父上の側近たちはお前たちを抱えたままでも十分戦えるし、強い。だから…今は安心して、休んで欲しい」


 叔父がぽそりと「ベンジャミンはどうだろうなぁ」と小さな声で呟いたがフレデリックは聞かなかったことにした。

 ベンジャミンを見ると微笑を浮かべたままフレデリックを見つめていて、フレデリックはなぜか落ち着かない気持ちになりほんの少しだけ視線を逸らした。



 レナードは納得がいかないのかフレデリックを見つめたまま唇を引き結び、アイザックは何かを考えるように俯いている。


 こうして見ると、ふたりを信じられないと、利用されるのが嫌だなどと思っていたのが今はいっそ懐かしい。過去の自分は本当に何も見ようとして来なかったのだと思い知らされた。

 じわりと、視界がぼやけていく。フレデリックは何度も瞬くと、少し震える唇で「レナード、アイザック」とふたりを交互に見て微笑んだ。


「お前たちは僕の我儘に付き合って、こんな場所までついて来てくれた。何も返せない僕を、何があっても守ろうとしてくれた。最後まで…僕を信じてくれた」


 権力が欲しい、利用したい、そんな気持ちで懸けられるほど命は安くない。失ってしまえばそれで終わりだ。それでも、ふたりとも迷わず動いてくれた。それがどれほどのことなのか……フレデリックにも今なら分かる。


 フレデリックはひとつ大きく息を吸い込むと、叔父の腕の中でぐっと背筋を伸ばした。


「だから僕は、こんなことでお前たちを失うわけにはいかないんだ。お前たちは………」


 視線を感じて傍らを見れば、父がじっとフレデリックを見つめていた。叔父も叔父の側近たちも、誰もがフレデリックの言葉を待っている。

 あまりの居心地の悪さに顔を歪めると、フレデリックはもごもごと、熱くなった頬を誤魔化すようにほんの少しだけ唇を尖らせて、小さな声で呟いた。


「お前たちは………大切な、僕の側近で………大切な、と、友だち、だから」

「殿下…!」


 アイザックが目を見開いて声を震わせた。レナードは口をぽかんと開いたまま「今、何て?」と固まっている。

 レナードとアイザックになら、たとえ利用されても構わない。自然とそう思えて、フレデリックは泣き笑いのような顔で「ああ」と笑った。


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