17.共に
グレアムはレナードとアイザックを見ると、それからまたフレデリックに向き直ってゆっくりと頷いた。
「承知いたしました。そのように手配いたします。お日取りもわたくしの方で調整してよろしゅうございますか?」
「任せる。キイチゴの旬が終わらないうちに頼む」
「かしこまりました。この後はいかがなさいますか?」
「いつも通り図書館へ行く。案内は護衛に頼むから良いぞ」
どことなく楽しそうに見えるグレアムに落ち着かないものを感じながらも、表情を変えないようにフレデリックはきゅっと唇を引き結んで力強く頷いた。
「お気遣いありがとう存じます。それではわたくしは早速手配を進めて参ります。ご移動の際は騎士にお申し付けくださいますよう。後ほど図書館へお迎えにあがります」
「ああ」
グレアムは立ち上がり、それでは失礼いたしますと綺麗に一礼して部屋を出て行った。ぱたりと静かに扉が閉められ、しばらく何事かを話す微かな声が聞こえていたが、小さな足音と共にそれも消えていった。
ほっと、フレデリックの口から小さな息が漏れた。
自分で思っていたよりも緊張をしていたようで、少しぬるくなったエルダーのジュースが喉に染みる。
「うまくいきそうですね、殿下」
「ああ、思いのほかグレアムが協力的だな」
横を見るとアイザックがにこにこと、目を三日月のようにして楽し気に笑っている。フレデリックもつられて笑顔で頷いた。
最近、アイザックは三人でいる時は以前のようなあの取り澄ました笑みを浮かべなくなった。代わりにこうして笑うようになったが、こちらがきっとアイザックの本来の笑顔だろう。悪くないとフレデリックは思っている。
「一応、兄上にも森の新しい情報を貰っておきますね」
「ああ、頼む。万が一にもエヴァレット嬢が気を利かせて森に来ないようにしてくれ」
「分かっています。巻き込みたくありません」
「ああ、もちろんだ」
レナードは今も昔も変わらない。相変わらずどこかぼんやりとして何を考えているのか分からないことも多いが、レナードが実はとても良く周囲を見て考えていることを、今のフレデリックは知っている。
「キイチゴの旬は惜しいですよね」
「その場で少しくらいは食べられるんじゃないか?」
どこまでもいつも通りのふたりを見つめているうちにふと不安になり、フレデリックは視線を泳がせると少しだけ俯いた。
「………ふたりは、良いのか?」
上目遣いにふたりを見やると、レナードとアイザックは顔を見合わせ、不思議そうにフレデリックを見ている。
「どうされました?殿下」
「いや……ここまで付き合わせてしまったあとで今更ではあるんだが……。その、うまくいってもいかなくても必ず叱責はされるだろう?もちろん僕が無理矢理付き合わせたと言うつもりではあるんだが……」
今ならまだ止まれる。三人で調べはしたし計画もした。だが、まだ動いていない。三人で過ごした楽しい思い出にして、ふたりは止まることもできるのだ。
返って来ない返事に恐る恐る顔を上げると、レナードは呆れたように、アイザックは困ったように笑ってフレデリックを見ていた。
「殿下はお止めになりたいですか?」
「いや……僕は僕ひとりでも行くつもりだが、お前たちを巻き込むのはどうなのだろうと思い至ったんだ」
「今更ですよ」
ため息を吐きつつ肩を竦めたレナードを見てアイザックが苦笑した。
「そうですね。殿下が行くと分かっていておひとりで行かせた方がよほど怒られそうですよ」
「俺は殿下が行くところにはどこへでも行きます」
「そう、か……」
きゅうと、胸が音を立てた気がして、フレデリックは胸元でぎゅっとこぶしを握った。
頼ることは難しい。信じすぎれば足元をすくわれる。良いように使われるのはもっと嫌だ。けれど、誰かが共にいてくれるというのは思っていたよりもずっと心強い。ひとりでは無いと思えることがこんなにも嬉しいと、フレデリックは初めて知った。
「危険を感じたらすぐに戻るとお約束いただきました。最後までお供しますよ」
「怒られるのは最初っから分かってましたからね」
顔を見合わせて笑うふたりにほんのりと、瞼の上が温かくなった。
「もちろんだ。危険なことはしないと誓おう」
ぱちぱちと、何度も瞬きを繰り返してじわりとにじむ熱を散らす。喉元の熱さは、唾液を飲んで誤魔化した。口角をぐっと上げると、フレデリックはふたりを交互に、まっすぐに見つめた。
「分かった……。ふたりとも、僕と共に行ってくれ。………ありがとう」
簡単に謝るな、堂々としていろとフレデリックの周りの大人は言う。けれど友への感謝は素直に口に出しても良いはずだ。こんなにも、喜んでくれるのだから。
レナードは照れたように笑んで鼻を指でこすり、アイザックは「いいえ」と頬を染めてはにかんでいる。フレデリックも「感謝する」ともう一度頷き、フレデリックの心が求めるままに素直に笑った。




