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ある王宮の日常とささやかな非日常について(シリーズまとめ版)  作者: あいの あお
第七章 女情報屋の変わった対価と特例について

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219/246

2.


 とはいえ、この国に銀の髪に濃紫の瞳の男などひとりしかいない。そうでなくてもこれだけの美丈夫がそうそうその辺にごろごろ転がっているわけがない。セシルに依頼する以上嘘はつけないし変装も無理だ。調べずとも、会った瞬間誰だか分かるというものだ。

 誰だか分かればその相手の状況を知るのは容易い。しかもこの男の情報は実によく売れるのだ。逆に噂話として入って来る話のほとんどがガセなのが笑えるが。


「お前だけじゃない。全員清算する」

「へえ……思い切ったね?」

「色々な、潮時なんだよ」


 ため息とともに肩を竦める男の憂い顔は実に色気がある。絵にしたらさぞかし売れるだろう。そんな顔もセシルは今日、十余年目にして初めて見たわけだが。


 詰まるところ、目くらましに使っていた女もセシルのような情報屋も、ついでに適当に騙くらかして良いように情報を得ていた女も全部切るということだろう。ずいぶんと潔い話だ。セシルもこういう潔さは嫌いでは無い。


「ふーん?決まりそうなのかい?」

「いや、まだ決まらない。だが準備だけはしないとまずい段階に来てる」


 男は面倒くさそうに目を細めると長い脚を気だるげに組み替えた。


 何だかんだと理由をつけてのらりくらりと結婚から逃げていたこの男だが、この顔だけでもとんでもなく女から人気がある。地位も高く金もある。性格や言動に難ありという悪評も少なくないが、それが事実で無いことをセシルも知っている。いや、一部は事実か。

 そんなこの男ももうそろそろ年貢の納め時ということだ。相手は決まっていないというが、王宮内では実は数人、すでに候補が固まっているのをセシルは知っている。


「なるほどねぇ。その情報買っとくね」

「お前、これ、金になるのか?」

「あんたの情報は何でも意外と売れるんだよ」


 セシルは客の嘘を許さない。セシルも客に嘘はつかない。言わない選択をすることはあるが、口に出すなら真実のみだ。だからこの男にも情報を売っていることをセシルは全く隠していない。


「そうかよ、まぁ良いけどな」

「良いのかい、普通は嫌がるもんだろ」

「俺自身が情報買ってるんだ。売られる覚悟くらいしてるさ。ギリギリまではな」

「そこを超えれば?」

「消す」

「おーこわ」


 消すという言葉に嘘が無いのも本当だ。事実、噂に踊らされ余計なちょっかいを掛けて表舞台から消えた者も少なくないし裏社会でも名前を聞かなくなった者もいる。その手伝いをしたのは主にセシルなわけだが。


「お前はその辺弁えてるだろうがセシル」

「まあね、だからこその老舗の情報屋だからね」


 セシル一代でもすでに十余年。先代から数えれば…いや、先代の前もその前もいるらしいので本当にセシルが継いだこの情報屋はかなりの老舗といえる。それだけの長きに渡り続けられるのはいつだってぎりぎりの線を間違えずに来たからだと思っている。


 誰にでも竜の逆鱗というのはあるもので当然この男にも存在している。今のセシルはいくつか把握しているが、今日はあえてそのひとつを話題に出した。


「で、原因はあの子かい?確か『世界中の淡い光を集めて人の形に整えた見事な人形のよう』だとか『触れれば壊れてしまいそうにか弱く儚い美の化身』だとかいうあのお姫様」


 物凄い例えようだが実際、本人もとんでもない美少女だ。慈善事業に参加することが多いお姫様を紛れて確認したことがあるが恐らく国一番と言っても誰も否定しないのではないだろうか。常に淡い微笑を浮かべ静かにたたずむ姿は確かにどこか作り物めいていて現実味が無いように思えた。


 セシルも一度興味があってお姫様のことを調べてみようとしたのだ。だが、調べても調べても誰もが知るような容姿や官報の情報しか出てこない。まるで誰かが幾重にもヴェールで包んで曖昧にしているように思えた。ヴェールの持ち主は間違いなくひとりではない。

 しかも調べ始めてすぐにセシルに監視が付いた。浅瀬を漂っている分には特に何も起こらない。けれど、ある一定より深みを覗こうとすればとたんに思いがけないところから警告が来る。


――――あ、これ死ぬわ。


 ほんの少しベールの向こう側を覗こうとしただけでセシルはそう感じた。しくじったかもと思っていた時、この上客がセシルに会いに来た。


「止めとけセシル。俺はお前を消すのは嫌だぞ」


 そのひと言でお姫様のヴェールの一部はこの男のものだと理解した。セシルの情報網にも引っかからずお姫様の痕跡を消しているこの男の手腕に感心しつつセシルはぞっとした。絶対に、敵に回してはいけない男だと改めて思ったのを覚えている。


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