25.短剣と小剣と長剣と
フレデリックはそっと、油紙の中の短剣を撫でた。
「お前の言うとおりだな。今更何を言ったところでこっそりと立ち入り禁止区域に入ろうとしているのは事実だし、こっそりと短剣を持って来たのも事実だしな」
「まぁ、そうですね。蔦を切ったり枝を払ったりにも使えますから便利ですよ」
「ああ。無暗に振り回すのは危険だが、いざというときに有るのと無いのとでは安心感が違うな」
のんびりとした動作で荷物をひとつひとつ丁寧に鞄に戻していたレナードが、何かに気が付いたように「ああ、それに」と顔を上げた。
「基本的には何かあれば俺が剣を抜きます。やっぱり長剣は無理でしたけど小剣は持って来られたので」
「え、長剣は無理なんですか?」
荷物を詰め直しながら不思議そうに首を傾げたアイザックに、レナードが真面目な顔で頷いた。
「まだ俺には重すぎるんだ。それに長すぎる。振れないわけじゃないが扱えない。ただでさえ森の中は障害物が多くて剣を振るには適さない場所だし」
「レナードは凄いな。僕は持ち上げるのがやっとだったぞ。振ろうとするとふらついてしまう」
「そんなに重いんですか……?」
目を丸くしたアイザックがばっと護衛の騎士を見た。もちろん帯剣している。気付いた金の髪の騎士が「御用でございますか?」と帯剣していた剣を軽々と片手で地面に置いてフレデリックの前に跪き、右手を胸に当てた。
「ああ、いや……長剣は重いという話をしていたんだ」
フレデリックが正直に話すと金の髪の騎士は納得したという顔で「左様でございましたか」と頷いた。
「抜くことや構えていただくことはできませんが、お持ちになってみますか?」
「良いのか?自分の剣を他人に触られるのは騎士にとって気持ちの良いものでは無いだろう?」
「王子殿下とご友人の皆様に手に取っていただけるなど、幸せな剣でございますよ」
金の髪の騎士は地面に置いていた剣を取りフレデリックの前に両手で捧げ持つと「よろしければ」と綺麗な青の瞳を細めて微笑んだ。
「感謝する。君は……」
「第一騎士団所属、ジャック・タイラーでございます。危ないですので両手で持ち上げてくださいね」
「そうか、ジャック卿………やはり重いな!」
「私の好みで通常より大きめの剣を使用しております。余計に重いかもしれませんね」
ジャックの容姿に似合わぬほど飾り気のない剣は、鞘に入ったままであるせいもあるが、ジャックは軽々と扱っていたのにフレデリックには両手で支えてもずしりと重い。
優し気に垂れた目元に綺麗に弧を描く唇がとても甘やかで美しいが、やはり第一とはいえ成人男性であり騎士なのだなと、ジャックの手に長剣を返しながらフレデリックは改めて第一の騎士を侮っていたことを心の中で詫びた。
「うわぁ……これを、片手でも振り回すんですか?」
アイザックも持たせてもらい、その重さに目を丸くしている。両手で捧げ持ったまま二度、三度と上げ下げすると辛くなったのか「重いです」とへにゃりと眉を下げてジャックに長剣を渡した。
今度鍛錬場に行くときにはアイザックも誘ってみよう、とフレデリックは胸元にこぶしを当てた。きっと王国が誇る立派な騎士たちの動きにもっと驚いてくれるはずだ。
「タイラー卿は、いつもこれを?」
「ええ、私は重さで押すことを好みますので。私の相棒は真逆の戦い方をしますが」
両手で長剣を持ったまま真剣に手元を見つめるレナードに、笑みを深くしたジャックがちらりとグレアムを手伝う黒髪の騎士を見た。視線に気づいた黒髪の騎士が淡く微笑んで胸に手を当て綺麗に腰を折った。
「うわぁ……ジャック卿も格好良いと思いましたが、あの方はすごく綺麗な方ですね……」
「顔立ちだけなら叔父上と張るな。グレアムも美形だが系統が違う」
レナードは長剣を丁寧にジャックへ返すと「ありがとうございました」と胸に手を当ててぺこりと一礼し、ぱちくりと何度も瞬きをしながら黒髪の騎士を見ているアイザックに肩を竦めた。
「タイラー卿やあの人みたいのを『目の保養』って言うらしい。お嬢さん方が鍛錬場でも良く見目の良い騎士にきゃーきゃー言ってる」
「ポール卿とアレク卿にじゃないのか?」
「そこが一番うるさくなりますね」
「御令嬢方の前ではうるさいって言うなよ?」
「大丈夫です。凄い目で睨まれるので言わないです」
「すでに睨まれたことがあるんだな……」
いつも通りのどこかぼんやりとした顔で淡々と言うレナードに、フレデリックは半目になった。アイザックはそんなふたりを見ながらくすくすと口元を押さえて笑っている。
ジャックが立ち上がり長剣を剣帯に差すと、昼食の準備を終えたグレアムと黒髪の騎士がフレデリックたちの元へとやって来た。




