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ある王宮の日常とささやかな非日常について(シリーズまとめ版)  作者: あいの あお
第八章 王子殿下の冒険と王家男子の事情について

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18.王太子宮


 二度目の離宮訪問は日帰りということもあってかすぐに許可が下り、グレアムに調整を頼んだその日のうちに、あっさりと一週間後の訪問予定が組まれた。


「驚いたな、まさかこんなに早くに行けるとは僕も思ってなかったぞ」

「キイチゴの旬にも配慮をしてくださったのかもしれませんね」


 普段は通り過ぎるだけの中央棟の上階。フレデリックは知らなかったのだがいくつもの客室があり、明日に離宮訪問を控えた今日はそのひとつにレナードとアイザックは宿泊することになった。


 中央棟の上階には客室がいくつかありレナードとアイザックはそこに宿泊することとなった。

 何と客室階には遊戯室や談話室などもあるようで、フレデリックは自分の住む王宮ですらまだまだ知らないことが本当に多いと、グレアムに案内をしてもらいながら腕を組み唸った。


「殿下が王太子宮に入られた暁には王太子宮の客室や遊戯室に皆様をお招きできるようになりますよ」


 グレアムが手で示した先には窓の向こうに内宮と中庭が見える。内宮の最も大きな建物を挟んで王妃宮とは反対側に王太子宮があるのだが、ここからではどちらも内宮の建物の陰になっていて良く見えない。


「そうか……あと半年もしないうちに僕は王太子宮へ移るのだな」


 ぼんやりと、フレデリックは窓の外を眺めた。最近は日も長くなってきて庭園に差し込む光はまだ白い。


 今はフレデリックも王妃宮にある王子、王女専用の区画に部屋がある。妹のクリスティーナの部屋もすぐ近くにあるし、階は違うが母の部屋も同じ建物にある。父と叔父、伯母は内宮にそれぞれ自分の区画を持っているし、祖父と祖母は専用の離宮で暮らしているため王宮内にはいない。

 立太子すればフレデリックは専用の宮を与えられる。内宮のすぐ隣であり宮と呼ぶには小ぶりではあるが、それでもフレデリックとフレデリックに仕える者たちだけのための宮だ。


 光の向きが変わったのか、庭園に朝とは違う濃い影が落ちている。自分の宮を持つという誇らしいはずのその事実にフレデリックは急に心細くなった。


 今も常に父や母に会えるわけでは無い。王太子教育が始まったフレデリックはクリスティーナとも最近は以前ほど顔を合わせていない。朝食には皆一堂に会すが、それ以外の時間は基本的には別なのだ。それでもなお、居室の距離が離れてしまうという事実がフレデリックを酷く不安にさせた。

 思わずぎゅっと手を握り締めて内宮を見つめていると、横から少し間延びしたのんきな声がした。


「俺も成人して殿下の護衛になったら、殿下の宮に部屋をもらえるんですかねぇ?」


 ぱっと振り向くと、レナードも横でぼんやりと内宮を見つめている。その更に向こうでアイザックがくすくすと笑っている。


「レナードはまずは騎士の宿舎ではありませんか?」

「げ、父上が騎士の男子寮はかなり臭うって言ってたんだよなぁ……」

「そこまでひどいのか?」


 思い切り顔をしかめたレナードを見てアイザックが楽し気に口元に手を当ててにこにこと笑っている。フレデリックもまた笑いながらグレアムを振り向けば、グレアムもいたずらっぽく笑んで唇に指を立てた。


「そうですね、何せ汗を大量にかく屈強な騎士が何十人も住まう寮ですからね。どの寮も、それなり…ですよ」

「それなり」

「はっきりと言われるよりも更に臭さを感じるな……」


 レナードがげんなりといった様子で肩を落とした。フレデリックにはどうも想像がつかないのだが、確かに鍛錬場へ行くとたまに汗と言うか何と言うか、独特のにおいがすることがあるかもしれない。


「リンドグレン侯爵家は騎士団を持っていたよな?」

「ありますよ。だからこそ嫌なんですよ……」

「ああ、臭うのか」

「察してください」


 ふるふると首を横に振りとぼとぼと窓から離れたレナードを見てフレデリックは眉を下げた。アイザックもまた困ったように笑っている。ふと、離宮の森でレナードがにおいを気にしていたことを思い出した。


「レナード、お前、鼻が良いのか?」

「どうでしょう……リンドグレン(うち)では普通だと思いますが」


 首を傾げたレナードは「俺より兄上の方が鼻は良い気がしますね?」と唇を尖らせている。

 どちらにしろ、それほどまでに臭うのであれば、国を守ってくれる騎士たちのためにも何か対策を考えねばならない。フレデリックの心の中にある『王太子になったらやること一覧』に、騎士寮の臭い対策がしっかりと書き込まれた。


「うん?そういえば文官の男子寮はそうでもないのか?」

「おかげさまでそこまででは無いですね。女性の寮に比べればにおわない、とは言えませんが……」


 グレアムが少し困ったように眉を下げ、ほのかに口角を上げた。


「そうなのか?そういえば内宮はにおいをあまり感じないが、王妃宮はいつも花のような香りがするな…?

「そうですね。私はあまりお邪魔することはありませんが、女子寮とはそのようなもののようでございますよ」


 何かを思い出したようにおかしそうに笑うグレアムに、フレデリックは首を傾げた。


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