11.離宮の朝ごはん
グレアムはブライ侯爵家の現当主の次男で、フレデリックが立太子して王太子宮に移った後はフレデリック専属の侍従となることが決定しているひとりだ。
今のフレデリックは王妃宮で生活しているため、男性であるグレアムは許可のある決められた時間以外は立ち入りができない。そのため、今日のように王妃宮以外で何かある時にはメイや他の侍女に付いて専属侍従となるための研修を受けているのだ。
口々に挨拶を返すフレデリックたちに、グレアムは更に笑みを深くして一礼するとワゴンから次々に皿を並べていく。
「本日の朝食はチャイブのオムレツとハーブソーセージ、朝採れの野菜とハーブのフレッシュサラダ、パンはローズマリーのパンとテーブルロール、各種デニッシュ、バター、蜂蜜、ジャムは冬に離宮の森で採れたブラックベリーのジャムをご用意しております。コールドミートはこちらからお好きなものをお命じ下さい。お飲み物はフレッシュミルクとオレンジジュース、食後にハーブティーか紅茶をご用意いたします。使われておりますハーブは全て離宮で採れたものでございます」
普段ならこんなに要らないと言ってしまうところなのだが今日は早くに気持ちよく目が覚めたせいかぐぅーっと鳴るほどすっかりとお腹が空いている。レナードもアイザックもかなりお腹が空いているようで、ワゴンの上の料理に待ちきれないとばかりに目をきらきらとさせている。
「僕はコールドミートはいい、パンは両方ひとつずつ、デニッシュはナッツのものをひとつだな。ミルクはフレッシュで良いのか?」
「今朝、牧場から届いたばかりの絞りたてでございます」
「ではミルクを頼む。そうか…離宮は牧場が近かったな」
思わず声を弾ませたフレデリックに「承知いたしました」とにっこり笑うと、グレアムはまずフレデリックの前にたっぷりとミルクの入ったグラスを置いた。次々と並べられていく皿と籠の中身はいつもの朝食よりも間違いなく三割は多いだろう。
グレアムがひと通りフレデリックの前に並べ終わると、メイドたちがレナードとアイザックの皿を用意し始めた。アイザックはフレデリックと大差ない量だがレナードは倍はありそうだ。体が一番大きいのもレナードではあるが、護衛候補として日々最も体を動かしているのもレナードだ。きっと消費する量もフレデリックたちとは違うのだろう。
フレデリックが食べ始めなければふたりも食べられない。メイドたちの用意が終わったのを見計らい、フレデリックはすぐにカトラリーを手に取った。はしたないと思いつつも少し大きめに切ったオムレツを口に入れると、ハーブの良い香りがふわりと、口いっぱいに広がった。
「さすが離宮だな…。王宮でも色々出て来るが、これほどハーブが使われていることはない。これはこれで美味しいな」
「はい。昨日のネトルのスープも驚きましたが、ハーブというのはこんなにも色々なものに合うんですね」
「確かにうまいです、ソーセージと卵は……」
どことなく浮かない声にちらりとレナードを見ると、何とも言えない顔で青々としたサラダを見つめながらも大きめに切ったソーセージを口に運んでいた。
「レナード…お前、野菜だけじゃなくハーブも嫌いなのか?」
「いえ、ハーブは嫌いじゃないです。野菜も別に嫌いじゃないです。まぁちょっと、青い葉っぱが…」
「そういえば昨日はネトルのスープにも困っていましたよね」
「ああ、まぁ…ネトルはなぁ………」
歯切れの悪いレナードに思わずアイザックを見ると、アイザックもまた悩まし気なレナードの様子をうかがっていたようでフレデリックと目が合うときゅっと目を細めて楽しそうに笑った。
いつも穏やかに微笑んでいるか優雅にすましているアイザックもこんな顔をすることがあるのだなと、フレデリックもほんの少しだけ、いつもより笑みを深くした。
「まあ、良いさ。誰にでも苦手なものはあるだろう。むしろ青い葉が嫌いなのにエヴァレット嬢の手伝いをしているお前は凄いよ」
「そうですね。いつもの健康ジュースは果物がもっと少ないと仰っていましたし、表情を曇らせるだけのレナードはとても忍耐強いですね」
「いや……まぁ、うん、あー………パンもうまいですよ。形が見えなきゃうまいんです。ネトル以外は…」
「そういうものなのか……?」
複雑そうな表情でサラダを噛みしめるレナードに、フレデリックはまたアイザックと顔を見合わせて首を傾げた。
結局、少し物足りなく感じてフレデリックはテーブルロールとジャムとデニッシュをひとつずつ追加でお腹におさめた。
何とかサラダを食べきったレナードも嬉しそうにコールドミートを大皿に追加で平らげ、それを呆然と眺めていたアイザックと食後のミントとレモンバームのお茶を飲みながらまた笑い合い、大満足で朝食を終えた。




