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ある王宮の日常とささやかな非日常について(シリーズまとめ版)  作者: あいの あお
第八章 王子殿下の冒険と王家男子の事情について

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9.また明日


 ふと、レナードを興味深そうに見つめていたアイザックがフレデリックの方を振り向いた。目が合ったことに同時に驚き同時に苦笑すると、アイザックが「続きを」と目元を緩めて頷いた。


「ああ。で、だ。立ち入り禁止区域に木の柵とロープが張ってあるんだが、一か所だけ穴があった」

「穴ですか?」

「ああ、恐らく獣穴だと思う。僕たちの大きさなら抜けられるだろうが、柵は高いし綱も張られているから護衛は抜けるのも乗り越えるのも大変なはずだ。穴を抜けてしまいさえすればちょっとした時間稼ぎにはなると思う」


 このくらいだ、と腕で穴と同じくらいの輪を作って見せるとレナードとアイザックがひょいと輪を同時に覗き込んだ。どちらもさすがにくぐるつもりは無かっただろうが、こつんと頭が当たってしまい、ぱっと離れるとレナードは驚いたように、アイザックは気まずそうに「あ、悪い」「すいません」と顔を見合わせてはにかんだ。


 照れを隠すようにひとつ咳ばらいをするとアイザックが「ところで」と話を続けた。


「その王家の谷がどのあたりにあるのかの検討は着いているのですか?」

「離宮の森の北東だと聞いている。古い地図で見つけたが窪地は森に囲まれてはいるがそれなりの広さがあるようだから間違えず北東に走れば必ず着く。まぁ今回はできても下見のつもりだったから明日はまだ様子見だがな」


 フレデリックが頷くと、レナードの表情が曇った。


「最初から行く気だったんですね……兄上たちは体よく使われたわけですか」


 小さく息を吐いたレナードにフレデリックが慌てて首を横に振った。


「違う、そうじゃない。王家の谷について言わずにいたのは悪かった。だがエヴァレット嬢の研究に興味があったのは本当だしまた共に森へ行きたいというのも本気だ、必ず誘う。王家の谷は興味はあったが無理だとも思っていた。たまたま柵に穴を見つけてしまった以上は行けるところまで行ってみたい、というのが本音だ」


 言い訳がましくなってしまったのは、フレデリック自身も程度はどうあれ彼らを利用する形になってしまったことに少なからず罪悪感を感じていたからだ。それでも本当に楽しかったのだ。この三週間も、今日という日も。


「まあ、どちらがついでであったとしても全く興味が無かったよりはましですね。兄上もリリアナさんも平日は学園で忙しいですから」

「分かってる。だからこそ巻き込まないように宿泊は求めなかったし、今回は迷惑が掛からないよう、うまくいっても下見だけと決めていた」

「その辺りの気遣いには感謝しますよ」


 またも小さくため息を吐き苦笑したレナードの顔は仕方が無いな、と言っていた。主に対してため息を吐くなど不敬だと今までのフレデリックなら言っていたかもしれない。だが今そう思わないのは罪悪感からだろうか。それとも別の何かだろうか。

 レナードの様子に少しほっとしたフレデリックはふたりの顔を交互に見ると頷いた。


「ああ。明日は散策ついでにまたキイチゴを摘みに行く振りをしてふたりにも立ち入り禁止区域の境界を確認してもらう。あのキイチゴの茂みから立ち入り禁止区域の穴まではすぐだ。予定では一ヶ月後にキイチゴの旬ということでまた離宮に来ようと思っている。恐らく護衛はまた離れたところに待機するだろうからキイチゴの茂みの裏に回り、見えなくなったところで走る」

「少しでも危険を感じたらすぐに戻るとお約束いただけますか?」

「分かっている。僕の身は簡単に傷ついて良いものじゃない。そこの見極めは約束しよう」


 フレデリックは紫の瞳を持つ王族で第一王子。王位継承権一位であり、間近に立太子を控える身だ。怪我のひとつでもすれば一大事になりかねない。無理を押してまで突き進むつもりは無い。

 

 じっとアイザックの目を見つめれば、アイザックもしぶしぶという感じで頷いた。


「納得がいったわけではありませんが、分かりました。お供します」


 レナードを見れば相変わらずよく分からない表情で「お守りするのが役目です」とゆっくりと頷いた。


「よし、では今日は早めに寝て明日に備えよう。気付いたことがあったら次の機会が巡って来るまでに情報の共有と作戦会議だな」

「了解です」

「分かりました」


 寝台横の燭台を消すとフレデリックを中心に左側にレナードが、右側にアイザックが寝転がり皆で布団にもぐりこんだ。


「では、明日だな」

「はい、おやすみなさい殿下」

「おやすみなさいませ、殿下」

「ああ、おやすみ」


 明日を思えば興奮して眠れないかと思ったが、やはり森を歩き回って皆疲れていたのだろう。ものの数分であっさりと眠りに落ち、その後しばらくしてメイが様子を見に来たことにも、メイが部屋の全ての明かりを落とし「どうか良い夢を」と微笑みを浮かべたことにも誰も気づくことは無かった。


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