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ある王宮の日常とささやかな非日常について(シリーズまとめ版)  作者: あいの あお
第八章 王子殿下の冒険と王家男子の事情について

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21.小さな淑女


「王女殿下はお野菜もしっかり食べられて素晴らしいですね」

「そうよ!ティーナはお野菜もたくさん食べられるのよ!」


 にっこりと笑ったアイザックに満面の笑みで得意げに答えたのは妹のクリスティーナだ。

 夕食はてっきり三人で食べるものかと思っていたのだが、レナードとアイザックが宿泊すると知ったクリスティーナが「ティーナもお兄さまたちと一緒に食べるわ!」と言い張ったそうで、四人で小ぶりなテーブルを囲んでの夕食となった。


 本当は夕食の間にも明日の相談をしたいと思っていたのだが、焦った顔の乳母を置き去りに部屋に駆け込み「兄さま!ティーナはにんじんが食べられるようになったのです!」とあまりにも嬉しそうに笑うクリスティーナに、それはまた後で良いかと三人で顔を見合わせて笑った。


「そうですね。王女殿下に食べていただけて、お野菜もきっと嬉しいですよ」


 同じ年頃の妹がいるアイザックが目を細めて褒めると、クリスティーナは我が意を得たりとばかりにきゅっと口角を上げた。そうして人参をひとつぱくりと口に入れて何度か噛むとごくりと飲みこむと、またも得意げににっこりと笑ってみせた。


「………俺も妹が欲しいな……」


 にこにこと笑いながら「ピーマンも食べられるのよ!」とアイザックにぱくりと食べて見せているクリスティーナを見てレナードが心底羨ましそうにため息を吐いた。


「可愛いだろう、僕の妹は」


 なぜかクリスティーナがアイザックばかりに気を取られているのが少し気に食わないが、三つ年下の妹の愛らしさにフレデリックも目を細め口元を緩めた。


 レナードは男ばかりの三兄弟の末っ子だ。メイも以前、ひとりくらいは女の子が欲しかったのですが…と、クリスティーナを見てほぅと息を吐きつつ眉尻を下げていた。


「羨ましいです。アイザックも家ではこんな感じで幸せなのか……」


 半目になって天を仰いだレナードにアイザックもふふふ、と声を上げて笑った。


「そうですね、自慢では無いですが当家の妹も中々可愛いですよ?」

「アイザックさまにも妹さまがいらっしゃるのね?」


 クリスティーナに少し舌足らず気味に名を呼ばれアイザックの顔が更に溶けた。


「ええ、王女殿下のひとつ下の五歳ですよ。いつか茶会などでご一緒できた際にはぜひ仲良くしてやってくださいね」

「もちろんよ。でもティーナはもうすぐ七歳になるから、ふたつ年下ね?」

「左様でございましたか。王女殿下はもう立派な淑女でいらっしゃいますね」

「ええ、そうよ!ティーナは…あっ、わたくしはもう淑女なのですわ」


 淑女と言われはっと気づいたようにクリスティーナは口調を変えた。初めての家族以外との夕食に興奮していたのだろうか。すっかりと気を抜き振る舞いが子供っぽくなっていたことにも気づいたようで、恥ずかしそうにもじもじとしながら表情も少し控えめな笑みに変えた。


「あああー……俺も妹が欲しい……」


 そんなクリスティーナの愛くるしい様子にレナードが片手で目元をおおうと俯いた。


「女神に祈るしかないな」

「聞き入れてもらえますかね……」

「どうだろうなぁ」


 食事はその後も和やかに続き、結局クリスティーナは「王女殿下はそのままでよろしいのですよ」とアイザックに微笑まれ、取り繕うのをすっかり止めてにこにこと楽しそうに話し続けた。


 そうして、そんな四人をある者は微笑ましそうに、ある者は困ったように、ある者は呆れたように見守っていたのだが、楽しそうに笑い合う四人は誰もその視線に気が付くことは無かった。


「あの……殿下」

「ん?なんだ、レナード」

「王女殿下はあんなに小さい体で、あんなに食べて大丈夫なんですか?」

「は?」

「……あっ」


 クリスティーナが四種類のデザートを全て綺麗にたいらげ、満足そうに「おやすみなさいませ、お兄さま、レナードさま、アイザックさま!」と可愛らしいカーテシーを披露して自室に戻った後。レナードに不思議そうな顔で聞かれて、フレデリックとアイザックは固まった。


 デザートは四種類から選ぶよう言われたのだが、フレデリックたちは三人で顔を見合わせるとまるで示し合わせたように全員が違うものを選び、その全てをそっとクリスティーナの前に差し出した。

 顔を輝かせたクリスティーナに「ありがとうお兄さま、アイザックさま、レナードさま!」と満面の笑みを向けられ、三人の顔もすっかりとデザートのアイスクリームのようにでろでろに溶けた。の、だが。


「いや………普通は、ひとつ、だな?」

「そう、ですね。うっかりしておりましたが……」


 顔を見合わせたアイザックの顔からすっと血の気が引いていく。ちらりとレナードを見れば、レナードも「あ、やっぱりですか?」と目を泳がせた。

 これはかなりまずいのではないだろうかと慌ててグレアムを見ると、今日二回目の「ふふふ」というグレアムの笑い声が聞こえて来た。


「御心配には及びませんよ」

「…グレアム?」


 楽し気に肩を揺らすグレアムに三人で顔を見合わせると、グレアムがまた「ふふっ」と堪えきれないように笑い、頷いた。


「恐らくこうなるだろうことは予測しておりましたので。王女殿下の夕食はいつもよりかなり少なめに盛られていたのですよ。ですから王女殿下のお腹は問題ございません。冷たいデザートもあまり出さないように指示しておきましたので、お腹が冷えることも無かったはずですよ」


 口元を緩めたまま「ご安心くださいね」と頷いたグレアムに、はぁぁ、と誰からともなく深い息が漏れた。


「そうか!良かった……!」

「良かった……安心いたしました……」

「俺、妹は欲しいけど、ちゃんと気を付ける…」


 三人三様にほっとしたように表情を緩ませたのを見て、グレアムがまた「ふふふっ」と声を上げて笑った。


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