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ある王宮の日常とささやかな非日常について(シリーズまとめ版)  作者: あいの あお
第八章 王子殿下の冒険と王家男子の事情について

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31.禁止区域


 ちぃちぃと、一般区域では聞かなかった鳥の声を聞いた気がしてフレデリックは空を見上げた。鬱蒼と茂る木の葉に隠れて空はほとんど見えないが、ちらちらと、朝よりも強い光が時折目に飛び込んできて眩しい。


 レナードは木をじっと見つめたかと思うと枝に触れ、しゃがみ込んで下草を確認し、また立ち上がって周囲を伺うことを繰り返している。しばらくそれを続けると足早にフレデリックたちの元へと戻って来た。


「何かあったか?」

「あの抜け穴からここまでは人が通った形跡がありませんでした。ですがこの辺り……あの木、見えますか?赤い線が入っています。ここには人の出入りがあります」

「人がか?立ち入り禁止区域なのに?」

「はい、少し下枝も払われた形跡があります。枝の切り口の様子からここ二、三日のことでは無いと思いますが、少なくともひと月以内には確実に」

「獣ではなくか?」

「枝が刃物で払われていますので」


 フレデリックは思わずきょろきょろと辺りを見回した。耳も澄ますが色々な鳥の声と、時折通り過ぎていく風の音しか聞こえない。


「危ないと思うか?」

「分かりません。ですが森を荒らした形跡も無いですし、もしかしたら立ち入り禁止区域の見回りの者かもしれません」

「そうか、見回りならいてもおかしくないからな」

「そうですね。一般区域だけでもかなりの植物が手に入りますが、人の手の入らない禁止区域はそれを上回るとリリアナさんが言ってました。密猟対策もあるかもしれません」

「そうか…。そういえばエヴァレット嬢とはまだ半分しか回れていないが、一般区域だけでも奥の方は希少な植物があると聞いたことがあるな」

「はい、あれ以上奥は湿地になっているのでまだ危ないから、とリリアナさんが言ってましたね」

「そうか……いつか一緒に行ってみたいものだな」


 呟いてぐるりと見回せば、先ほどまでは目につかなかった小さな花や見慣れない草に気づく。リリアナが共にいたのなら、きっと瞳を煌めかせて解説してくれたはずだ。ここに三人だけでいることが惜しくてフレデリックは「そうか…」ともう一度だけ呟いて、少しだけ視線を下げた。


「すいません、落ち着いてきました…。急いで移動した方が良いでしょうか?」


 だいぶ呼吸が整ってきたアイザックがもうひと口水を飲むとレナードを見た。


「少し」


 レナードはそう言うとまなじりを鋭くし、上を向いた。そうして眉を寄せ、目を閉じると耳に手を当て俯いたままでじっと耳を澄ませている。その様子にフレデリックもアイザックも身じろぎさえできず静かに息をひそめていると、ふぅ、とレナードが息を吐いて首を横に振った。


「少なくともこちらを目視できるような場所や距離には人の気配はありません。獣の気配はありますが大型ではないでしょう。もし頻繁に見回りがいるのであればどちらにしても大型は出ないでしょうが」


 淡々と言ったレナードにフレデリックは目を丸くした。


「レナード、お前すごいな?」

「何がですか?」

「そんなことが分かるのか?」

「相手が普通に動いていてくれば分かりますが、正直気配を消されたらすぐ近くへ行かないと分からないです。父上や兄上なら分かるかもしれませんが」

「騎士ってすごい……」


 アイザックもぽかんと口を開けてレナードを見ている。王宮に居る時には絶対に見られない顔だ。


「レナード、お前まだ九歳だよな?」

「来月には十歳ですが、まだ九歳ですね」

「大差ないだろう。すごいな、リンドグレン侯爵家」

 

 はー、とフレデリックは息を吐いた。驚くやら呆れるやら、フレデリックの側近候補は実はすごい人物だったらしい。ちょうど良く差し込んだ木漏れ日が一瞬レナードを照らし、まるで森の一部のように明るく輝いて、フレデリックは眩しさに少しだけ目を細めた。


「騎士を目指すなら当然です。自分や仲間だけでなく、主君の生き死ににも関わりますから」

「そういうものか……」


 いつものどこかぼんやりとしたような顔で当たり前のようにレナードが言った。


「仲間や主君の、生き死にに関わるから、当然、か」


 それはつまり、まだ候補ではあるが同じ側近候補であるアイザックのためであり、主君になるかもしれないフレデリックのためだ。


 何とも言えないくすぐったさにフレデリックがアイザックを見ると、アイザックも何とも言えない顔でフレデリックを見ており、ふたりでへにゃりと何とも言えない顔で笑った。


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