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ある王宮の日常とささやかな非日常について(シリーズまとめ版)  作者: あいの あお
第八章 王子殿下の冒険と王家男子の事情について

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24.単純明快


 しっかりと整備された道を馬車に揺られて約二時間。

 いつものフレデリックなら起きてすぐくらいの時間に馬車に乗ったこともあり、午前の茶の時間を少し過ぎた頃には東の離宮に到着した。


「到着いたしました」


 こんこんこん、と外から馬車の窓が叩かれた。グレアムもまた同じように窓を叩くと馬車の鍵を開ける。

 ガチャリと扉が外側へ開くと、朝、部屋の前にいた金の髪の騎士が立っていた。やはり彼が今日の護衛で、道中も黒の髪の騎士と共にフレデリックたちの馬車の左右を馬に乗って守っていた。


「今日は暑くなりそうだな…」


 馬車を降りればふわりと、前回とは少し違うハーブの良い香りが漂ってくる。薬草園を明るく照らす太陽は前回来た時よりも力強く、青々と茂る草花の勢いも増しているように見える。


「森の中は涼しいでしょうが…水分は少し多めに持って行った方が良さそうですね」


 レナードが眩しそうに目の上に手をかざして空を見上げている。フレデリックも釣られて見上げれば、頭上は吸い込まれそうなほどに見事な真っ青だ。


「もう一度持ち物の確認をいたしましょうか」


 グレアムが見慣れない形の鞄を三つ、腕に下げてにこりと笑った。

 用意されていたのは背に背負う形のもので、フレデリックは初めて使う。レナードは野山に入るのに何度か使ったことがあるらそうだが、両手が自由になるので非常に便利だがその代わりに物の出し入れが面倒くさいらしい。


「そうだな。軽食の前に先に荷物を確認してしまおう。かなり朝食を食べたからな…まださすがにお腹が空いていない」

「そうですか?俺はぜんぜん。いけますけど」


 不思議そうに首を傾げたレナードに「え、あんなに食べたのに?」とアイザックの口元がひきつっている。


「まあ、どちらにしろ食べないという選択肢は無いからな。少しでも動いて減らすしかないな」


 禁止区域に入ってしまえばゆっくり食べている時間は無いかもしれない。「そういうものですか?」とまた不思議そうに瞬いているレナードに「そういうものだな」と苦笑して、フレデリックは「こちらへ」と歩き始めたグレアムの後ろへ続いた。


 向かった先は先日と同じ東屋だった。ほんの一カ月足らずだというのに、東屋から見える色は少し違う。


「水筒がこちらです。こちらが焼き菓子の包み、摘んだキイチゴや薬草を入れる麻袋が数枚こちらに入っております。汗を拭く布はこちらと、こちらのポケットにも入っております。一番下に上着と予備の手袋がございますのでご入用の際はお柄ください」


 ひとつひとつ、グレアムに説明を受けながらそれぞれに鞄の中身を確認していく。メイが予想していた通り、フレデリックの用意した袋も十分に入りそうだ。


「グレアム、水筒を増やせるだろうか?」

「予備はお持ちしておりますが重くなってしまいます。それでもよろしいですか?」

「問題ない。足りなくなるよりは良いだろう」

「承知いたしました。すぐにご用意いたします。三つでよろしいですか?」

「ああ、頼む」


 レナードとアイザックを見ると頷いたので予備はそれぞれひとつずつ増やすことにした。水は飲み水だけでなく色々と使える。立ち入り禁止区域の森の様子が分からない以上可能な限り多く持っておきたい。


「俺が持ちましょうか?一番体力もありますし」

「いや、いざという時にレナードが動きにくいと困る。それぞれで持とう。無理そうだったら途中から持ってくれれば助かる」

「分かりました、少しでも体に異変を感じたらすぐに渡してください。慣れない人間が重いものを背負って歩いていると意外と肩と背中にくるんで」

「分かった。アイザックもそれで良いか?」

「はい、よろしくお願いします」


 騎士団で稽古をつけてもらっているとはいえ体力には全く自信が無い。荷物を自分で背負うのも初めてだ。正直に言えばどのような行程になるのかも全く想像できない。今更ではあるがかなりの無茶をしようとしている気がする。


「殿下、そちらの袋は?」

「ああ、ネトル対策の重曹と方位磁石、雨が降ったときの油紙と……中に、短剣を潜ませている」


 グレアムと護衛の騎士が近くにいないことを確認し、フレデリックは袋を開いて見せた。

 他は良いが短剣は大人が一緒の時以外は持ち歩かないように言われている。フレデリックは油紙に隠してこっそりと持って来たのだ。


「俺の方は殿下の護衛のためだと言ったら普通に許可が出ましたがやはり殿下は駄目でしたか」

「いや、駄目だと言われるのが目に見えていたから聞きもしなかった」

「聞いていたらきっと間違いなく朝に再度荷物の確認をされていましたね、さすが殿下です」

「褒められているはずなのに複雑な気分だな」


 アイザックにさすがと言われ、フレデリックは何とも言えない気持ちになった。何せ悪だくみをしているのだ。権謀術数の心得は貴族にも王族にも必要だろうが手放しで喜ぶことも難しい。

 フレデリックが難しい顔になっていると荷物を詰め直し終わったレナードが大きく伸びをするとのんびりと言った。


「良いじゃないですか。持って来られて良かったってことで」

「それはそうだな」


 単純明快なレナードの言葉にフレデリックは苦笑した。


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