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ある王宮の日常とささやかな非日常について(シリーズまとめ版)  作者: あいの あお
第六章 アマリリス令嬢の恋と友情、ぬいぐるみについて

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127.慟哭


 母は何かを振り切るように首を横に振ると悲し気に眉を下げてグローリアに手を伸ばした。


「そうね、ジジ。まさかこんなにあなたたちが近づくとは思っていなかったのよ。今言うべきではないとも思ったのだけど、これ以上深みにはまるより今しか無いとも思ったのよ……」

「ええ、分かりますわお母さま。分かります………苦しませてしまい申し訳ありません」

「なぜあなたが謝るのジジ、あなたは何ひとつ悪くなくてよ」

「いいえ、いいえ、お母さま。いいえ……」


 はらはらと涙を流し続けるグローリアの横へ椅子ごと移動してくると、母はグローリアの小刻みに震える肩をそっと抱いた。ぽんぽんと赤子をあやすように背を叩いている。


「お母、さま……セシリア様の、こと。………モニカに話しても、よろしいでしょうか?ドロシアと、サリーにも……」


 これはきっと王弟殿下の大切な思いだ、第三者に話すことが正しいとは思えない。けれど言わないと皆、王弟妃を目指すと言ったグローリアを色々な形で応援してくれるだろう。グローリアはきっとその優しさが耐えられない。グローリアの中に留めたままで皆の好意を受け取ることはグローリアにはきっと難しい。ぎしりと、胸の奥が軋む音がする。


「あなたが決めなさい、グローリア。あなたが彼女たちを信じているのなら、わたくしは何も言わない。それに他の部分は知らずとも王弟殿下のお気持ちだけであれば知っている者は知っていることだから。陛下も知っていることよ………セシリア様もね」

「そんなこと!!!!!」


 グローリアは愕然とした。国王陛下も王妃殿下も王弟殿下の気持ちを知っている。母が知っているのならきっと父も知っているし、きっと重鎮たちも、側近であるベンジャミン達も皆知っているはずだ。知っていて彼らは皆グローリアを王弟妃に望んだということか。それは、それはあまりにも――――。


「そんな!!!だってそんな………殿下は、殿下は今までどんなお気持ちで………!!」


 グローリアは堪えきれずに悲鳴のような声を上げた。

 あまりにも、王弟殿下に対して惨いではないか。確かに王族として婚姻を結ばねばならないこともあるのだろう。だが父は言っていた。王弟殿下の叔父、先王陛下の弟君は亡き婚約者への思いを貫いて今も独身のままだと。なぜそれが王弟殿下に許されないのか。


 相手が王妃殿下だからだろうか。王妃殿下に横恋慕をしているのが駄目なのだろうか。だが王弟殿下は何も悪いことはしていないではないか。むしろ自らの身を犠牲にして国を守っているではないか。ならばなぜ、せめて思いを大切にすることくらい許してあげられないのか。なぜ、どうして。


「あなたはそれでも、ライオネル殿下のお心を思ってあげられるのね………」

「だってあまりにも、こんな……あまりにも……!!」


 知っていて、分かっていて、皆王弟殿下に犠牲を強いているというのか。

 いや違う、グローリアにも分かっている。誰も王弟殿下に犠牲など強いていないだろう。むしろ誰もが王弟殿下の幸せを祈っているように見える。

 だが、王弟殿下自身がそれを望んでいない。独身を貫き、思いを貫き、王妃殿下のため、国のために生きたいと望んでいるように見える。だからグローリアは駄目で、だからグローリアは無理なのだ。


「ふ、ぅ………殿下………!」


 じくじくと鈍く痛んでいた胸が今は突き刺されるように痛い。痛くて、痛くてたまらない。

 グローリアには何ができるのだろう。こんな痛々しい生き方しかできない王弟殿下にグローリアはいったい何をしてあげられるのだろう。

 愛しても同じ気持ちを返されることは生涯無いと分かっていて、グローリアはいったい何を差し出すことができるのだろう。


「ああでも、あなたなら、もしかしたら………あああ駄目ね、ごめんなさいジジ。わたくしの、愛しい娘!」


 ついに母の目から涙がこぼれた。薄い青の瞳からほろほろと流れ落ちる涙を見て、グローリアは耐えきれず母にしがみついた。ぎゅっと、母はグローリアを抱き留め強く抱きしめると、「ごめんなさい、ジジ…!」とまた震える声で謝った。


「お母さま……ああ…………あああ、あああああああああ!!」


 本当に痛い。あまりにも痛い。王弟殿下の生き方はなんて凄愴で痛ましいのだろう。もしも今までの献身の全てが王妃殿下を思うがゆえだとしたら。王妃殿下の幸せを守るための犠牲であるのだとしたら。それは何て、何て………。


――――痛くて、気が狂ってしまいそう……。


 心は悲鳴を上げるのに、どうやっても目を逸らせそうにない。とてもでは無いがこんなもの、ひとりでは抱えられそうにない。グローリアの痛みも、王弟殿下の痛みも、何もかもだ。

 王弟殿下はどれほどの痛みをひとり耐えてきたのだろう。王弟殿下の側近たちは、苦しむ主をどれほどの間、どんな気持ちで支えてきたのだろう。


 グローリアの身を苛む痛みがグローリア自身の痛みなのか王弟殿下の痛みを思ってのものなのか、母の胸でただただ慟哭するグローリアにはもう分からなかった。



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