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ある王宮の日常とささやかな非日常について(シリーズまとめ版)  作者: あいの あお
第六章 アマリリス令嬢の恋と友情、ぬいぐるみについて

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77.茶会と見合い


 ベンジャミンに言われた通り、グローリアはここにいると自然と頬が緩むのを止められない。いや、ここでは止めなくても良いのだと、グローリアは心のままににっこりと笑った。


「ふふふ!ならば良いのですわ殿下。さぁ、教えてくださいませ、あのお茶会の裏のお話」


 にこにこと詰め寄るグローリアに、あー、はいはい、と面倒くさそうに言いつつも王弟殿下が笑った。仕方がないなぁ、と表情が言っている。


「え、あれ、素なんですか?」

「ええ、素なんですよ」

「天然小悪魔ってやつですか?」

「女神ですから更にたちが悪いです」

「夜会とか出るようになったら絶対にまずいですよね」

「ええ、非常に。防衛線だけは張っておかないと」


 今度は正しくひそひそと側近たちが小さな声で話している。聞こえにくい上に良く分からない内容にグローリアは首を傾げた。


「…?夜会ですの??」

「おいこらグローリア。気を散らすな。茶会の話だろ」


 ついついグローリアがベンジャミン達の方を振り向くと、王弟殿下にきゅっと頬を摘ままれた。


「あ、申し訳ございません殿下。何でしたかしら?」

「まだこれからだよ」


 やはりどこか不機嫌そうに王弟殿下が目を細め、新しいお茶に手を伸ばした。 


「嫉妬ですかね?」

「しー、アニー。そろそろ始めさせてあげましょう」


 今度のひそひそ話は大きな声だ。グローリアにもしっかりと聞こえた。


「……くっそ、覚えてろよ……」


 カップを音もなくソーサーに戻し、王弟殿下が小さく呟いた声はグローリアにはもごもごとよく聞こえなかった。グローリアが聞き返そうかと思ったところ、王弟殿下がぽん、と両手で両膝を叩いた。


「でだ、茶会だな」

「あ、はい。お願いいたします」


 何から話すかぁ、と王弟殿下が腕組みをして目を閉じ、また天を仰いだ。


「まずはそうだな、俺は見合いを断った」

「はい、それはすでにうかがっておりますわ」


 王弟殿下は視線を正面に戻すと、背もたれに寄りかかったまま言った。距離は取っているが横に並んで座っているため少し話をしづらい。体を斜めに向けてはいるが、どうにも王弟殿下の表情が見づらいのだ。覗き込めば見えるのだろうが、それはそれでどうなのだろう。


「そうだな。お前の見合いも無くなってる。断る断らないじゃなく、消滅だな」

「消滅でございますか?」

「ああ、ウィルミントン令息は嘆願通りウィルミントンから除籍になった」


 除籍とはつまり、籍を外されるということ。ウィルミントンの家系図から名前が消されるということだ。


「平民になられましたの?」

「ああ、平民になった上で神殿に放り込まれる」

「まぁ、神殿に」

「市井に放逐すると何をしでかすか分からないからな、これ以上やらかさないように実質、監禁だな」


 ずいぶんと穏やかでは無い話にグローリアはぱちくりと目を瞬かせた。除籍になるようなことなので当然穏やかなわけもないのだが。


「やらかす…でございますの?」


 難しい顔をして正面を向いている王弟殿下を見やると、王弟殿下はちらりとグローリアの方へ視線をやり、そうして再度前を向いた。


「あー、そうだな。色々あるんだが………簡単に言うと、あの年ですでに庶子が五人いる。分かってるだけでも」

「なんですの!?」

「ちなみにだが、被害者は被害当時ほぼ十代で一部は上手く言いくるめて一部は同意の上ですら無いらしい」


 開いた口が塞がらないとはまさしくこういうことを言うのだろう。グローリアは目も可能な限り大きく見開き、扇を開くのも忘れて口もぽかりと開いてしまった。


「は………な………!?お待ちくださいませ、わたくし、そのような……っ、方とお見合いをさせられましたの!?」


 ぞわり、と全身に鳥肌が立った。茶会での見合いで本当に良かった。そのような相手とふたりきりの見合いなど、想像するだけでもグローリアの背をおぞましさに震えが走る。


「あー、まぁ、あれだ。事前には言えなかったがお前を餌にして引っ張り出したんだよ。お前の見合いも実際には名目だったわけだ」


 正面を向いたまま言い切ると、王弟殿下はカップを上から掴みそのままぐいっと飲み干した。ベンジャミンがすかさず次を注いでいる。


「なんてこと……仰ってくだされば良かったのに……!」

「いや、俺がそれを聞かされたのも当日の朝なんだよ。俺に先に言ったら阻止されるからって」


 またちらりとグローリアに視線を向けると、王弟殿下は苦虫を噛みつぶしたような顔で「ったく、ふざけんな」と小さく呟いた。


「は……なぜそんなことに?」

「どこまでが本当か分かってなかったんだよ。庶子についても訴えはあったが証拠が無くてな。その他の問題についても証拠が無かったから無理やり拘束ってのもできなかったらしい」

「証拠が無い?」

「ああ、アレはクズの上に阿保だがそういうところだけは知恵が回るらしくてな。うまいこと追えないように隠ぺいしてた」

「まぁ………」


 現場を取り押さえない限り、こういった類は立証が実に難しい。たとえ生まれた子がウィルミントン令息と同じ色でよく似た顔立ちでも、似ているだけだと言われればそれまでとなる。特に、女性側の立場が弱ければ弱いほどだ。


「茶会でお前に無礼を働けばそれを理由に間違いなく拘束できる。それも含めての打診だったらしい」

「それの発案は?」

「………聞くか?」

「………一応」

「兄上だな」

「ですわよねぇ」


 効率、という意味では間違っていない。それほどに女性が好きならば国一番の美姫と名高いグローリアは良い餌となるだろう。それにしても、だ。陛下は国民を一体何だと思っているのだろうとグローリアは口元を手で隠し小さくため息を吐いた。


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