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ある王宮の日常とささやかな非日常について(シリーズまとめ版)  作者: あいの あお
第八章 王子殿下の冒険と王家男子の事情について

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14.王立植物園


 せっかくなので来た道とは違う道をゆっくりと戻る。リリアナと来た時にもこちらの道から帰ったのだが、思った通り、離宮には昼の少し前に到着した。


「あら、時間通りでしたね」

「約束しただろう」


 森の入り口で待ち構えていたメイに苦笑しつつ湯と着替えの準備を頼みいったん部屋に戻ると、すでに小さなたらいに湯と着替えがすっかりと準備されていた。


「さあ、汗を拭いてお着替えをされたら庭園へ参りますよ」

「庭園か?」

「ええ、せっかくの離宮ですからね、良いものをご用意していますよ」


 メイとレナードに手伝われながら体を拭き、着替えを済ませていく。どことなく機嫌の良いメイに、不思議そうなアイザックと居心地の悪そうなレナードと目を見合わせた。


「なんだろうな?」

「なんでしょうね?」

「何でも良いですけど腹が減りました」

「もうか!?」


 どこか呆れた顔で笑うメイに「さあ、まいりましょう」と促されて庭園へ向かうと、東屋でグレアムが冷たいレモネードを用意して待っていた。


「おかえりなさいませ、楽しく過ごされましたか?」

「ああ、中々有意義な時間だった」


 三人がそれぞれ席に着くと、すぐにグラスが目の前に用意された。小さな焼き菓子も添えられている。


「季節もよろしいので昼食もこちらにご用意しようかと思っております。よろしゅうございますか?」


 ふわりと風が甘い香りを運んで来る。薔薇の蕾はまだ固いが、低い位置には一面にカミツレやタイムが小さく可憐な花を咲かせている。少し向こうに見える紫はスミレだろうか。この庭園、特にこの一角は王宮に比べて小さくも愛らしく香り高い花が多いように見える。


「そうだな、せっかく来たのだから最後まで堪能して帰りたいな」

「こういう庭は俺はあまり見たことが無かったです」

「王立植物園の薬草園に少し似ていますよね」

「あちらが東の離宮に似せたのでございますよ」

「そうなのか!?」

「そうなのですか?」


 フレデリックとアイザックが驚いてグレアムを見ると、グレアムは笑みを深くして頷いた。


「王立植物園には公言はされておりませんが東西南北の離宮の庭を模した区画がございまして薬草園は東の離宮の区画なのです。東の離宮は東西南北の離宮の中で唯一、王立植物園より古いのでございますよ」

「知らなかった……」

「ええ、王立植物園自体がすでに三百年以上の歴史がございますしあまり知られていない事実かもしれませんね」


 静かに頷いたグレアムに、フレデリックは腕組みをして思わずうなった。

 本当にフレデリックはまだまだ知らないことが多すぎる。これは知らなくてはならないことではないだろうが、知っておいた方がきっとずっと良い。


「ん?なぜ東の離宮だけ古いんだ?」


 ふと、フレデリックの中で何かが引っかかった。良くは分からないが、もしかしたらそれこそが今は無くなった立太子の儀式に通じる鍵かもしれない。

 アイザックを見ると、アイザックも同じ考えに至ったのかじっとグレアムを見つめていた。


「現在の王宮ができる前の時代にこちらの離宮が王宮の一部として使われていたことがあるのです。そろそろ殿下も歴史の授業で習われる頃かと存じますよ」

「建国からの歴史はある程度学んだと思っていたのだが」

「宮殿や城の場所の話はございましたか?」

「いや、そういえば無かった、な?」


 思い返してみても授業の中では特に言及されていなかった。地図を使って説明された大きな遷都以外はせいぜい、今の王宮の場所で改築されたり増築されたりされただけだと思っていたのだ。


「市井で歴史として流布しているものと実際に起きたことに相違があることは殿下もすでにお気づきでございますね?」

「ああ。事実と真実は違うのだと、歴史の教師も言っていた」


 フレデリックが真面目な顔で頷くと、おずおずという風にアイザックが小さく手を上げた。


「あの、それは僕たちも聞いて良いお話でしょうか?」


 困ったように眉を下げるアイザックにグレアムが微笑んだ。


「スペンサー令息もリンドグレン令息も侯爵家のご子息でいらっしゃいますから。一般的に知られている歴史に違う部分があるのだ、ということまではすでに教わっておられることと存じます。わたくしもおふたりの年の頃にはすでに教わっておりましたし」

「はい、それは、はい」

「ええ。ですのでこの程度まででしたら問題なくおふたりにもお話することが可能です。このままおふたりが殿下の側近となられるのであれば、おふたりにも、事実と真実の差をある程度お話する日が来るかと存じますよ」


 にっこりと笑ったグレアムにアイザックは複雑そうな顔で頷いた。レナードは分かっているのか分かっていないのか、いつもの何を考えているかよく分からない顔でレモネードを飲んでいる。


「グレアム」

「はい、殿下」

「ブライ侯爵令息であるお前が本来知ることのできる範囲と、今のレナードとアイザックが知ることができる範囲は同じ、なんだな?」

「ええ。ただの侯爵令息である限り、ですが」


 にこりと笑ったグレアムの言葉尻からはその先を知っていることがうかがえる。恐らく、フレデリックにもまだ教えられていない何かだ。もしかしたら立太子の儀についても。


「お前はその先を、知っているのか?」

「全てではございませんが、ある程度はうかがっております」

「誰にだ?」

「わたくしを殿下の侍従にと選んだお方からでございます」

「それは誰だ?」

「いずれお分かりになるかと」

「そう、か………」


 視線を感じて振り返ると、アイザックが心配そうにフレデリックを見つめていた。


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