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ある王宮の日常とささやかな非日常について(シリーズまとめ版)  作者: あいの あお
第八章 王子殿下の冒険と王家男子の事情について

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26.違うからこそ


 軽く一礼してジャックが一歩後ろに下がるとグレアムも微笑んでそれに応え、すぐにフレデリックに向き直った。


「荷物の確認はお済みですか?」

「ああ。問題ない」

「では昼食の準備が整いましたのでこちらへどうぞ」

「ああ」


 グレアムに促されてテーブルに着くと、今回もまたひとりひとりに籠が用意されていた。


「不思議だな…たいしてお腹は空いていないが、こうして出されると急にこう…わくわくする」

「はい、僕もなんだかこれなら食べられる気がします」

「俺は腹が空きました……」


 ちらりと横を見ればジャックと黒髪の騎士がグレアムと何か言葉を交わしている。

 ちょうど話が終わったようで、フレデリックの視線に気が付いたジャックと黒髪の騎士が共に騎士の礼を取り離宮の方へと下がって行った。


「グレアム」

「何でございましょう?」

「あのふたりは仲が良いのか?見かける時はいつもふたりの気がするが」


 ここ数ヶ月ほどで彼らをフレデリックの護衛として見かけることが増えた。反対に、それまでよく見かけていた騎士を見かけなくなった気がする。


 森に面した庭園の降るような緑の中を、ふたつの白い背中が背筋を正して遠ざかって行く。がさがさと籠の中身を出しつつ彼らの後ろ姿を目線で示せば、グレアムが口角を上げて小さく頷いた。


「そうですね。年齢も家の爵位も同じで性格や能力なども相性が良いそうで、ふたりで動いていることが多いようですね」


 今日の昼食はキッシュと、色とりどりの野菜と肉をひと口大にしてローストしたものが深めの器に入っている。フォークが一本入っているのでナイフで切らずに手早く食べられるように配慮してくれたものだろう。


「年齢も家の爵位も同じ、か。彼らも、僕たちのような、いわゆる幼馴染なのだろうか」

「幼馴染というほどでは無いかもしれませんが、長いお付き合いではあるのでございましょうね」

「それに能力の相性…そういえば正反対の戦い方をすると言っていたが。そういうものなのか?」


 いそいそと器たちを籠から出して自分の前に並べると、ローストされた人参をフォークで刺して口に入れる。味付けはハーブと塩だけのようだ。シンプルだが人参の甘みが引き立っていて、フレデリックの口角が思わず上がった。


「複数人で動くときはある程度の相性は考慮されますね、やはり効率も上がりますので」


 グレアムは話しながらもグラスに飲み物を注いでいく。ガラス製の水差しの底に沈むあの緑色の柑橘らしきものはなんだろう。レモンとはまた違うさわやかな香りがする。


「そうなのか。外見だけ見れば正反対に見えるんだがな」


 ジャックとケネス、どちらもいわゆる美丈夫だ。けれど、並んだふたりから受ける印象が全く違う。

 じっと見つめてみてもフレデリックにはうまい言葉が見つからないが、食べ物に例えるならジャックはかじったら蜂蜜のように甘そうで、黒髪の騎士はぴりりと胡椒のような味がしそうだ。


「違うからこそ、かもしれませんよ」


 眩しそうに眼を細めて口角を上げたグレアムに、フレデリックは何となく、目の前で昼食をとる側近候補のふたりを交互に見た。


 フレデリックたちの生まれ月はほとんど変わらない。一番早いレナードと一番遅いフレデリックでほんの三ヶ月の差だ。


 一番背の高いのがレナード、一番低いのがアイザック、フレデリックはちょうどその間くらいだが、交互に見ても視線は上がりも下がりもしない、その程度だ。


 テーブルをよく見ると、レナードの肉のローストの皿がフレデリックたちより少し大きいことに気が付いてフレデリックは少しだけおかしくなった。

 レナードが一番よく食べるし肉を好む。一番食が細いアイザックは野菜の方が好きだ。フレデリックは今のところ特に好き嫌いは無いのでどちらも美味しく食べられる。

 そういえばレナードが嫌うのは葉野菜だけで他は好きでも嫌いでも無いと言っていた。今日のローストは肉の風味がするのか、むしろ嬉しそうにどんどんと口に運んでいる。


 さすが武門というべきか、一番体力が有るのもレナード。鍛錬をしていないアイザックが一番体力がないが、ここはフレデリックも大差がないのは反省だ。

 体力はないがアイザックが一番弁が立つ。一番口下手…と言うより言葉選びに難があるのがレナード。フレデリックはふたりの会話がかみ合わないときにそれぞれの言い分を橋渡しすることができる。


 レナードは武器や騎士、山や森、獣などの知識に強くてアイザックは歴史や貴族、文学や意外なところで建築物に強い。フレデリックはどうだろう、自分で自分を判ずるのは難しい。


「そうか……違うからこそ、か」


 何かふわふわと曖昧だったものがフレデリックの中で形になってきた気がして、フレデリックはゆっくりと、噛みしめるように言った。


 春の茶会でアイザックが加わってから二ヶ月。フレデリックはふたりのことをずいぶんと知ったと思う。レナードに至ってはほぼ生まれた時から一緒にいたはずなのに、この二ヶ月で知ったことの方がずっと多い気がする。それは、きっと。


「僕が、見ようとして、こなかった、のか」


 フレデリックの視線が下がる。途端に、風に揺れる庭の緑もふたりの笑顔も、周囲の何もかもが目に入らなくなった。

 見ようとしなければ、知ろうとしなければ。目の前にあってもただ、流れ去るだけで何も残りはしない。


「ああ………。興味を持てることは、本当にすごいこと、なんだな……」


 ふと、リリアナが言ってくれた言葉を思い出して目元がほんのりと熱くなった。その通りだ。何かを興味を持って見るというのは、当たり前のようでいて実に難しいことだったのだ。


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