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ある王宮の日常とささやかな非日常について(シリーズまとめ版)  作者: あいの あお
第六章 アマリリス令嬢の恋と友情、ぬいぐるみについて

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99.告白


 グローリアはいったいどんな表情をしたのだろう。唇を尖らせてグローリアを見つめていたモニカの目が大きく見開かれ、みるみると眉と口角が下がっていく。


「グローリア…どうしたの?」

「モニカ……わたくし、……わたくし完全に、殿下に拒絶されましたのよ」

「え!?」

「家も血も政治も何も関係なく、わたくし自身が拒絶されましたの」


 何とか微笑みを作ろうとするのに公女として、淑女として鍛え上げたはずの表情筋が上手く働いてくれていない。泣き笑いのような顔でグローリアが言うと、モニカが困惑した顔でふるふると首を横に振った。


「どういうこと……?」

「わたくしは……」


 何から話せば良いのか、どこまで話して良いのか。何とか言葉にしようとするも、やはりどうしてもうまくいかない。「ゆっくりで良いのよ」と、モニカが震えるグローリアの手をそっと包み込んでくれた。


 まだ、涙するわけにはいかない。グローリアは、モニカにだけはどうしても言わねばならないことがある。

 なだめるようにグローリアの手を握ってくれるモニカの手にもう片方の手を重ね、グローリアはまっすぐにモニカの目を見た。


「ごめんなさい、モニカ。わたくし、王弟殿下を殿方としてお慕いしていたようですの」

「ええ、知っているわ。わたくしだけではなくドロシアたちもベルトたちもみんな気づいていてよ?」


 グローリアの一世一代の告白に、モニカは何を今更とばかりに頷いた。


「え!?そうですの!?わたくし、やっと先週気が付きましたのに!?」

「ああ、そうね。それも知っていたわ。グローリアはまだその辺りに疎いようだったから見守りましょうってみんなで決めていたのよ」


 モニカはそう言って肩を竦め、「馬鹿ね、まさかまだ気にしていたの?」と苦笑した。

 つまり、自分の気持ちに気が付いていなかったのはグローリア本人だけ。他の皆は分かった上でグローリアが自分で気づくまで黙って見守っていてくれたということか。


「そう、でしたのね……」


 グローリアは遠い目になった。いつから皆は気付いていたのだろう。モニカは、いつから気付いていたのだろう。


「それでどういうこと?何があったの?」


 モニカに促され、グローリアは遠のきそうな思考を何とか立て直し頷いた。


「詳しいことはその…言えない範囲なのですけれど」

「ええ、聞かないわ聞きたくないわ」


 わざとらしく眉をひそめふるりと肩を震わせたモニカにグローリアは思わず笑った。重ねられた手の温もりと若草の瞳の温かさに、グローリアの胸のもやがほんの少しだけ言葉になった。


「言えないのですけれど……ですがもう、無理だなと、思わされましたのよ」


 言葉になったもやを何とか吐ききると、今度は目からも溢れそうになってしまう。グローリアが慌てて俯き瞬きを繰り返していると、モニカががばりと起き上がり両手で頭を抱えて叫んだ。


「ああああ!駄目ねこれ!聞かないと分からないけど聞くのも駄目だから気になるけど聞けないけど聞きたいわ!!」


 あーもう!!とモニカは頭を抱えたままふるふると首を横に振り続けている。


「まぁモニカ……お聞きになります?」


 答えは聞かずとも分かっているのに、グローリアはあえて聞いた。モニカはぴたりと動きを止めると一度ぎゅっと目を瞑り、息をひとつ吐いてグローリアに向き直った。


「わたくし個人としては聞きたいわ。グローリアの思いを共有したいもの。………でも駄目ね、ベルトのためにも、聞けないわ…」


 ごめんなさい、と唇を噛みしめるモニカにグローリアは頷き微笑んだ。

 それが正解だ。モニカはこれから隣国の王子妃となる。いくらベルトルトが臣籍に降るとはいえ中枢にいることに変わりはない。その妻であるモニカが王国の深い事情を知ってしまえば当然動きも規制される。下手を打てばこの婚約自体が無くなるだろう。婚約を継続できたとしてもベルトルトまで様々な思惑に巻き込まれるのは必至だ。

 天秤にかける意味すらないはずなのに、それでもグローリアの心に寄り添いたいと自らの心を痛めてくれるモニカの気持ちがグローリアには何よりも嬉しかった。


「ねえ、グローリア。気持ちは伝えたの?」


 グローリアには見えないように目尻を拭ったモニカが顔を上げるとグローリアのカップに紅茶を注いだ。いつの間にか空になっていたようだ。


「いいえ。伝える前に拒絶されましたもの。これから伝えようとしても伝えることすら許されないと思いますわ」


 ありがとう、と微笑むとグローリアはカップに口を付け、それからふるふると首を横に振った。


「そこまでなの?」

「はい、そこまででしたわ」

「そう……それは確かにグローリアは要らないわね、姿絵」


 グローリアの膝に乗せたままだった官報を手に取ると、モニカはじっと小さな挿絵を見つめた。顔は描かれていないが、手を取り寄り添いお互いを見つめ合うその絵はとても親密そうに見える。その際になされていたふたりの会話の内容を知らなければ、だが。


「いつか良い記念だと思えるようになった時には欲しくなるかもしれませんわね」

「ひとつあればいつでも模写はできるものね」

「ええ、その通りですわ」


 グローリアはカップをサイドテーブルに置くとぽふり、と背のクッションに沈みこんだ。


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