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ある王宮の日常とささやかな非日常について(シリーズまとめ版)  作者: あいの あお
第八章 王子殿下の冒険と王家男子の事情について

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27.心のままに


 フレデリックは今までどれだけのことを見逃してきたのだろう。生まれてたったの九年ではあるが、そう思うと妙に口惜しい。早い段階で気が付くことができて本当に良かった。


「殿下、食べないですか?腹が空いてないなら俺が食べましょうか?」


 はっとして顔を上げれば、すでに自分の肉と野菜を食べ終わったレナードがキッシュにフォークを入れつつ首を傾げていた。

 どうも手元をじっと見つめたままフレデリックのフォークが止まっていたらしい。独り言は聞こえていなかった様子のふたりにほっとして、フレデリックは誤魔化すように曖昧に微笑んだ。


「いや、大丈夫だ。すまない、急いで食べてしまおう。時間が惜しいな」

「すいませんレナード、僕のお肉はお願いしても良いでしょうか?あまり行儀がよろしくないのですが……」

「くれるのか?嬉しいな」


 申し訳なさそうなアイザックから嬉しそうに口角を上げて器を受け取るとレナードが嬉々として腹に収めていく。朝もそれなりに食べていたように思ったのだが、それはそれのようだ。


「ああ、そういえばレナードは早朝に叔父上と鍛錬をしたのか」

「はい、楽しかったです」

「そうか、楽しかったのか」


 素直に笑うレナードに、それは腹もすぐに空くだろうと納得すると同時にフレデリックはほんの少しもやっとした。

 どちらかと言えば嫌いだったはずの叔父なのに、いつの間にか嫌だと思っていた気持ちが薄れているように思える。今は、もっと知りたいとすら思う。

 昨日、懐かしそうに嬉しそうに叔父の話をしていたグレアムを思い出し、なぜか面白くない気がして少しだけ唇を尖らせた。


「本日はフレッシュミントのお茶をご用意しておりますよ」


 品が悪くならない程度にフレデリックも急いで昼食を食べると、食べ終わる頃を見計らってグレアムが食後の茶を用意してくれた。


「わぁ、良い香りですね」

「ああ。口の中がすっきりするな」


 アイザックも無事に食事を終えたようで、白のカップに映える淡い緑に目を輝かせている。


「レナード、お前、もう食べ終わったのか」

「はい。まだ入りますよ」

「さすがにもうやめておけ。動けなくなると良くないぞ」


 軽く腹をさすりつつレナードが「まぁ、そうですね」と頷いた。フレデリックがアイザックと顔を見合わせて苦笑いをしていると、食器と籠を片付け終えたグレアムが「またお出でになればよろしいですよ」と口元を綻ばせた。


「落ち着かれましたら一度離宮へお入りいただき身支度を整えていただきます。お荷物は護衛が森の入り口まではお運びいたしますので、そこからはご自身で背負ってお進みください」

「ああ。分かった、グレアム」


 茶を飲み、離宮へ戻って用を足し森の入口へ行くと、グレアムの言っていた通り護衛の騎士がフレデリックたちの鞄と共に待っていた。


「これは、思っていたよりも重いな?」

「そうですね、水筒がひとつ増えてるんで、慣れないとかなりだと思います」

「ずしりと……しますね………」

「なるほどな、これで動くとなると確かにいずれ肩が痛くなるかもしれないな」


 肩に感じる初めての重さにちらりとアイザックを見ると、アイザックも少し前のめりになり、難しい顔をして目をぱちぱちと瞬かせている。もちろんアイザックも初めての体験だろう。


「いけそうか?アイザック」

「大丈夫です、レナード。まずは頑張ってみます」


 ぐっと背筋を伸ばして大きく頷いたアイザックに、「そうか」とレナードが嬉しそうに笑った。


「それでは行こうか。ジャック卿、それと…」


 黒髪の騎士を仰ぎ見れば、騎士は軽く礼をして少しだけ口角を上げた。


「第一騎士団所属、ケネス・コーツです」

「ケネス卿か。今日はよろしく頼む。……面倒を掛ける」


 頭を下げることは許されない。けれど、心の底からフレデリックは詫びた。

 今からフレデリックたちは護衛のふたりを振り切って森の奥へ入る。黙って消えてしまうのだ、何事も無く無事に帰るつもりだが当然かなり心配を掛けるだろう。巻き添えになっただけでも、上の者にばれればふたりは叱責もされるだろう。

 考えれば考えるほどぎゅう、と胸が重くなる。フレデリックは丸めそうになった肩をぐっと胸を逸らして伸ばし、護衛のふたりをしっかりと見て、後で必ずしっかりと詫びようと唇を引き結んでゆっくりと頷いた。


「ご随意に」

「どこへでも」


 護衛のふたりは一度だけちらりと視線を交えると、ケネスはほんの少し笑みを深くして、ジャックは少し垂れ気味の目を細めて微笑んだ。


「ああ。ではグレアム、行って来る」

「行ってらっしゃいませ。………お心のままに」


 グレアムは柔らかく微笑むと、胸に手を当てて丁寧に腰を折った。


「ああ………?」


 ふたりの騎士と従者の言葉に何かが引っかかったような気がして、フレデリックは何度も目を瞬かせた。

 何となく後ろ髪を引かれるような気がしたが、ふるりと頭を軽く振ると、今日もアイザックを先頭にゆらゆらと光の揺れる森へと入って行った。


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