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ある王宮の日常とささやかな非日常について(シリーズまとめ版)  作者: あいの あお
第八章 王子殿下の冒険と王家男子の事情について

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32.白いユリ


 森の奥からふわりと、柔らかな風が入って来た。さあああ、という音を残してフレデリックたちの傍らを通り過ぎていく。


 少し汗ばんだ首元がひんやりとして目を細めていると、周りを見回していたレナードがフレデリックとアイザックを交互に見た。


「そろそろ動けますか?」

「ああ、大丈夫だ」

「僕も行けます、申し訳ありません」

「謝らなくていい。何も悪くない。慣れてないだけだ」


 唇を引き結び頷いたアイザックにレナードが首を小さく横に振った。


「荷物、俺が持つか?」

「いえ、ここから先ずっと走るわけでは無いのなら自分で持てます」

「辛くなる前に我慢せず教えてくれ。動けなくなるのが一番駄目だ」

「そうですよね……気を付けます」


 眉を下げ俯きそうになったアイザックの肩をレナードが少し強めにばしりと叩いた。「レナード?」と驚いて顔を上げたアイザックに、レナードがにっと口角を上げた。


「前を向いて少し力を抜け。俯いて力んでいると余計に疲れるし怪我をする」

「はい……すいませっ」


 またも俯きそうになりぶんぶんと首を横に強く振ると、アイザックは勢いよく顔を上げた。


「行けます!」


 自分を鼓舞するように少し大きな声で言ったアイザックに、レナードは「ああ」と頷いてまた小さく笑った。


「よし、行こうか」


 フレデリックも鞄を背負い頷くと、レナードとアイザックも鞄を背負う。


「殿下、方角は」

「あっちだな、あのユリの方角だ」


 顔を上げれば、方位磁石が指すほうにちょうど白いユリが一輪咲いている。レナードは頷くと「行きます」とユリの方へと歩き始めた。


「………不思議ですね」


 じっと前を見つめていたアイザックがぽつりと言った。


「ん?何がだ?」

「この森には、白いユリが咲いているんですね」

「ああ、咲いているようだが……どういうことだ?」


 フレデリックは首を傾げた。今フレデリックたちが歩いているすぐ先にあるのは間違いなく白いユリだ。フレデリックも庭園や花瓶に生けられたものを見たことがある。


「白いユリはこの国には自生していないはずなんです」

「そうなのか?」


 ユリの元に辿りついて誰からともなく足を止めた。そうして三人でユリを囲むようにして眺めていると、レナードが「ああ」と声を上げた。


「そういえば、この森以外で白いユリは見たことが無い気がするな。もっと小さい薄紅や黄色は見たことがあるが。花のつき方も違う」


 レナードも違和感に気づいたようで深く頷き、覗き込むように白いユリを見ている。


「はい。白いユリは帝国や神聖国の東側や不毛の地に見られるものがほとんどのはずなんです。最も大きく美しい品種は更に東の海を越えた国原産だとか」

「そうなのか?王立植物園のユリもこのユリのように白くて大きかったと思うが………?」

「はい。ですので僕も東から取り寄せたのかと思っていたのですが……もしかしたらここのユリなのかもしれませんね」


 フレデリックもじっくりとユリを眺めた。遠くから見た時は真っ白かと思ったが、よく見ると花弁の内側に黄色い線とぽつぽつとした模様が入っている。花から突き出たおしべの先は赤に近い朱だ。じっくりと見てもフレデリックにはやはりよく分からない。


「こんな模様が入っていたか記憶に無いな。戻ったら見てみるか」

「それが……たぶんですが、まだ咲いていないはずなんです」

「そうなのか?」

「はい、本では夏に咲くとあったんです。僕が王立植物園で白いユリを見た時ももっと暑かったと思うんですよね」


 ふーん、と三人でユリを囲んで首を傾げた。


「この国で咲かないなら、誰かが持って来て森に植えたものが増えたのか?」

「何のためにです?」

「いや、そもそも僕はこのユリが違うということも知らなかったんだぞ」


 小さく首を傾げたレナードにフレデリックは苦笑した。


「植えたにしてはまとまってないですね」

「よく見るとぽつぽつとはあるな。咲いている花が少ないだけでまだ蕾なだけだな。ここだけ日当たりが良かったのか?」


 上を見上げても他と変わらず木は生い茂り、時折眩しい光が風と共に目を刺すだけだ。特別日当たりが良いということもなさそうだ。

 フレデリックがぱちぱちと瞬きを繰り返しながら視線をユリに戻すと、考えるように口元に手を当てていたアイザックがユリの傍らにしゃがみ込んでそっと、ユリの根元の土に触れた。


「もしも本で読んだユリなら、根元に球根のような茎の塊があって、薬の材料になるはずなんです」


 もとより強い芳香がしていたが、顔を近づけたせいか先ほどの強い日差しのせいか頭がくらくらする。軽く頭痛までする気がしてフレデリックが一歩下がると、レナードが何かを思い出したように「あ」と言った。


「「あ?」」


 フレデリックとアイザックが同時にレナードを振り向いた。


「そういえばリリアナさんがなんか言ってたな。離宮の森、冬になったら掘り返すって」

「ユリをでしょうか?じゃあ、やっぱり東の品種なんでしょうか」

「それに近しいものということか?」

「さっぱりです。リリアナさんに聞けば分かるかもですね」

「やはり違う季節にも一緒に森に入りたいな」

「今回の件で無事に済んだらお願いしてみましょうか」


 いつも通りののんびりした声でまた淡々と恐ろしいことを言ったレナードに、フレデリックは思わずアイザックを振り返った。同じような顔でこちらを振り返ったアイザックと目が合い、一度瞬きすると苦笑した。


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