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ある王宮の日常とささやかな非日常について(シリーズまとめ版)  作者: あいの あお
第八章 王子殿下の冒険と王家男子の事情について

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23.器用で、不器用


 それまで黙って頷きながらゆっくりと朝食を口にしていたアイザックが、カトラリーを置くと口元に手をあてて首を傾げた。


「絶世の美男子で剣までお強いなんて……王弟殿下のできないことって何なんでしょうね」

「そうだな……公式の場では王族としての振る舞いも完璧でいらっしゃるからな……」


 フレデリックも一度カトラリーを置くと、うーん?と腕を組んで唸った。


「普段はだらしないし、動きも荒いし、言葉遣いも汚くて大人としてどうかと思うんだが、公の場では本当に見とれてしまうほど優雅で格好が良いんだ。だからこそ普段が余計に残念に見えるんだが…」


 もしも普段からあの振る舞いであれば、フレデリックの理想の王は叔父の姿をしていたことだろう。さすがにこれは口に出してはいけない気がして、フレデリックはオレンジジュースと一緒にごくりと飲みこんだ。


「ああ、ギャップ萌えですね」

「何だギャップ萌えって」


 アイザックが納得したように頷いたのを見てレナードが怪訝そうな顔でアイザックを見た。話しながらも見る間にレナードの皿は減っていく。


「申し訳ありません、姉の口癖なんです。何でも、普段とは違う一面にこう…ドキドキする?ような感情だそうです」

「ドキドキ……?」


 フレデリックは胸を抑えてみるがいつも通りの鼓動を感じるだけだ。よく分からずに「うーん?」と眉根を寄せると、レナードが「姉までいるのか……」とぼそりと呟いた。


 ふふ、と笑った声がしてそちらを振り向くと、今日もグレアムが視線を逸らして口元にこぶしを当て、肩をふるふると震わせていた。


「グレアム?」

「申し訳ございません、大変な失礼をいたしました」


 困ったように眉を下げてグレアムが誤魔化すように咳払いをした。メイもまた、呆れたようにグレアムを見ながらも口角が上がってしまっている。


「なあ、グレアムは叔父上が強いのは知っていたか?」


 さすがに遅くなりそうなので、フレデリックもカトラリーを持ち直し朝食を食べ進めながら話を続けることにした。いつもなら間違いなく怒るメイも、あまり良い顔はしていないが止めることもしない。


「そうですね。わたくしも実はそれなりに武器が扱えるのですが、学生時代から一度もライオネル殿下に勝てたためしがございませんよ」

「え、グレアムも戦えるのか?」

「父がブラッドフォードの血筋ですからね。ブライは武門ではありませんがわたくしも姉たちも容赦なく仕込まれました」

「容赦なく……」


 グレアムの恐ろしい言葉選びにフレデリックの口元が引きつった。


 ブラッドフォード公爵家は二つ名を『王国の剣』という。五つある公爵家のうち唯一の部門で、全ての騎士団を統括する総騎士団長は現在、ブラッドフォードの先代公爵が務めている。


「ブラッドフォードの容赦無しは相当だろうな」

「そうですね、今からでも従騎士試験ではなく騎士の中途採用試験に十分に受かる自信がございますよ」

「中途採用試験にか?中途採用は実力重視だから中堅騎士以上に戦えないと駄目だと聞いているが……」

「左様でございますね。従騎士試験であれば将来性で受かりますが、中途採用は隊長以上の騎士との手合わせで実力を示さなければいけませんね」

「グレアムは、それに受かるくらい強いんだな………叔父上は更に上を行くのか……」


 微笑んで肩を竦めたグレアムに、レナードの口から「まじか…」と崩れた言葉がこぼれた。メイに睨まれて縮こまっている。


「あー…グレアムが騎士になったら、間違いなく第一だな」

「それが嫌で騎士にならなかったのもあるのですが、イーグルトン公爵閣下が第一騎士団の団長になられると分かっていたら騎士の道もありでございましたね」


 誤魔化すように咳払いをしてフレデリックが頷くと、グレアムも目元を緩めて頷いた。

 イーグルトン公爵は二年前に第一騎士団の団長に就任した。イーグルトン公爵家の二つ名は『王国の良心』。第一騎士団を変えようと努力をしているとフレデリックも聞いている。


「そうか……だが僕はグレアムが騎士にならなっくて良かったと思うぞ」

「殿下はわたくしを喜ばせるのが本当にお上手ですね」

「噓は無いぞ」


 ふふふとまた笑ったグレアムにフレデリックはしかつめらしく言った。

 第一騎士団の騎士として出会っていたらきっとフレデリックはグレアムに気づけなかった。それではあまりにも勿体ない。


「なあ、グレアム」


 フレデリックはパンケーキの最後のひと口を飲みこむと残っていたオレンジジュースを一気に飲み、食後の紅茶を用意しているグレアムを振り返った。


「何でございましょう?」

「グレアムから見た叔父上は、どんな方だ?」


 フレデリックの質問が意外だったのかグレアムの手がぴたりと止まった。そうして少し考えるように俯くと、一瞬だけ痛みを堪えるように黒の目を淡く細め、そうしていつもの穏やかな顔で微笑んだ。


「……とても器用で、とても不器用な方ですね」


 メイが食べ終わった皿を下げ、そこにグレアムが紅茶のカップを置いて行く。

 ふわりと漂う良い香りに紅茶を見ると、揺れる淡い紅の水面に微かにフレデリックの影が映っている。フレデリックの瞳は叔父と同じ濃紫。最も貴いとされる色だ。


「器用で、不器用」


 フレデリックが噛みしめるように言うと、グレアムがとても柔らかな声で「はい」と頷いた。


 本当はきっと何でもできるのにまともに生きようとしない残念な大人。本当は尊敬できるはずなのに、全く尊敬できないことばかりする人。それがフレデリックから見た叔父だ。

 けれど色々なことが見えていなかったと知った今、叔父のことも…もしかしたら父のことも見えていないことが沢山あるのかもしれないと思えるようになった。


「僕はもっと、知らなくてはいけないな」


 フレデリックは目を閉じて水面に映る影を視界から消した。

 フレデリックは今日、東の離宮へ行く。見つけられても、見つけられなくても、きっとフレデリックに何かを教えてくれる。


「さあ、行こうか……知るために」


 俯かせていた顔を上げるとじっとフレデリックを見つめていたレナードとアイザックが頷いた。フレデリックもふたりに頷き返すと、まだ湯気の上がる紅茶を一気に飲み干して席を立った。


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