19.グレアムと叔父
「グレアムも寮なのか?」
「いえ、上の姉夫妻も今は領地におりますし下の姉も嫁ぎましたのでわたくしはひとりでブライのタウンハウスに住んでおりますよ。何年かは寮におりましたが」
「ひとり?グレアムは結婚はしていないのか?」
「ええ、良いご縁に恵まれず三十を過ぎてしまいました。養子に取りたい子ならいるのですが中々首を縦に振ってもらえなくて」
「そうなのですか?グレアム様はそんなに素敵なのに?」
いつもより大きな声を上げたアイザックが驚いたようにグレアムの顔を見上げた。
叔父よりも背は低いが、叔父の背が高いだけでグレアムは平均的だ。
暗い場所では黒に見えるくらい濃い灰色の髪に、瞳は更に濃い黒。顔立ちは美しい部類に入ると思うが、一見すると女性的になりそうな顔立ちを濃い色彩がぐっと引き締めている。
「そうだな、僕もグレアムは美形だと思うぞ。それに少し叔父上にも似ている。もてるだろう?」
じっくりと眺めても欠点が見つからない。フレデリックが首をかしげるとグレアムが困ったように笑った。
「それが全くもてないのですよ。学生時代から駄目ですね。わたくしには隙が無い上に暗い色彩も相まって怖いのだそうです。真面目過ぎて堅物すぎていっそ面白いぐらいだと、とある方には言われましたが」
「真面目過ぎる?グレアムがか?」
フレデリックが更にまじまじとグレアムを見ると、グレアムは何度か瞬いた後にふっと、柔らかく微笑んだ。
「そうですね…。今はだいぶ丸くなりましたが、以前は自分でも不思議なぐらいに融通の利かない人間だったと思いますよ」
こうしてフレデリックの側にいてくれるグレアムは、丁寧ではあるが堅苦しくは感じない。むしろいつもとても穏やかで空気も柔らかで、側にいても全く嫌な感じがしない。物腰も柔らかく常に紳士的……容姿は叔父の方が整っているが、フレデリックから見ればグレアムの方がずっと好ましい大人の男性に見える。
「なんと言うか、女性の好みというのは難しいのだな…」
「はい、気が付けばこんな年でございますよ」
にこりと微笑んだグレアムはやはりフレデリックの目から見てもとても格好良いのだが、女性から見るとどうなのだろう。いずれ母や母の侍女たちにグレアムの印象を聞いてみても良いなと、フレデリックは思った。
「そういえば、叔父上も三十過ぎて独身だぞ」
「あの方はまぁ、少々特殊と申しますか」
「それはそうかもしれないが………グレアム?」
思い出し笑いをするようにこぶしを口元に当てて肩を揺らしたグレアムをフレデリックが不思議そうに見上げると、グレアムは「ああ」と更に楽し気に黒の瞳を細めた。
「レ…ライオネル殿下とわたくしは従兄弟なのですよ」
「いとこ?」
「はい。ライオネル殿下のお母君、つまり殿下の祖母君で王太后殿下ですね。それとわたくしの父は兄妹なのです」
「そういえばグレアムのお父君はブラッドフォード公爵家の出だったか」
「左様でございますね」
なるほどそういえばそうだったかと、フレデリックは貴族名鑑の情報を何とか思い出そうと腕組みをして目を閉じた。
「お祖母さまは四人兄妹の末だったな?一番上が前ブラッドフォード公爵で……二番目の兄がブライ侯爵家へ婿入りしたんだったか?」
「ええ、よく覚えていらっしゃいますね」
「いや、せめて公爵家の血縁くらいは覚えねばならないからな。最近、貴族名鑑を読み始めたんだが……やはり中々難しいな。まだぱっとつながりが頭に出てこない」
「十分でございますよ。徐々に覚えていただければとは存じますが」
にこりと先ほどよりも笑みを深くしたグレアムに思わずアイザックを振り返ると、アイザックにも「ご一緒しますよ」とにこりと微笑まれてしまった。恐らく、アイザックは公爵家はしっかり頭に入っているのだろう。レナードを見ると何とも言えない顔で目を逸らされ、フレデリックは少しほっとした。
「そうか……叔父上はお祖母さまの若い頃に似ていると言っていた。グレアムも父君似なのだな」
「どちらかと言えばそうですね」
「父上はお祖父さまの若い頃に色彩も含めて良く似ているらしい。叔父上は濃紫の瞳以外はお祖母さまに似ていて…叔母上はどちらだろう?」
「オリヴィア王妹殿下は色彩もお顔立ちもちょうど間を取られたくらいのご容姿ですね」
「そうか…どちらにしろ、父上も叔父上も叔母上もびっくりするほどの美人だな」
「左様でございますね」
フレデリックが納得したように頷くと、グレアムも小さく頷き「こちらへどうぞ」とフレデリックたちを促した。
ちょうど窓が見える位置に置かれたティーテーブルに三人が座ると、いつの間に用意されていたのか、グレアムがお茶とお菓子が乗ったワゴンを押してきた。
グレアムは紅茶を小さなカップに注いでひと口含み、焼き菓子の端を小さく割って口に入れると頷いてフレデリックたちの前に茶と焼き菓子をそれぞれに用意した。
「グレアム、お前も座れ」
「なりません。わたくしは侍従でございますよ」
「良いから座れ。叔父上たちの話が聞きたい」
「座らずともお話はいたします」
「駄目だ。ついでに紅茶も用意して座れ。命令だ」
笑顔で首を横に振り続けるグレアムにむっと唇を尖らせると、グレアムは呆れたように苦笑して、ワゴンの下の段からカップを取り出して茶を注ぐと「今日だけですよ」と席に着いた。




