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ある王宮の日常とささやかな非日常について(シリーズまとめ版)  作者: あいの あお
第六章 アマリリス令嬢の恋と友情、ぬいぐるみについて

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82.海賊の国


 グローリアは知りたいと…受け止めたい、支えたい、並び立ちたいと思う。ほんの少しでもいい、王弟殿下の重荷をグローリアも分かち合いたいのだ。ベンジャミンたちと同じように、グローリアも共に。

 今のグローリアではきっと何もかもが足りないと分かっている。けれど辛いからと耳を塞げばいつまでも追いつけぬままだ。いつまでもきっと認めてはもらえない。


 グローリアが唇を引き結びじっと王弟殿下を見つめていると、王弟殿下が困ったように、けれど少しだけ嬉しそうに笑った。頭を撫でていた手をグローリアの頬に添え、流さぬよう涙を湛えたままの目尻を親指でそっと拭った。


「そうかよ……。じゃぁ無理だと思ったらすぐ止めろ。それと、アドラムと反乱の詳細については今日はこれ以上話さない。いいな?」


 きっとまだ深い話には耐えられない。グローリアも、恐らく王弟殿下も。全てを聞くにはまだまだきっと覚悟が足りない。それでもいつかは全てを聞かせて欲しい。その思いも込めて、グローリアはこくりと、首を縦に振った。


「良い子だグローリア」


 王弟殿下は笑みを深めると、仕切り直すようにまたグローリアの頭をぽんぽんと撫でて新しいカップに手を伸ばした。グローリアもそれに倣いほのかに甘い蜂蜜入りの紅茶をひと口含むと静かにカップをソーサーに戻し王弟殿下の方を向いた。


「ウェリングバローな。あそこは元々アドラムの領地だったんだ。今王領なのはアドラムが反乱の本拠地にしたのもあるが、西に対する牽制でもあるんだよ」

「牽制……?」

「ああ。西はな、意図的にではないが結果として反乱に加担したんだよ」


 南部の大森林を越えた向こうに国境を接する隣国。皇国と呼ばれる国の一部貴族とアドラム侯爵は共謀し、優先的な貿易権と国境監視の緩和を条件に、低くはあるが直系が王位継承権を持つアドラム侯爵家が王位簒奪を謀ったと、表向きにはされている。


 皇国から我が国へ至る道筋は四つ。正直に南のサザーランド辺境伯家の守る国境を越えて至るか、間にある内海を渡り大森林を抜けて至るか、同じく南に国境を接する神聖国へ一度入り神聖国から大森林を抜けるか。そしてもうひとつ。海を越え、西の領地から上陸して至るかだ。


 公式には、皇国は岩場の多い難所ばかりの内海を渡り大森林の西の境界を抜けて多くの人を送り込んだことになっている。実際に内海には多くの船の残骸が残されており侵入しようとした形跡がいくつも見つかったらしい。

 だが、あまりにも入り組んだ難所であるため大きな船は当然通れず潮の流れも複雑なため小舟も辿りつけるかは運次第だ。大森林は広く危険な獣も多く、何より多くの少数民族が暮らしており彼らの領域を無暗に犯せば命は無い。けれども皇国から秘密裏に人は入り反乱は起こされた。もしもその侵入経路が実は西の領域で、それがわざと見逃されていたのだとしたら。


「あ………では、ウィルミントン海洋伯家がずっと茶会に出ないのは」

「そうだな、出ないんじゃなく出られなかったんだ」


 王弟殿下はひとつ頷くとベンジャミンに視線をやった。ベンジャミンは少し本棚を探すとすっと、二枚の地図をテーブルへ広げた。


「当時は海賊がかなり勢力を強めていたからな。人手が足りず、西側は通常であればいるはずの無い大森林からの侵入者を見逃しただけってことでウィルミントンに対する重い処罰は無かった。表面上はな」


 言いながら、王弟殿下がある一点をとんとん、と指で叩いた。そこは南の大森林と西の領地のちょうど境目、現在は王家直属の海軍も含めた大きな軍事施設が建っている場所だ。もう一枚の地図を見ればそこは西の領地になっている。現在と、十年前の地図ということか。


「だが、別の思惑があったとはいえわざと見逃すという形で結果的には介入してしまったからな。裏ではそれなりの罰があった。そのひとつがここの領地の没収と、それから王宮への出入り禁止だな」


 十年前の反乱を機に、皇国からの不正な侵入をさらに強固に防ぐためという名目で西の領地と南の領地の境目が王領となり国の軍事施設が建てられた。皇国の侵入を防げなかったことへの謝罪として西と南の両領主が領地の一部を献上したことになっているが、地図を見れば明らかに西側の領地が多く削られているのはそういうことなのだろう。


「ウィルミントン海洋伯家は何を目的として皇国の侵入に目を瞑ったのでしょう?」


 他国の侵入を許すなどどのような理由があれど許されるはずがない。人手が足りず見逃したのならあり得るだろうが意図的ならばなぜ、表から断罪されることが無かったのか。


「ここ、分かるか?」


 王弟殿下が軍事施設の西南。ぎりぎり、皇国と我が国の間とも言える海の上の大きな島を指さした。


「ここにな、海賊どもの国ができたんだよ」

「まぁ、海賊の国ですの」

「ああ、国って言っても強い海賊団が頭になって他の海賊団を束ねたような集団って感じだったんだけどな、その頭ってのが中々に頭の切れるやつでな。うまいことこっちの目を掻い潜って商船を襲い村を襲い好き勝手やってやがった。それからここだ」


 今度は北側。オルムステッドの領地と不毛の大地との境目からにょきりと生える半島と周辺に沢山の孤島がある地域を指さす。


「ここにかなり武力の強い海賊団がまた国と言うか集団を作りやがった。当時のウィルミントンは南北から海賊に挟まれて襲われていた状況だった」

「ああ、歴史の授業で聞いたことがございます。かなりの数の船が襲われ、海向こうの大陸との国交が途切れる事態に陥ったと」

「ああ、そうだ。それに殲滅戦ともなれば多くの騎士が軍に組み込まれて駆り出される。そのせいで王都の守りが薄くなった。反乱はそこを狙ったものでもあったんだよ」


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