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ある王宮の日常とささやかな非日常について(シリーズまとめ版)  作者: あいの あお
第六章 アマリリス令嬢の恋と友情、ぬいぐるみについて

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129.軟膏とハンカチと蒸しタオル


 モニカはひとつ軽く深呼吸をするとグローリアに向き合った。


「で、グローリア。その顔の理由を教えてちょうだい。それがあなたの話したいことで良いのよね?」


 お土産の生菓子の皿がもうひとつテーブルに乗り、紅茶の入った大きなポットが三つ、サイドのワゴンに用意された。完全に人払いをして四人だけで話す体制だ。特にグローリアが指示をしたわけでは無いのでユーニスが気を回してくれたのだろう。


「そう、ですわね。今日、殿下から次のお誘いが参りましたのよ」

「あら、ちょっと早くないかしら?」

「ええ、とても早くて驚いたのですけれど」

「あ、中休み中だからでしょうか?」

「それはあるわね。学園が始まったら週末以外そう簡単には呼べないもの」


 各々好きなように話しつつ好きなように菓子を皿に乗せ茶をすする。いつもの四人、いつもの茶会だ。グローリアの目元どころか上瞼までが真っ赤に腫れている以外は。

 

「で、お誘いがそんなに嫌だったの?」

「違いますわモニカ。お誘いは確かに嫌なのですけれどそれはまた別のお話で」

「え!グローリア様、嫌なんですか!?」

「ええ、その嫌な理由のせいでこの顔なのですけれど」


 これ邪魔ね、と眉を顰めながらモニカが装飾品と脱げる範囲までのドレスを脱いでいく。


「モニカ、シュミーズドレスの来客用がございますわよ」

「貸してちょうだい、着るのは自分でやるわ」


 煩わしそうにぽいぽいと脱いでしまうモニカに慌ててグローリアが侍女を呼びシュミーズドレスを頼む。少ししてドレスを持って来たユーニスがモニカの状態にぎょっとして「こ、公女様、失礼いたします!」と急いでシュミーズドレスを着せ、散らかった高価なドレスや宝飾品を集めて部屋の隅、大きなテディベアの横のアームチェアにしわにならないよう置いた。


「ありがとうユーニス、またあとでよろしくね」

「承知いたしましたお嬢様……一応準備済みですので」

「ええ、分かったわ」


 ユーニスが一礼して去ると、着替えて気分が良くなったのか上機嫌で焼き菓子を口に入れたモニカが首を傾げた。


「準備って何?」

「氷と蒸しタオルですわね」

「泣く前提ね?」

「念のため四人分ご用意しておりますわ。ドロシアの軟膏もございますわよ」


 グローリアが困ったように笑うと「あらそう?」と言い、モニカは紅茶をひと口飲むと、ほんの少し真剣な顔になり、ぐっと前のめりになって言った。


「さあグローリア、聞かせてちょうだい?」


 そうしてモニカはしばらく呆然と目を見開いた後、大きなため息とともに首を横に振った。


「ちょっと待ってちょうだい。うまく飲み込めないわ」

「え、え、あ………え?」


 どう話しを切り出せば良いのか分からず「殿下はもうずいぶんと長く王妃殿下を深く思っていらっしゃるようですの」と頷いたグローリアに「深く思う?それはそうでしょう、義姉だし家族だし?」とモニカが首をかしげて返し、そこに「ひとりの男性として愛していらっしゃるようなのです………もうずっと、深く、長く」とグローリアが背を丸めて答えた結果の反応がこうだった。

 モニカは眉根を寄せて目を閉じ額に手を当てて斜めになり、サリーは絶句して手に持っていた焼き菓子をテーブルにぽとりと落とし、ドロシアは無表情のままで停止した。瞬きすらしないが息はしていると思う。


「ええ、わたくしも聞いてすぐには頭が追いつきませんでしたもの」


 グローリアが肩を落としたまま苦く笑うとモニカが大きなため息を吐き、体を真っ直ぐに戻すと半目を開いた。眉根はひそめたままだ。


「そうね、実はちょっと思ったことはあるのよ。お兄様にはずっとお好きな方がいて、叶わない恋だからあえてあのような振る舞いで誤魔化しているのかしら…って。でもまさか、王妃殿下って………」


 頭痛がするとばかりにモニカは眉間を揉んでいる。我に返ったドロシアがテーブルに転がった焼き菓子をそっと横に避けた。サリーはまだ衝撃から立ち直れないようで「は?え?」と何度も呟きながら視線を彷徨わせている。


「モニカも何となくは気づいていらしたのね?」

「気づいてたって程じゃないわ。まあ、せいぜい妃にできない身分…それこそ平民か何かに長い付き合いの女性がいるのかしら?くらいよ。それも確証があったわけなじゃくてお兄様のあの奔放な女性関係の噂を考えたときにその辺が妥当な正解かしら?って思ったことがある程度よ。それも違いそうだってすぐに忘れたけれど」


 首をゆるゆると力なく横に振るモニカにドロシアが頷いた。


「そういう噂も確かにございますよ」

「まあ、そうでしたの……」


 グローリアが知る以外にも様々な形の噂話があるらしい。どれも実しやかに囁かれるがどれも真実では無いということだ。一部の艶話は事実だろうが、それは隠れ蓑なのか、叶わぬ思いへの王弟殿下なりの区切りの付け方なのか、それとも自暴自棄になった結果なのか。今のグローリアにそれを知る術はない。


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