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ある王宮の日常とささやかな非日常について(シリーズまとめ版)  作者: あいの あお
第八章 王子殿下の冒険と王家男子の事情について

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37.跳ねる、光る


 どこか楽し気に池を覗き込むふたりに囲まれフレデリックも何となく池の中を眺めていると、降り注ぐ太陽の光に輝く水面の下を暴食蛙の緑の体がすいーっと気持ちよさそうに泳いでいく。


「意外と深そうだな。これだけ大量にいてもぶつからずに泳いでいるということは、それだけ深さがあるのか」

「とても水が綺麗なんでしょうか。水が綺麗だ深さが分かりにくいと本で読みました」


 時折ばしゃりと、水が跳ねる音がする。そちらを向けば波紋が広がり、また水がきらきらと輝いて池の美しさを引き立てる。暴食蛙さえいなければ、だが。

 少し残念な気持ちで揺れる水面を眺めていると、レナードが少しだけ頭を持ち上げて左の奥を指さした。


「あっちの左側の奥、たぶん、坂になってます。あそこから窪地に入れたんじゃないかな。今はあそこから水が流れ込んでるみたいですけど」

「ああ、本当だな。暴食蛙たちが出入りしてるからあそこは崖じゃないんだな」

「水が綺麗なのも、きっとあの流れがどこかで川に繋がっているんですね」

「そうだな、水がにおわないのは救いだな。暴食蛙だけでも独特だからな」

「僕にはいまいち、においの区別がつかないぞ」


 確かに何か匂いはするが、どれが水のにおいで蛙のにおいなのか、フレデリックには分からない。すんすんと鼻を動かしていると、アイザックがするりと身を起こしてぺたりと大地に座った。


「これは……少しまずいですね。人間は食べないはずですがグラトニーフロッグは動くものは何でも口に入れてしまいますからね」

「そうだな、さすがに僕たちの大きさなら口に入ってしまうことは無いと思うんだが…たぶん……」


 顔を引きつらせながら言ったアイザックに、フレデリックも口元をひくつかせて頷いた。

 ちらりとアイザックを振り向いたレナードが起き上がり、アイザックの横に座った。


「アイザック、身長は?」

「僕は百三十センチです。レナードはいくつですか?」

「俺は百四十五だな」

「お前、九歳だよな?」

「もうすぐ十歳ですね」


 どこかでしたような会話をしながらフレデリックも起き上がり、ふたりの前に座った。


「僕は百三十七センチくらいだな、確か。暴食蛙グラトニーフロッグは口に入れば何でも食べるがさすがに口には入らないだろう」

「暴食蛙の名は伊達じゃないですからね…大型の個体なら分からないですよ」

「いるのか?そんな大きいのが」

「一般的な個体で体高は一メートルほどですが最大級になると殿下の身長ほどのものが確認されていると本にはありました。しかも座った…というか、普通の形の状態でその大きさだそうです」

「跳ねて手足が伸びれば三メートルぐらいにはなるか。最大級なら殿下やアイザックは捕食対象になるかもしれないな」

「冗談だろう……あの毒々しい色合いだけでもあまり出会いたくないんだぞ……」


 フレデリックとアイザックを交互に見てレナードがふっと口角を上げた。フレデリックがげんなりとしながらちらりちらりと奥の方で跳ねている暴食蛙を見ていると、アイザックが口元に手をあてて首を傾げた。

 

「重さだけでも相当なものになると思います。食べられることは無くても、万が一のしかかられたら潰されなくても怪我をしかねませんね」

「これだけいれば最大級も一匹ぐらいはいそうか……。餌になるのも潰されるのも絶対に嫌だな」


 時折見える赤い腹に嫌な想像をしそうになり、フレデリックはふるふると首を横に振った。何となく肩の辺りが重いのは疲労だろうか。


「………帰りましょう」

「そうだな、帰るか」


 ふるりと、顔を顰めて身震いをしながら言ったアイザックにフレデリックも頷いた。

 もう一度だけ王家の入り口のあった方を振り返り立ち上がろうとすると、「待った!」とレナードが鋭く声を上げた。同時に、ゲロゲロと響いていた暴食蛙たちの大合唱が、更に音量を増した。


「レナード?」

「においが変わりました。これ、前に森に来た時に嗅いだのと同じ……少し生臭い…なんだ?」


 レナードがまた少し上を向いて真剣な顔で何かを探すように視線を動かし、今度は体を伏せてきょろきょろと辺りを見回している。


「なんだ……?」


 フレデリックもアイザックと目を見合わせて何となくきょろきょろとあたりを見回していると、左側の岸辺にいた蛙たちが「ギョロッ!」と悲鳴のような声を上げながら突如として一部が水に飛び込み、一部がこちらへと飛び跳ねて来るのが見えた。


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